コラム

中国で就業規則を軽視する経営者はバカ【中国駐在サバイバル】

2025年10月17日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

中国拠点における就業規則の重要性を語る回。就業規則は中国労務管理の最優先課題です。にもかかわらず「ウチにもあるよ」程度のノリで済ませている駐在員の多いこと!

日本と同じ感覚で軽視(日本でもダメですけど)すると想像以上に痛い目に遭います。「おい、人事の責任者、読んでおけよ」じゃないですよ。現地経営者が自分で知っておかないといけない話ですからね♪

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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私が中国で就業規則を軽んじる経営者をバカだと思う理由

品質・コスト・納期・拡販…すべて現地社員次第

タイトルから口が悪くてすみません。バカが出てしまいました。これは別に刺激的な見出しを狙ったわけではなく、ホントにそう思ってるんです。まずは「なんでそこまで言うんだ」という話から。

現地でモノを作るにしても売るにしても、核心的に重要なことがいくつかあります。品質・コスト・納期・拡販などですね。これらを現地で高めるためのカギは、何と言っても現地社員たちです。

彼らに依存せずに、品質・納期が確保でき、コストを抑え、市場開拓や拡販ができるなら、今回の話は不要です。でも、それには完全なる自動化や外注化が必要。そしてそれができるなら現地拠点はそもそも不要なはず。

現場は機械に任せたり外注業者を使ったりしていても、それをコントロールしているのは現地社員。品質・コスト・納期・拡販など事業のカギを握っているのはやっぱり現地社員たちです。

就業規則は社員の「挑戦・成長・貢献」の大前提

環境変化に適応して事業を継続的に発展させていくためには、現地社員の変化・挑戦・成長・貢献が不可欠です。

ただ、こういったことを追求してもらうには、その大前提として規律・ルールの徹底があります。

私が規律徹底と言い出すと、懸念を示す駐在員もいます。「ウチはガチガチに規律で縛るつもりはない。厳罰主義では職場の雰囲気も悪くなる。そんなことより、優秀な人材に活躍して結果を出してもらいたい」。

これは本質を外しています。「規律徹底」と「厳罰主義」はイコールではありません。挑戦・成長・貢献しようとする人たちが、伸び伸びと仕事に打ち込める環境を作りましょう、と言っているだけです。

「ルール、ルールって、そこまで徹底しなくてもいいだろう」とも言われます。では、規律徹底しない会社風土で誰が得するのか考えてみてください。結局、これで喜ぶのは問題社員。ルール破りをしても平気だとなってしまうと、誠実に守っている人たちが割を食います。問題社員にも「なんでそんなに真面目にやってんの」と嘲笑されかねません。

例えば、スタジアムやフライト。ルールを破る人には無期限入場禁止や永久搭乗拒否など、相当重い処分を含むペナルティを科します。これを厳罰主義とは誰も言いませんよね。なぜなら、ルールを徹底しないと、他の客に迷惑や危険が及ぶからです。むしろ、こういう迷惑行為や危険行為に毅然とした対応を取らないと、企業の側が批判を受けます。

海外拠点も同じ。規律やルールを破る人、他者の利益を不当に自分のものにする人が横行していたら、真面目な人がバカを見ます。また真面目であることが浮いたり非難の対象になったりします。これでは真面目な人たちが本気で仕事に取り組めず、辞めたり腐ったりしてしまいます。

繰り返しになりますが、厳罰主義にして、ギスギスしてもいいから規律を徹底しようと言っているわけではありません。頑張っている人が正当に報われる環境を作らないと、誰も頑張ってくれなくなりますよ(それどころか職場環境はどんどん悪化しますよ)、ということです。

業績を直接左右する品質・コスト・納期・拡販などは現地社員たち次第。なのに、彼らが本気で挑戦・成長しようと思えなくなるような状態を許していたら、業績が上がるはずもありません。規律の軽視は、つまり業績の軽視です。業績を軽視する経営者。どう考えてもバカですよね。品のない言い方で恐縮ですが、これが今日のタイトルの趣旨です。

中国における就業規則の重要性

ダメもとで労働仲裁

規律徹底のために不可欠なのが、会社のルールを定めた就業規則です。中国において就業規則がどんな位置づけで、どれくらい重要なのかを押さえておきましょう。

中国で労働者や雇用主が労働契約に関わるトラブルを抱えると、基本的には労働仲裁に訴えることになります(ざくっと言うと、日本の労働裁判の第一審的な位置づけ)。

日本の厚生労働省によると、中国の労働仲裁の処理件数は2016年で年間80万件を超え(『2018 年海外情勢報告』)、現在はさらに膨大な件数になっていると言われます。

ここまで増加した事情は割愛しますが、今の中国の労働者はとにかく不満があれば労働仲裁に訴えます。仮に認められなくても訴える側はコストがかからないので(自分で弁護士を雇えば別)ハードルは高くありません。

解雇され、身に覚えはあるものの、万一勝ったら賠償金が取れるかも、とダメもとで訴える。低い評価・処遇に納得できず、そもそも辞めるつもりだったけれど、このまま辞めるのもしゃくだから嫌がらせで訴える。この程度の動機の人たちも少なからずいます。

また、仲裁を実際に扱う仲裁員(裁判官と同じような立場の人)は、「日系企業は特に仲裁が多い」と指摘します。コンプライアンスを極度に重視し、紛争でも事を荒立てずに解決しようとする姿勢が、逆に足元を見られる原因になっているそうです。

ここでは、現在の中国はちょっと揉めればすぐ訴えられる社会だということを念頭に置いておいてください。

労働仲裁は会社が不利

労働仲裁では会社が不利です。時々メディアに出てくる数字ベースの話だと、厳しいエリアでは9割以上、会社が負けています。全国的に見てもざっと7割から9割くらいは訴えられたら負けると考えていいと思います。

会社が敗訴すると、管理にダメージがあります。管理不当と判断されたら今のやり方を変えなければいけません。同じやり方では別の社員に訴えられ、同じように負ける可能性があるからです。

「アイツが勝ったぞ!」となれば模倣者も出てきます。例えば懲戒解雇され、解雇不当で労働仲裁に訴え、勝って会社から賠償金をふんだくった元社員がいたとすると、他の人も真似します。

「オレも懲戒解雇してみろよ」ということで、元社員と同じ違反行為を堂々とやります。わざと目立つところで挑発して、解雇を狙うわけですね。もちろん自分が負ければ元も子もないので、一線は越えないようにするでしょうが、これはかなり管理に影響します。

仲裁回避の本当の問題

管理が難しくなるのは困りますから、会社としては敗訴はできれば避けたい。すると「仲裁に持っていかれたらまずい」という思いが先に立つ会社も出てきます。訴えられたら負ける(かもしれない)となり、解雇などの厳しい処分を避けるようになります。

仲裁を回避しようとするあまり、本当は解雇したい社員もズルズルとそのまま置いておく。これはまずいです。会社が仲裁を避けたがっていることが分かると、問題社員たちは堂々と悪事を働くようになります。「どうせ切れないでしょ。分かってるよ」というわけです。

仲裁を起こされて敗訴するのもやりにくいですが、だからと言って仲裁を回避していると、いずれ問題行為が横行し、真面目な社員たちにしわ寄せがいきます。これが、仲裁回避の根底に潜んでいる本当の問題です。

労働仲裁に負けない方法

会社側の勝率が低いとはいえ、1割から4割は勝てるとなれば、これはやり方次第と言えます。私たちが扱った労働仲裁・裁判案件のうち、会社が受け身も取れずに管理ダメージだけ残して終結したケースはゼロです。何らかの対策を立て、管理面のプラスを生むように工夫しています。

中国における労働仲裁の判断基準

実は仲裁の判断基準ははっきりしています。①就業規則、②法律規定、③弱者保護です。意外にも(?)会社のルール優先なんです。

最初は「会社に明確なルールがあり、本人がそのルールに違反したか」で判断します。会社の就業規則に明文化されていなければ、法律がどうなっているかを見ます。法律にも明確な規定がないと、弱者保護の観点から労働者を支持する、という順番です。

よく中国では労働者保護の観点から企業が不利だと言われることがありますが、実はそうでもないんです。

法律では、仲裁で問題になるような細かいことまで決まってないのが普通なので、勝敗の決め手は実は就業規則。社内ルールが存在しない・明確でないと、ほぼ自動的に労働者支持で会社敗訴です。会社として就業規則を堅実に押さえておくことが、労務管理の成功につながります。

ただ、就業規則も「あればいい」というものではありません。有効だとみなされるためには条件があります。

就業規則の条件

大前提として、内容が合法でなければ認められません。

導入手順の合法性も問われます。本人の知らないルールをいきなり適用するのはアウト。従業員たちに内容案を示し、意見聴取するといった手順を踏んで導入していないと、就業規則の適用は無効とされます。

処分の妥当性も重要です。懲戒解雇・懲戒処分をする場合には、その行為と該当する処分内容がルールに書いてあり、ルールに則って処分したと示す必要があります。

 

就業規則は会社の発展を考える上で不可欠なものです。これがないと頑張った人が報われる風土は作れません。「労務の担当に任せておけばいい」「これは人事マターでしょ」という次元の話ではなく、中国現地の組織経営で就業規則は経営マター。経営者が自ら重視し、実際に中身を理解し、必要な時に使えるようにしておくことが必須です。

今日のひと言

就業規則は現地経営の基礎

就業規則は現地経営の基礎の基礎。あればいいというものではないですが、「なしでは話にならない」とは言えます。タイトル通り、私は中国で就業規則を軽視する経営者は、本質を理解しない愚か者だと思っています。

今まであまり気にしていなかった会社や現地責任者にも、就業規則は人事マターではなく、自身で内容を把握し、使えるようにしていくべきものなんだなと認識してもらえたら嬉しいです。

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。