コラム
最終回…これまでの感謝とこれからの応援を込めて
2006年から書いてきたこのコラムも最終回となりました。初回の頃には、まだ労働契約法も労働仲裁の関連法規もありませんでした。中国最初の新幹線(高鉄)は開通しておらず、中国のGDPは日本に次ぐ第三位でした。隔世の感ではなく、隔世そのものです。
今回は最後なので、中国の最前線で奮闘する皆さんに、いま一番言いたいことを書きます。
まず、中国というのは、事業を育て、継続的に発展させていくには、かなりハードな環境です。なにせ内外の環境変化が激しく速い。販売もコストも人材獲得も競争がどんどん激化する。知財や資金回収や労務など紛争の種もたくさんある。社員だっておとなしく、指示されたことを黙々とやるタイプばかりではない。本気で取り組んだら、白髪が増えたり酒量が増えたりして当然です。
しかも、経験した人でないと、この大変さは分からない。日本の皆さん、欧米帰りの皆さん、東南アジアの長かった皆さん。それぞれに大変さはありますが、外交関係も政策も取引先も労働者も気を張っていないといけない仕事環境は、そうそうありません。
そんな環境で仕事と向き合う皆さんは、リタイアせず帰任まで務めきるだけで十分すごいです。思う通りにならないこともある。周囲の無理解もある。でも、中国で事業経営に失敗したら帰る場所がない中、悪戦苦闘・試行錯誤してきた私には、その大変さが身に染みて分かります。
見方を変えると、皆さんは「世界の最先端」にいます。日経新聞でもヤフーニュースでも、中国の記事が載らない日はありません。政治・政策・経済・国際・産業・企業・投資・テクノロジー・社会・食・ファッション……。関心の角度は違うし、無自覚かもしれませんが、日本人にとって中国は最重要関心事の一つです。それだけ大きな影響力を持っていると言ってもいい。米国より記事数・情報量は多いんじゃないでしょうか。
そして変化が非常に激しい。10年前や5年前の情報でいまの中国は掴めない。それどころか4か月前(ゼロコロナ時代)の認識すら通用しない。そんな中国で、皆さんは現地・現物・現実に触れる立場にいる。これは仕事人としても、次世代に何かを伝える立場としても、大きなアドバンテージだと思います。
大変な環境で、思うようにならないことが山積で当たり前なわけですから、ここは発想を切り替えて、現地で見るもの・聞くもの・触れるものを満喫してください。俳句もサッカーも、制約があるから面白い。文字制限のない俳句、手を自由に使えてオフサイドもないサッカー。面白さがなくなりますよね。皆さんも、仕事の制約に神経をすり減らしたり、疲弊したりするのは損。びっくり体験・衝撃体験も、誰かに語る格好のネタとして楽しんでしまいましょう。
とは言っても、実務で問題やトラブルが起きれば、それに気力も時間も取られますよね。このコラムはこれで一区切りつけますが、私もDACも「野戦病院」「駆け込み寺」として、いままで以上に攻めた応援をしていくつもりです。情報発信もどんどん増強しています。毎週、実務をテーマにした動画を公開していますし、半私信レターもお送りしています。無料ですから、試したことがないという方は一度見てみてください。同じような仕事をしている方から「これを無料で提供するなんて!」と言われたこともあります。机上の空論でないことは保証します。
さていよいよ最後の最後。これまでこの場を提供し続けていただいたJIN発行に携わる皆さん、そして何より、お読みいただいた皆さんに深く感謝します。私の本格的な執筆人生は、このコラムから始まりました。皆さんがいなければ、書き続ける勇気と根気は絶対に生まれませんでした。ぜひ、生の中国を楽しんでください!
2023.03 Jin誌
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この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。