コラム

残念な評価決定会議…台無しになる理由とは【中国駐在】

2026年04月17日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

人事制度の活用において核心となるのが「評価」の実施。公平で社員の挑戦や成長を促す評価ができないと、人事制度は力を発揮しません。今回は中国拠点での評価決定会議に「よくある光景」から、日本の会社にも通じる評価のあり方を考えます。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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多次評価の致命的欠点

腹落ちしない原因「多次評価」

設備は導入・設置するだけでは何も生み出しません。実際に稼働して生産活動に貢献して初めて価値を創出したことになります。人事制度も同様。制度を構築・導入するだけでは無意味で、活用して組織の成長や業績の向上に寄与してやっと意味があります。

そして、評価は人事制度の鍵。ここが狂うと後ろの全部がおかしくなります。組織の成長を促し、適材適所の組織運営をしていくための要が人事評価です。

ただ、実際の人事評価にはいろいろな課題があります。評価に納得感がない、手応えが感じられないといった不満は、日本本社だけでなく海外拠点でもよく見聞きします。

理由の一つが多次評価です。多次評価・多層評価とは、まず自己評価があり(しないこともある)、次に一次評価者(直属上司)、二次評価者(さらに上の上司)と続き、最終的に経営層や人事がチェックして評価を決定するというやり方です。

私たちが人事制度の構築・運用をサポートする場合、多次評価はやめて評価決定会議を導入することを強くお勧めしています。これは関係者が一堂に集まり、議論して評価を決める方法です。評価者会議と呼ぶこともあります。

なぜ多次評価がダメなのか、理由を挙げます。

一次評価が無責任になる

特に現在の中国拠点で顕著な課題です。例えばS・A・B・C・Dの五段階評価だとしましょう。多次評価では、一次評価者は自分の部下にSかAばかりをつけてきます。ウチの管理職はまともな評価もできないと怒る駐在員がいますが、実は経営側が導入した多次評価に起因することが多いです。

一次評価者は、自分がどんな評価をつけたって最終的に上層部が補正すると分かっています。だったら、わざわざ部下に恨まれそうな評価をする必要はない。できるだけ甘めに評価しておけば、部下にも「私はAにしたんだけど、なぜCになったのか。まぁ上の方もいろいろあるからねぇ」などと言えます。

フィードバック不能

多次評価の場合、上層部が調整した結果について、普通は一次、二次評価者に理由をフィードバックしません。最終的な結果が下りてくるだけです。そうすると、自分はAをつけたのに最終的な評価がCになった時、そのギャップがどこから生まれたのか、一次評価者は理解できないままになります。

そのため、部下に対しても「ぶっちゃけ、オレはAをつけた。上層部がCにした理由は分からん。少なくとも自分はCじゃないと思うんだけどね」と話すことになります(それ以外に言えないですし)。

本来なら、今期の仕事ぶりを振り返り、挑戦・成長したところ、来期はさらに改善・成長してほしいところなど、未来に向かっての助言をする機会なのに、「上層部が何を考えているか分からん(自分も納得していない)」では、フィードバックの意味がないどころか、むしろマイナスです。

直属上司の見方だけふんわり伝えられても、部下が評価に納得できないのも当然。経営層への不信感だけが残ります。

多次評価だと上層部は楽だが社員が成長しない

結局、多次評価ではあらかじめフィルターをかけた評価があり、上層部はざっと見て調整したいことを調整するだけ。上は楽ですが、評価者も含めて社員は成長しません。社員が成長しないなら、そもそも何のために評価をしているのか、何のために人事制度があるのか、まさに本末転倒です。

このように多次評価には致命的な欠陥があるため、やはり原則として評価決定会議で行うべきです。組織の規模が大きくて一回の会議では決めるのが難しい会社などは、多次評価と評価決定会議を併用するなど、欠陥をカバーする工夫をしてみてください。

評価決定会議のやり方と利点

評価決定会議の進め方

評価決定会議の参加者

ここからは評価決定会議の進め方を説明します。

メインの参加者は直接評価者(多次評価では一次評価者と呼んでいる人たち)です。司会はその場を仕切れる人であること。最初はトップが自分でやることをお勧めします。工場長や通訳がいれば、司会の隣に配置します。

評価者の後ろには、それぞれの上司が座ります。課長クラスが主要な評価者として部下を評価している会社なら、部長以上の人たちがオブザーバーにつきます。

司会の仕切りの下、会議の主役である直接評価者たちが議論を進めていきます。評価者の上司たちは、議論が評価表ベースになっているか、内容がフェアか、声の大きい人ばかりが発言していないかを観察し、議論に「待った」をかける役目です。これは上位者の大切な仕事。課長同士が議論しているところに人事が口を挟むのは難しいけれど、本部長・工場長・総経理・副総経理ならストップがかけられますよね。

上位層がその場で目を光らせることで、直接評価者たちの議論が偏ったり、趣旨からずれたり、一部の人の声に引っ張られたりするのを防ぎ、方向性に補正をかけながら議論を進めることができます。これを一人ずつ、結論が出るまで続けます。

このやり方は特に最初の1年は手間と時間がかかります。こんな効率の悪いことはやってられないとやめてしまう会社もあります。しかし、これは産みの苦しみ。手間をかけた分だけ人は育ちます。いちいちダメ出しをして、「そもそも論」に立ち返りながら、根気よく回し続けると、評価者たちの目線がだんだん合ってきます。

2回目、3回目になれば、多くの評価者が客観的な評価をしてくるようになります(それでもできない人たちもいます)。会議が「効率より効果重視」で運用できていれば、1回目とは多くの評価者のレベルが一変しているはず。彼らは、実は本気で評価すれば、客観的な評価ができる人たちだったのです。会社の仕掛けが彼らの本気を引き出したと言えます。

こうしてはっきり手応えを感じるまで、諦めず、根気よく、しつこく評価決定会議を続けます。

評価決定会議の利点

上層部が逐一指摘しなくても議論が回るようになると、直接評価者の仮評価が真剣勝負になります。いい加減な評価を提出して会議の席上でダメ出しされるのは誰だってイヤですからね。

私は1回目や2回目の会議で経営者が「ちゃぶ台返し」してみせるのをお勧めしています。「そんな評価では話にならない」と言って途中で打ち切ってしまう(フリではなく本当に打ち切ります)。全員やり直し、もっと真剣に一次評価をやってこい、と一喝しておくと、次回から評価者の目の色が変わります。

また、評価決定会議をすると、会社の総意を社員にダイレクトにフィードバックできるようになります。自分の評価は上層部みんなが見ている中で出した結論であり、上司の当たり外れ、好き嫌い、厳しい・甘いに左右されていない。納得できなければ会社を辞めるしかありません。

正当に頑張っている人は「報われた感」があるし、ベテランだというだけで高い評価を得ていた人には下駄を脱いでもらうことになる。頑張っている人に「ちゃんと見ているよ」というメッセージが伝わり、組織の活力が上がっていきます。

もう一つ重要なメリットは、経営層に評価者の部下観察・部下管理のレベルが手に取るように分かること。評価決定会議を続けると、趣旨に沿って客観的な判断ができ、部下の改善の余地が見えている評価者と、普段から観察も指導もしておらず、結論ありきの主張や印象論しか出せない評価者が可視化されます。

この差は最初のダメ出し直後から出ますし、2回目や3回目になるとさらに顕著になります。これは管理者適性を判断するための重要な材料です。部下を育てられる管理者とそうではない人の見極めに活用でき、役職者の入替・異動の根拠にも使えます。

どうでしょう。これだけのリターンが得られるなら、手間をかけるだけの価値はあると思いませんか。

評価決定会議の「あるある」

残念な評価決定会議の「ありがち」

とはいえ、せっかく評価決定会議を開いているのに、いまいち手応えがなくてモヤモヤしている会社もあります。評価決定会議の「よくある光景」を見ていきましょう。

◆ありがち①
声の大きさで押し切ろうとする評価者や参加者がいる。周りがなかなか突っ込めず、一人だけでワーワー言っている。

◆ありがち②
ほとんど議論がない。参加者がお互いに質問も指摘もしないので、場がシーンとしてしまい、司会役の経営者や上位層も困惑するだけ。

◆ありがち③
例えば5段階評価の場合、結果的にAにしたい評価者はSやBを散らしつつ平均的にAに誘導しようとする。理由は後付けになり、突っ込まれたら具体的な話はできないのだが、誰も口を出さない。結果、同じように結論ありきで評価する人ばかりになる。

◆ありがち④
評価表の基準より、評価者の思い込みを優先する。つまり自分が目をかけている部下がネガティブな評価にならないように、初めからCやDを避けて評価してしまう。評価表の中身は無視して自分の感覚を優先しているのだが、これは指摘しても改善できない評価者もいる。

◆ありがち⑤
直属の上司がつけた仮評価(多次評価でいう一次評価)に引っ張られる。例えばオールAで提出してきた場合、一部に反論が出ることはあっても、オールB以下にはなりにくい。逆に、オールBで出てきた評価がオールAまで補正されることもない。スタート地点の評価に全体の議論が引っ張られ、せっかく会議を開いて全体を俎上に載せているのに議論が深まらない。

さらに「超ありがち」な光景も

◆超ありがち①
参加者が評価表を読み込んでいない。評価表の基準をろくに読まず、印象だけで評価をつけていることが極めて多い。

◆超ありがち②
突っ込みをするべき立場にある経営層・上司も評価表を読んでいない。評価者の発言になんとなく違和感があっても、自分も大して読んでないので的確な突っ込みが入れられない。

◆超ありがち③
評価者のマネジメント能力に難があり、部下の日常を把握していない。目をかけている仲良しの部下や、自分も昔やっていた業務を担当する者以外は見ていないことも。だから評価でも結論ありきで曖昧なことしか言えない。

◆超ありがち④
中国語で議論する時など、通訳がボトルネックになっていて、日本人上司が適切に議論の内容をつかんで口を出すことができない。情報量が足りない、伝え間違えている、熱量が伝わらないなど、コミュニケーションにストレスがかかり、最後まで議論がかみ合った感じがしないまま「これ以上時間をかけてもしょうがない」と妥協してしまう。

今日のひと言

レベルアップの余地がたっぷり!

このように現状は手応えがなくても、すでに評価決定会議を実施しているなら、評価を意味あるものにするステップはすでに踏んでいます。レベルアップの余地はたっぷりあります。後は会議をいかに有効に使うかに焦点が合えば、それだけで実りのある評価になっていきます。

まだ多次評価や多層評価でやっている会社は、ぜひ評価決定会議に舵を切ってもらえたらと思います。これは中国に限らず、世界どこでも同じです!

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。