評価制度づくりの目的と五原則

2008.08 Whenever天津誌 掲載

とうとう北京五輪の季節を迎えました。日本では、北京五輪を中国ビジネスの大きな節目と注視してきたこともあり、感慨深いものがあります。企業としては、物流や人の移動でかなり影響が出ていると聞きますが、対外活動が制限を受けている分、社内固めの好機と考えてみてはいかがでしょうか。

さて、前回は「制度づくりは評価が先か給与が先か」について考えました。多くの場合、まず評価制度に取り組む方がスムーズだと結論づけましたが、そもそも何のために社員を評価するのでしょう。

  • 昇給を決めるため
  • 賞与を決めるため
  • 昇進昇格を決めるため

……評価結果は、こういったことに用います。ですが、これらは「評価の結果を何に使うか」であって、評価の目的そのものではありません。評価の目的は、「当社が求める社員像を明らかにし、社員一人ひとりが、求める社員像に向けてどれだけ成長したか、貢献したかを確認すること」です。

つまり、昇給・賞与・昇進などのために評価を実施するのではなく、評価そのものに意義があるということです。求める社員像とは、仕事姿勢・能力・実際の行動・業務成果といった要素を含み、各社員がそれに近づくほど、あるいはそれを超えるほど、会社が成長し、利益を創造できる社員の姿です。

絶対的な理想像があるわけではなく、経営者が中心となり「当社にとっての求める社員像とは」を描き上げるものです。こうして描いた「当社の求める社員像」であれば、一人でも多くの社員が、これに向けて成長することで、確実に会社は成長・発展し、処遇として社員に還元できる原資も大きくなります。

つまり、原資をどう分配するかよりも先に、原資をどうやって増やすかを明確にするのが評価だと言えます。もちろん、原資を公正に分配・還元することも非常に重要ですが、これは、評価制度と給与・賞与制度、昇進昇格制度の連動方法で設計することになります。

評価制度づくりの五原則

では、評価制度づくりにどう取り組むかですが、原則が五つあります。

  1. 社内公開できる制度にする
  2. 評価要素は現場で発見する
  3. 評価基準は素人も区分可能に
  4. 評価はチームで実施する
  5. 必ず本人にフィードバックする

今回と次回にわたり、各原則の内容を確認したいと思います。

なお、私は日本の人事制度づくりを大きく変えた松本順市先生に私淑しています。人事制度に大きな疑問と不満を持っていた私を啓蒙したのは、松本先生の著作でした。日本で制度づくりを主導する立場にある方は、ぜひ松本先生の著作や人事制度塾に触れることをお薦めします。

(1)社内で公開できる制度にする

評価制度づくりの原則(1)は、「社内で公開できる制度にする」ことです。と言っても、社員一人ひとりの評価結果まで公開するという意味ではありません。評価要素と評価基準を事前に公開するということです。

これは一番大切な原則です。社員にとって事前に評価要素や基準を理解していることがどう重要かは、スポーツの試合を考えれば分かります。水泳のシンクロや、フィギュアスケートは評価要素や基準が分からなければ、練習方針も立てられません。

かつて日本勢が一世を風靡したスキーのノルディック複合やジャンプは、評価要素や基準に応じた作戦を確立したことで常勝軍団となりました(その後、まさにこの評価要素・基準が変更されてしまったことで勝てなくなりましたが)。

これを企業で考えると、評価要素や基準が分からなければ、社員は会社が自分に何を求めているのか分かりません。

今期どんなことに挑戦し成長すべきなのか、何を期待されているのか分かりません。現場で部長から指導される内容に基づいて毎日作業していたのに、期末評価では上司から指導も注意も受けたことがない要素が加味されていた……これでは現場で上司の指導を信頼しなくなります。

ですから、評価対象期間の前(1~6月期であれば1月まで)に、今期の評価要素と基準を社員に明示することは、適切な評価要素の設定以上に重要と言えます。経営者としては、後付けで調整したい誘惑も出てくるでしょうが、ぐっと抑えて微調整に留めてください。調整するなら来期から。来期の最初に「今期はこう調整する」と表明してください。

(2)評価要素は現場で発見する

すでに何らかの評価制度があり、公開の重要性が分かっているのに、なかなか事前に評価要素・基準を明示できない。このような企業は少なくありません。

原因は、「いまの評価要素・基準について、実は社長もスッキリしていないから」ではないでしょうか。

評価要素や基準を日本本社から持ち込んだ、先に進出していた日系企業から見せてもらった、書籍や専門家の話を参考にした、といった場合に多いようです。他社で有効・適切な評価要素でも、自社社員の情況に合っていなければ意味がありません。時には逆効果となります。

では、社長がスッキリできる評価要素をどう選ぶか。解決策は会議室ではなく現場に埋もれています。各部門・職層には、社内でエースと呼べる社員がいるはずです。全部を兼ね備えていなくても、ある業務・知識・技能・仕事姿勢で社内の模範になる社員がいます。

彼らの観察やヒアリングで、一般社員と彼らでは何が違うのかを見極めます。また、自社とライバル他社を比較し、何が顧客の評価を分けているのか、何が違うのかを社員の業務活動の観点から分析します(評価が高い場合も低い場合も)。

こうして明らかにした、エースと一般社員を分ける要素、自社とライバル他社を分ける要素が、評価要素の中核となります。社内に習慣・風土として定着した要素は、評価で改めて喚起しなくても自然と新入社員に浸透しますので外して構いません。

また、求める人材像に照らして優先度の低い要素も外しましょう。評価要素が多くなると社員の意識を集中させにくくなり、結局どれも中途半端になってしまいます。

次回は原則(3)~(5)について考えます。

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