コラム
中国拠点の縮小···残る組織のマネジメント戦略
厳しさを増す事業環境下、多くの日本企業の中国拠点が縮小やスリム化に取り組んでいます。これらは全社を挙げるようなプロジェクト。ただ、残る組織をどうしていくかは、実はさらに重要な仕事です。
今回は、縮小やスリム化の最中に目が向きにくい「対象外の組織」に対するマネジメントやケアについて考えます。本当の焦点は、むしろ残る組織のはずです。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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生き残りを決めるのは残る組織
人員削減、部門閉鎖、拠点統廃合……、中国の日系企業は今、その多くが縮小局面にあります。生産を完全終了して撤退する場合は組織自体が消滅するものの、スリム化して何らかの事業を継続する場合、残る人と辞めてもらう人が出てきます。
縮小局面では、どう削減するかに意識が向きやすく、残る側の組織のケアは手薄になりがちです。
縮小施策は人体でいえば外科手術や大幅減量。それ自体が目的ではありません。重要なのは健康体に戻ること。手術や減量を経た後、確かに寿命が延び、QOLが上がることが肝心です。
閉鎖ではなく縮小を選ぶということは、事業の継続が前提となります。それを考えると、削減の規模だけでなく、残る組織が生産性・創造性・活力を維持し、少なくともトントン以上で事業経営を支えられる状態にならなければ意味がありません。
組織を削った結果、士気が下がったり、生産性が低下したり、期待していた社員から次々と離脱してしまったりしたら、かえって経営寿命を縮めることになります。
生き残りを決めるのは、残る組織の側。改めてこの点を確認しておく必要があると思います。
残る組織を支えるために
縮小/削減は小出しにしない
残る組織を支え、健全に経営を続けるための第一のポイントは、縮小・削減は小出しにしないことです。軍事においても戦力の逐次投入は禁物とされるように、縮小・削減も小出しにすると「いつまで続くのか」「最終的にどうなるのか」という不安をずっと引きずります。
健康診断や精密検査でも、結果を待つ間は不安ですよね。私も母を病気で亡くしましたが、倒れた後の「どうなるかわからない間」は本当につらかったです。亡くなった後は悲しみや喪失感に包まれるけれど、先の見えない状態に置かれる方がはるかに苦しいことを知りました。
悲しみや痛みの気持ちは、いったん底まで沈んでしっかり足がつけば、現実を受け入れて踏ん切りをつけることができます。しかし定まらない状態では、どこまで沈むのかわからず、不安がずっと続きます。社内をそのような状態にしておくのは非常に不健康です。
最後には全員を解雇して撤退するのではないか。だから薄皮を剥ぐように削減を進めているのではないか。そうした疑念が蔓延すれば、経営者がいくら違うと説明しても、小出しにしている限り説得力がありません。
人員削減を行うなら、一気にとは言いませんが、ある程度は思い切って進めるべきです。そうしないと残る組織の人心はどんどん乱れてしまいます。
生存に必要な策だと伝える
人員削減は、コストダウンや帳簿上の業績づくりが目的ではなく、みんなを守るための施策であり、会社の生存に必要な策だとしっかり伝える必要があります。
焦点を「切除・削減」ではなく「生存」に当てることで、日本側を含めた一人ひとりが「自分ごと」として受け止めやすくなります。また、「生き残るため」に必要な策だと明確に伝え続けることで、「いずれ自分たちも切られるのでは」といった不安は緩和されます(実行途中はゼロにはならないかもしれませんが)。
他の手段も検討したが、もはやこれしかない——。そうした覚悟を込めて伝えることがポイントです。
経営陣が痛みを表す
経営陣が縮小・削減に対して痛みを感じていると示し、気持ちを共有することも非常に重要です。
自分たちの同僚、先輩、後輩が辞めざるを得ない状況を目の当たりにするのは、残る人たちにとっても心苦しく、複雑な感情を伴います。この時、施策を主導する経営陣が明るく、または淡々と振る舞っていると、残る側は強い違和感を抱きます。
会社のために一緒に奮闘し、成長し、貢献してきた仲間が去っていくのに、経営陣はまったく気持ちが動いていない。むしろせいせいしたような顔をしている。そんな様子を目にすれば、「いずれ自分も同じように扱われるのでは」といった不信が生まれます。
厳しい言い方かもしれませんが、人員整理に着手せざるを得ないような状況を招いたのは、経営に落ち度があったから。成長期の後半にイケイケでやり過ぎた、見通しが甘かった、規律を緩めて肥大してしまった……。自分が主導したわけでなく、歴代の経営の結果だったとしても、トップは心のどこかで痛みを感じるべきです。
辞めてもらう人たちに対しては、会社を代表して、謝意とともに新たな場での活躍を願う姿勢を示しましょう。演技ではなく、本心から痛みを感じつつ。でなければ、残る人たちと気持ちを一つにすることはできません。
生存の先に未来を示す
四つ目は、生き残った先の未来を描くことです。どのようにして会社を立て直し、チャレンジングな課題に取り組み、社会に貢献していくか——。その具体的な道筋やステップもぜひ示してください。
未来に気持ちと視線が向けば、人は再び前進できます。つらい経験が消えるわけではありませんが、過去にとらわれるよりも、前に灯をともして、挑戦しがいのある目標を定めることで、気持ちが切り替わり、組織全体の方向性も自然と定まっていきます。
「とりあえず生き残った」にとどまらず、その先の事業使命や社会的貢献を、残る人たちに示すことが大切です。
今日のひと言
残る組織こそ大事…を忘れずに
縮小はゴールではありません。延命できたから終わりでもない。より大きなものを目指すために、やむを得ず痛みを伴う施策を取ったのです。
だからこそ、痛みを引き受けてくれた人たちのためにも、残る人たちには頑張ってもらわなければなりません。しばらくたって「やっぱりダメでした」と閉鎖してしまっては、先に辞めた人たちに申し訳が立たないというものです。
縮小や削減は難しい仕事です。関心が集中するのも当然ですが、本来、本当に大事なのは残る組織。縮小後は組織を再び活性化させ、力強く前進していくことが責務です。特に現地のトップ層、そして日本側で管轄・支援を担う人たちは、そのことを忘れずに取り組んでほしいと思います。
2025.05.02 note
https://note.com/daocrew/n/nbe6817304b46
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この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。