コラム
私が”コネなし経営”を選んだ理由【中国駐在サバイバル】
中国のような事業環境では、コネの使い方も重要な経営手腕の一つです。ただ、「コネを使う」ことと「コネに依存する」ことは違います。
私は、もともと政府系との合弁会社の雇われ経営者。内側からコネの利点・難点・限界を観察してきました。その体験を踏まえ、独立して再出航してからは、基本的にコネを使わない経営へと舵を切りました。
今回は、あくまで私自身の体験・スタイルをベースにした「コネ論」です。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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中国のような事業環境でコネは必要か
胸を張るような話でもなく……
「中国でコネは必要か」という問いは、普段は発せられることがありません。コネの話というと、「もちろん必要」という前提で、どうやってコネをつかみ、維持し、使うかが議論の焦点。コネを使うか使わないか、作るか作らないかは、ほとんど議論の俎上にも乗らないのが現実です。
中国に限らず、海外では日本とは法律・ルール・流儀が違います。自分たちだけでは解決が難しい時にコネを使うのは、当然ながら世界中でよく行われる経営手段の一つです。
実際、役所の折衝や、労働問題などが起きた時の解決、それから何かを確保したり、便宜を図ってもらったり、コネを活用したくなる事態はいろいろあります。
多数の従業員を抱え、生産部門や営業網を持っているような会社だったら、私もコネを活用すると思います。たまたま士業のプロフェッショナルサービスを小所帯で提供するという事業をやっているために、コネなし経営が選択肢にあるだけです。胸を張って語るような話でもないですし、業種・規模によっては全然当てはまらないでしょう。
とはいえ、私はこれまで10年以上コネなしでやっており、不可能ではないことは自分の体験から言えます。一つのあり方として、特に小企業・現場系の機能を持たない会社の参考になればと思います。
なぜコネなし経営に?
コネ=権力で通常ルートを超越・突破する人脈
コネなし経営を選んだ理由の前に、「ホントにコネなしでやってるの?」という声が聞こえてきそうです。答えはイエス。選んだというより、結果的にそうなったのが真相です。
もちろん誰にも頼らず経営しているわけもなく、私にも信頼できる人脈はあります。広い意味での人脈と区別するため、ここではコネを「権力で通常ルートを超越・突破する人脈」と定義して話を進めます。スーパーパワーで通常ルートをぶっ飛ばして何かを解決・手配してくれる特殊な人脈ということです。お互いに何かあれば相談するというような間柄は除きます。
私は独立した2012年以降、コネの構築・維持・依存なしで今までやってきました。今後もそのまま行くのか分かりませんが、いまのところ、経営方針を転換するつもりはありません。そうなった原因は四つです。
原因① 特殊合弁で内側から教わった
まずは中国に来た時の私自身の位置付けが特殊だったこと。私は政府系の中方3社と日系1社というかなり特殊な合弁企業の雇われ総経理として赴任しました。これは最後にその合弁会社をクローズした原因にもなっています(政府系が民間の事業会社に出資しているのはいかがなものかとなって解散)。
このため、政府系の論理、中方の論理というものを、私は会社の内側からじっくり観察することができました。日本側の出資者のビジネスパートナーに、過去の政府要人の親族(日本へ移住し国籍を変更)がいて、日本側の目線でいろいろ解説をしてもらいました。
「さっきの話、全然分からなかったでしょ。背景にはこういうことがあるの」「こういうところでこういうことを頼むつもりなら、ここでこういうことを先にしておかなければいけない」「先日のあのニュースが、今日の話の中にこう出てきた」などなど。
ブラックボックスの中で、どう力学が働いてコネが発動するのか、仕組みを教えてくれる人がいたのは非常にありがたかったです。知らないことばかりで、「そうなんだ!」と驚愕する日々が数年続きました。
そこで教わったのは、「コネは使ったら、それより大きく返さなければならない」こと。そして、「日頃から大きく与えておかないと、いざという時に使えない」ことでした(しかも、与え続けてきたからといって、使えるとは限らない)。
必ず使えるとは限らないけれど、使ったらそれ以上返していかなければいけない。これはなかなか大変です。よっぽど自分に才覚があるか、企業体力がないとついていけません。
また、私は日本人・仕事人として自分の常識・感覚があるわけですが、コネを使いたいなら完全に相手の作法に従う必要があります。これは解説を聞けば聞くほど痛感しました。同じ中国でも、役所系と民間では作法が全然違います。さらに同じ組織でも、相手の立場によって振る舞いはまったく変わってきます。
この辺で、私は自分の才覚で踏み込むことを諦めました。解説してくれる人がいるから理解できているものの、コネを活用するところまでいけるかというと、自分の器量では使いこなせないと強く感じたためです。
原因② 「中国進出企業の野戦病院」という仕事上の特性
私の仕事は「日本企業の野戦病院」。顧客の100%が日系企業であり、中国でシビアな相手と戦っている中で、会社の正当な利益を守らなければなりません。その特性から、コネに依存するのはまずいと思っています。
コネは使うとそれ以上に返さなければいけない。つまり負債を抱えるのと同じで、当然ながら返済責任が生じます。
こちらがお願いする側の場合、相手が本当にやってくれるという保証はありません。「ごめんね」と言われることもあります。
ところが相手から頼まれた場合、これは断りにくい。私は仕事上、客先のセンシティブな情報を得る立場にあります。客先情報に関することで「頼む」と言われてしまうと、非常に難しい状況に陥ります。断ることで客先に迷惑をかけるかもしれないし、当然、客先の利益を差し出すわけにもいかない。
借りたものは返さなければならないが、それが断れないシチュエーションはできる限り避けたい。だったらコネには触らずに、負債を抱えずにいこうと判断したわけです。
原因③ 再現性の問題
コネを使った解決手法には再現性がありません。あくまで特殊な手段であり、究極のルール無用の世界です。私が地元や近しいところでコネを作れたとして、中国全土に広がる顧客すべてに使えるかというと、それは無理。各地で別々にコネをメンテナンスするのも非現実的です。
領域の問題もあります。工商局、人社局、税務局、消防、環境、公安……、トラブルはあらゆる領域で起きます。全領域に使えるようなスーパーなコネは普通は手が届きません。しかもコネというものは、相手が異動や代替わりすればリセットです。
また、コネに依存していると、自己解決能力が上がりません。他のエリアで「同じようにやってくれ」と言われても、コネが効かない世界ではどうしようもない。野戦病院の看板を掲げている者として、自分たちで創意工夫して解決を図ることができないというのは、情けない限りです。
コネを使った方が効率的なことはもちろんあります。顧客からそれを期待されることもあります。でも、私たちは基本的にコネをアテにせず課題に取り組みます。顧客が自分でコネを持っていて、それを時々に応じて使うことはかまいません。一緒にその使い方を考えることもあります。
原因④ 管理・予見不能リスクの低減
ここで多くは語りませんが、予期せぬリスクの低減のためというのもあります。合弁会社の内側や、客先を巡るさまざまなところで、いろいろなことを見てきました。依存していたスーパーパワーに異変が起こると、もうどうしようもないです。
連座もあるし、衝撃波を喰らうこともあるし、その有無も程度も一切予見できないし、コントロールもできない。私は経営者として、それでは雇用も、供給責任や提供責任も守れません。ここまで管理も予見もできないリスクは負えないと思っています。
今日のひと言
経営に絶対はない。コネを使う使わないは優先度判断の違い
私はコネなし経営を選んで現在に至っていますが、この方がいいということではありません。経営に「絶対」はない。私にとっての優先度を判断した結果、これまではコネなし経営でやってきたというだけです。会社・経営者によって、それぞれ優先度が変わってくるのは当然だと思います。
ただ、中国ビジネスでは「コネもなしに商売なんかできない」というのが当然の前提になっている。なので、「そうでもないよ」と言いたくて、今回は自分のやり方を紹介しました。皆さんの選択肢・思考の幅が広がればと思います。
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この記事を書いた人
多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。