コラム
再赴任ショック…元駐在員が無力感に襲われたワケとは?【中国駐在サバイバル】

中国は再登板する方が多い赴任先です。先日、2度目の赴任者から「久しぶりに来てみたらショックだったよ。前回自分主導で作った仕組みがあって、最後の仕上げ段階で帰任になったので『後はみんなでよろしく!』って言って帰ったんだけど、今回来てみたらまったく動いてなかったんだ」と聞きました。
帰任後に現地の様子を聞いて、愕然としたりガッカリしたりすることは多いです。どうしたら自分の残したものが現地で定着するのか。せっかく挑戦するなら、効果的な仕事の仕上げ方・残し方を工夫してみませんか。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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再赴任時にショックを受けること
再赴任ショック
再赴任した人がどんな時にショックを受けたか、実際に聞いた話をざっと並べてみます。
【構築したのに導入していない】
頑張って仕組みや規定を構築したのに、数年後に行ってみたらまったく導入していない。力をかけて一緒に構築し、後は任せたと託してきたのは何だったんだと大ショック。
【導入したのに運用していない】
構築だけではなく導入まで自分でしっかり見届けたのに、運用していない。「止まっとるやんか」と無力感に襲われる。
【運用開始したのに昔に戻っている】
運用も始めたはずなのに、その前の状態に戻っている。これも徒労感に襲われる。
【警告したのに骨抜きにされた】
5年以上の戦いを経て、ようやく新しい仕組みを入れた。「頑張った社員から順に報われる公平な仕組みにしたんだから、しっかり運用維持しなきゃダメだよ」と警告したにもかかわらず、後任者に骨抜きにされていた。
【問題社員たちが復権している】
あと一歩というところまで追い詰めたはずの問題社員たちが復権していた。
【大掃除したのにまた跳梁跋扈】
問題社員たちを復権させないように、解雇すべき人はすべて解雇したはずなのに、なぜか同じ轍を踏んで次世代の問題社員が育っている。
私も何度も見たくない光景を
私も歴代の総経理をサポートして改革に取り組む中で、せっかく前任者といいところまで持っていったのに、次の赴任者が台無しにしてしまった場面を何度も見てきました。
やっとのことで導入した公平な制度を、「なんかやりにくい。自分のやり方でやる」と言って、過去のお手盛り制度に戻してしまった人も。
最も不幸なのは、後任者が時計の針を元に戻した結果、事業がうまくいかなくなり、赤字の垂れ流しから最後は撤退にまで至ってしまうケースです。
そういう会社とは、だいたい途中で「もう小島のうるさい話を聞きたくない」となって契約を切られるため、私たちも後から風の便りに拠点閉鎖を知ることが多いです。
熱い思いを持って改革に挑んだのに、形になっていない、組織の結果に貢献していないとなると、落胆する気持ちは私も非常によく分かります。
再赴任ショックを回避するために
何はともあれ駐在3年の計
こんな状態にならないためには、「駐在3年の計」です。任期を最短3年として、その3年間をどう有効に使うかという考え方です。任期が4〜5年なら、もう少し余裕がある、ラッキーと思ってください。
特に用意なく任期に入ると、1年目は慣れる、2年目はいろいろ見えてくる、3年目で仕掛け、となります。しかし3年目にはもう任期の終わりが見えているし、引き継ぎも考えなければいけない。3年目に仕掛けても、ちゃんと形になって定着するところまで行かずに終わってしまいます。
任期が4年、5年でも、仕掛けに2、3年を使ってしまい、定着に使う時間を考えていないと同じことが起きます。
これを克服するには、任期の終わりから逆算します。3年目は定着と継承。仕掛けを確実に運用して、定着を見届ける必要があります。そうすると、何か仕掛けをするのは2年目〜1年目です。
ただ、初めて赴任する人は1年目にいきなり仕掛けてはダメ。急ぎ過ぎると足元をすくわれたり、表面だけの是正に終わり、裏側に潜んでいる問題社員たちに釘を刺すことができません。1年目はまず観察して、関係づくりをし、表と裏を見極めてから勝負に出ることです。
再登板なら1年目から勝負に出ることも可能なので、仕掛けに最長2年を使えます。任期が4〜5年なら、仕掛けに3年を使い、定着に残り2年を使うのがいいと思います。
共通しているのは、任期の最終段階の最低1年、できれば2年か3年を、定着のために残しておいてほしいということです。帰任ギリギリまで勝負してはいけません。
「後は任せた!」では定着しない前提で対策を
改革は自分の任期中に定着まで進める前提でいないと、結局は徒労に終わり、後から無力感に襲われることになります。
失敗しないためには、必ず自分の任期中に運用すること。導入までで帰任すると、私の経験と観察上、確実に失敗します(導入前の帰任は論外)。自分の代で必ず運用まで持っていき、ひと回りはする。そのための時間をとっておく必要があります。
それから、幹部を登用・育成しておくこと。後からなし崩しにしそうな連中は一掃して、改革の意味が分かっている人たちで管理層を固めておかなければなりません。
後任者とのコミュニケーションも重要です。目的や背景が理解できていないと、自分の馴染みある制度に変えてしまったり、感覚的にしっくりこないという程度で勝手に運用を止めたりしがち。なぜこういう仕組みにしているのか、確実に腹落ちするまで併走します。次の赴任者、次の次の赴任者にも確実に継承するためには、ここに時間を使うことです。
これだけではまだ安心できないので本社も巻き込む。この手は私もよく使います。前任者から本社・後任者と顔つなぎしてもらった上で、着任後に現地で動揺しないように、赴任前から私も伴走に入るようにします。
我々のような外部を巻き込むことも、確実に定着させるためには有効です。
改革直後は、幹部、仕組み、習慣化、後任、本社、外部などガチガチに固めていって、何とか運用・維持できるかどうかだと思います。ここまで改革をつぶされないための仕掛けをしておかない限り、ただ後任に期待するだけでは残念な結果で終わります。
目的・背景・要点を十二分に共有
新しい制度がズルズルと骨抜きにされないためには、「なぜこうするのか」「こうするに至った背景」を関係者としっかり共有することがポイント。
過去にどんな戦いがあり、失敗があってここに至ったのか。なぜ面倒でも変えてはいけないのか、あるいはなぜ自分一人の裁量で動かすと危ないのか、全関係者が理解していることが大事です。
後任者、現地の問題幹部や裏ボス、日本の新しい役員など、誰かの裁量だけで簡単に崩れない仕掛けを十分にしておけば、5年、10年経っても、自分の仕掛けをしっかり発展・継承してくれている姿を見ることができます。そのために、ぜひこのくらいの手間隙はかけてください。
今日のひと言
自分で固めないと託しても無理
自分は仕掛けただけで、後は誰かに固めてもらおうとしても無理です。自分でしっかり固めて残すつもりで挑み、任期の終わりから逆算して定着のための時間を確保してください。
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この記事を書いた人
多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。