コラム
人手不足解消で組織崩壊?! 急激な人員増が招く内部混乱
日本では慢性的に人手不足な会社が多いと聞きます。また、成長ステージに入った企業や事業では、常に人員が足りません。ただ、組織を急に増員すると、そのために内部崩壊することがあります。
組織も事業も、成長率が年30%を超えるとコントロールが難しいと言われます。急激に人が増えて顔を覚えられない。教育まで手が回らない。外向きの対応に忙殺されてルール通りの管理ができない。見直すべき課題があっても後回しになる。こんな理由で一気に混乱が広がります。
こういう時期は組織の規律がゆるみ、士気が下がり、向かう先を見失いがちです。今回はどうやって事態に対処し組織の崩壊を予防すればいいか、考えてみます。事業が軌道に乗り始め、これから組織の拡大に向き合っていかなければならないリーダーに読んでほしい回です。
また、総数は増えていないけれど、流動性が高く、よく人が入れ替わるという職場にも当てはまる部分が多いと思います。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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急激な成長の副作用
急激な成長のリスク
日本はどこも人手不足で、急激な人員増なんて夢のまた夢という向きもあるかもしれません。人手不足と人員増による混乱はどちらもつらいですが、最終的に事業にとってダメージが大きいのは人員増の失敗による内部崩壊の方だと思います。
組織が急激に拡大する時にはどんなリスクがあるでしょうか。昔から組織論の世界では、組織の拡大スピードが年30%を超えるとコントロールできないと指摘されます。例えば、100人の組織が1年間で130人に増えるようなスピードで拡大していると、コントロールできなくて危険、ということです。
新人が大量流入
なぜ危険なのか掘り下げて考えてみましょう。組織の拡大時に入ってくるのは自社にとっての「新人」。既存のメンバーからすれば、教育の手間が激増します。
人数は30%増でも、過去5%程度の増加が30%に上がるということは、単純計算で新人数は6倍。教育の手間も6倍に。新人教育を任せられる人はたいてい職場の主戦力である先輩や上司なので、彼らの本業以外の負荷が増大していきます。
新人に対する指示の手間も大幅に増えます。まだ自分で判断してできる仕事はないし、勝手に判断されてはむしろ困ります。そうすると最初は全員が指示待ち族です。新人が1人の時と20人の時では、指示の手間は単純に20倍。指示した後のフォローも必要です。こういう手間が大量に発生し、主戦力が疲弊します。
また、一気に大量採用すると、失礼を承知で言えば玉石混淆状態になります。人手不足の折に頑張って採用する時などは、当然ながら今までよりも採用基準は下がります。自社に合う人・合わない人が一緒くたに入ってくる。いろいろ目をつぶった結果、問題社員が社内で増殖してしまいます。彼らは社内、お客様や取引先との間でもいろいろな問題を起こすため、主戦力はこの尻拭いにも追われます。
辞めていく人も大量発生
玉石混淆でいろいろな人が入ってくると、辞めていく人たちも大量に発生します。合わなくて自分から去る人、会社が辞めさせる人、理由なく辞めていく人……。どんどん入ってはくるけれど、入ったそばから辞めていく。
年に30%増えている会社で、ぴったり30%の人数を採用したケースはまずないでしょう。統計はないですが、感覚では倍くらい採っているんじゃないでしょうか。通常の離職も考えると、60%くらいの人員増があって初めて年30%増が実現できるはず。採用した人のうち半分は定着せず辞めていき、結果的に30%増に落ち着くというイメージです。
このような状況では、とても全員は覚えられません。顔も覚えられないまま、入って数か月で辞めていく人がどんどん発生します。
そうなると、以前はチームワークを発揮していた組織がすっかり烏合の衆になってしまいます。お互いに顔と名前が一致しない、人となりもわからない。上司・先輩がどういう指示の仕方をすれば響くのか、その人の得意なことや苦手分野などを把握する前に入れ替わってしまう。そりゃ問題も起きますよね。
辞める前には最低限の引継ぎが発生しますから、その分、また主戦力の手間が増えます。
主戦力が離脱・ダウン
こうして疲弊した主戦力が、いよいよダウンするのが次の段階。会社にとって崩れてはいけない核心が崩壊し始めます。主戦力の離脱は、組織の質の急速な低下を意味します。
これまでは課長やチームリーダーがしっかりしていたから、新人が多少問題を起こしても何とかなっていました。リーダーがダウンしてしまうと、資質のない人にリーダーを任せたり、ただでさえ疲弊している別のリーダーに兼任をお願いしたりする事態に。主戦力がいても厳しかったのに、さらに戦力が低下したら……。状況の悪化は火を見るより明らかです。
組織の質が急速に落ちていくと、お客様・取引先などからのクレームが増え、客離れが加速します。ここまでぐちゃぐちゃになってしまってからトップが事態の深刻度を認識しても手遅れです。もうどうしようありません。
事業本体がぐらついてしまった後は、客離れがいくところまでいって、事業・組織がコントロール可能な規模に収まらない限り、改善は見込めません。最初は事業がうまくいったから組織を大きくするという話だったのに、やり方を間違えたせいで組織も事業もおかしくなって、拡大前の状態を下回るレベルまで崩れ落ちます。
慢性的な人手不足で事業が拡大できないという事態もこれはこれで深刻ですが、クレームの増加スピードを考えると、組織が急激に拡大する時期の方が会社にとってのリスクは高いです。壊れ方が激しく早い、これが状態をコントロールできなくなった組織の末路だと思います。
人員増による混乱を避けるために
①30%ラインを認識しておく
人員急増による組織の混乱を避けるための施策を簡単に押さえておきます。
まずは経営者・起業家・リーダーが、ここまでに列挙したような事態が起きうると認識しておくこと。30%ラインを意識していれば、早く手が打てるはずです。
事業が拡大しているために舞い上がってしまった経営者が何も考えずに人を増やしていると、いずれ組織は大混乱に陥ります。まずは自分たちがどの段階にあるのか、トップが認識しておくことがまず重要です。
②主戦力の疲弊回避を最重視
主戦力の疲弊や離脱は会社に致命傷を与えます。人を増やす時は、上司、先輩、既存メンバーに過重労働を強いる事態にならないよう、トップが細心の注意を払うべきです。
メンバーと対話して状態を把握する、強制的にでも休ませる環境を作る、一人の教育係に新人が集中しないように分散を図る。さまざまな手段を使って主戦力をケアし、「追い込まれるまでやる必要はないからね」とメッセージを出し続けます。
主戦力がダウンしないためには、トップが継続的に応援・支援・支持を続けることが非常に重要です。これが抜けてしまうと、せっかく増員しても組織は現状以下に落ちていきます。
③戦力化の期間を仕組みで短縮
入ってきた新人が、教育される側・指示待ちの側にとどまる期間が長ければ長いほど状況は悪化します。ここは仕組みを使って、新人を戦力化する期間を短縮しましょう。
今まで一人前になるのに3年かかっていたのを、さまざまな仕組みを取り入れることで、1年→6か月→3か月で自立できるように短縮していく。仕事の切り分け方や分担の仕方を変えることで、特定の機能だけ3週間で戦力化する、というような工夫もできます。
新人の最速戦力化は過去に動画で話したことがあります。ぜひ見てみてください。
④教育を省人化・仕組み化
新人教育の省人化・仕組み化に取り組んで、既存メンバーの負担をできるだけ増やさないようにします。新人が単独でも学べるように文章化する、チェックリストにする、動画を見せる、アプリを導入するなど、さまざまなやり方が考えられます。とにかく主戦力が疲弊しないことを優先に、教育のあり方を見直します。
⑤クレームが発生しない新人配置
クレーム対応は手間もかかり、客離れを招けば事業にも影響を与えます。まずはクレームが発生しないように、対応が難しいところにいきなり新人を配属しないという対策も有効です。
昔の日本の職場では、わざと新人に電話取りをさせ、度胸試しのようにして慣れさせていました。これは完全に悪手だと思います。だいたいお客様に失礼ですし、不要なお叱りを受けたり、後から先輩が尻拭いをすることになったりします。
牧歌的な時代はそれでよかったかもしれませんが、今の時代、急速に拡大する必要がある組織でそんなことをしている余裕はありません。
クレームが起きやすいところは主戦力が対応して、その後ろでサポートする仕事や補助的な業務に新人を配置する。そうして混乱に拍車をかけないようにする手当ては必要だと思います。
今日のひと言
組織を肥満させてはいけない
今回取り上げた内容は、すべて経営レベルの課題です。事業拡大を判断した経営者・起業家・リーダー自身が主導して取り組むべき課題であることを、ぜひとも認識しておいてほしいと思います。人事や中間管理職に丸投げしていては、主戦力にまた新たな負荷をかけることになりかねません。
拡大局面でやり方を間違えると、組織の肥満を招きます。組織の健康状態が悪化しないように、30%ラインを超える組織拡大を図る会社は特に注意してくださいね。
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この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。