コラム
AIと働く時代…チームビルディングはどう変わるか
これからどんどん職場にAIが入ってきます。すでにロボットと協業している職場もあります。そんな時代のチームビルディングは、AI以前とは変わるのではないかという観点から、私の見方をお話しします。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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AIが職場に浸透するのは確定路線
結論は意外とシビアなものに…
今回のテーマは、私自身の頭の体操のつもりで取り上げました。今後AIがどういう方向へ進んでいくか、まだまだ振れ幅は広いと思います。この時期に扱うことにしたのは、まあ機会がないとなかなか考えを整理しないからね、というくらいの気持ちでした。
着手する前は、なんとなく「多言語のチームづくりがしやすくなるかな」と思っていた程度でしたが、改めて整理してみたら、極めてシビアな結論に至りました。
私自身も、自分たちのチームづくり、一人ひとりの仕事の中身を真剣に考えないと、非常に厳しい状況になるのではないか。そんなことを痛切に感じています。
AIが得意なこと
今後、AIが職場に浸透していく。これは確定した未来だと私は思っています。ここに疑問を感じる人もあまりいないでしょう。
AIは何を武器に職場に入ってくるのか。
まずは文書や画像、動画を扱う業務です。作成・編集・校正・翻訳、リアルタイムで複数言語の字幕を付けたりもできます。ドキュメントワークはすでに人間を超え、AIの得意領域です。
データの扱いにも長けています。検索・分析・検知・予測・最適化。人間では扱いきれないボリュームのデータも解析・分析して結果を出してきます。前提条件をいろいろ変えたり、複数のシミュレーションを並行したりすることもできてしまう。これも人間は太刀打ちできません。
顧客対応はどうでしょう。人対人だから少し難しそうですが、とっくにAIは入っています。チャットや音声の自動対応、人間のオペレーターの対応支援。FAQも得意分野です。人間が管理していると更新が遅れがちなところを、実際の顧客対応を踏まえてどんどんFAQの中身を入れ替え、自動でメンテナンスできそうです。
工場現場でも欠かせない存在です。検査・検品の精度は言うに及ばず、人間では物理的に検査しにくいポイントもセンサーとロボットがあればできる。在庫管理や生産計画も、非常に精度が高いものをすごいスピードで作ってくれます。
配送もAIが活躍している分野です。積載や配送ルートの最適化はもちろん、公道を走る自動運搬も国レベルで研究・実証化が進んでいます。
経営目線のAI、顧客目線のAI
経営者にとってAIはどういう存在か。私もその一人として考えてみると、まず24時間365日稼働してくれるのは非常にありがたい。メンテナンスや故障を除き、基本的には時間を気にせず働いてくれて労務課題も発生しません。
パワハラやセクハラも関係なし。悪意のハラスメントは論外ですが、通常の指導までパワハラ扱いされて上司が萎縮する時代には助かります。遅刻やモチベーションの波がないので、ある意味、自律できています。
経営者としては、正直なところ、同じようなアウトプットだったらAIの方が任せやすい気がしなくもないです。
一方、顧客目線では、私などすでにAIの方がいいと感じることが増えています。
平日の昼間に仕事をしていると、どうしても手続きや問い合わせなどは夜間や休日になってしまいます。Webで自己完結できるサービスならいいんですが、時々電話でしか受付しないものがありますよね。
電話をかけようとしたら時間外だった。仕事の合間にかけたが何度かけてもつながらない。つながってみたら音声ガイダンスが流れてさらに待たされる。散々待った挙げ句「現在対応できるオペレーターがおりません。改めておかけ直しください」でツーツーツー……。もうつながった頃には疲労困憊です(しかも、こういうのに限って通話が有料だったりする)。
ようやく人間のオペレーターにつながって、状況や経緯、こちらの要望を説明しても、なかなか話が噛み合わない。時には「そういうお話は、ここではなくこの番号へ」とたらい回しに。それも向こうが転送してくれるならまだマシな方で、こちらで全部やり直さないといけないこともあります。
こういった対応が続くと「いい加減にしてくれよ」と言いたくもなりますが、少しでも語気を荒げそうになれば昨今のカスハラ問題が頭をよぎり、ぐっと飲み込まなければならない。こっちだってだいぶひどい目に遭ってるんですけど、と理不尽な状況にモヤモヤします。
こんな目に遭うくらいなら、むしろ人の応対なんて要らない。特に事務処理や手続きは「スムーズに完了・解決すること」が重要であって、「おもてなし」なんて最初から求めていない。
もう少しAIの対応レベルが上がったら、当たり外れのあるオペレーターより淡々と処理してくれる機械の方がいいや、という人も増えると思います。私はすでにそう思っちゃっています。そこに寂しさ、残念さもありますが。
AI時代のチームづくり
AI時代に消える仕事
チームづくりを考える前提として、これから消えていく仕事を洗い出してみます。
まずは定型業務。反復的・機械的な処理は当然AIの方が強いです。
知識・経験に頼っているプロフェッショナルサービス、いわゆる士業の仕事も消滅すると言われ、すでにアメリカでは淘汰が進んでいるそうです。
弁護士、医師、司法書士、会計士、税理士、社労士などはすべて、知識と論理を習得して資格を取り、アップデートしながら知識を蓄え、さまざまな事例から今回のクライアントに適したサービスを提供する仕事。
これまでは、広範な知識や事例を記憶に留め、それを自由に出し入れできるのは限られた優秀な人だけだったので、士業には希少価値・付加価値がありました。
ところが、知識・経験・事例・論理性の蓄積をベースにしている限り、全部AIで置き換え可能になってしまう。これまでの時代と大きく変わる点です。
すでに売れっ子の士業は専門知識・論理性・経験で勝負していません。コミュニケーション能力や共感力、人間力など、知識と経験以外の部分で高く評価されている。彼らは簡単に淘汰されないでしょう。逆に、資格と知識・経験の蓄積に頼っていた人は苦しくなるだろうと思います。
熟練が必要な業務も減っていきます。先日、天ぷら業界の話がニュースで取り上げられていました。本来、天ぷらは熟練の技がないとうまく作れない料理で、修業年数も他のジャンルより長いそうです。
素材が違えば水分の含有量が違い、油の温度や衣の状態、揚げる時間などさまざまな変数がある。揚げるタイミングを数秒単位で外すと、もういい状態にはならない。これらを見極めて揚げられるようになるのは簡単ではない…とのこと。
ところが近年、業界に劇的な変化が起きつつあります。先端的な天ぷら鍋を使うと、センサーで細かな管理ができる。しかも揚げるタイミングのストライクゾーンも数秒ではなく数十秒に広げられる。人間が技術を習得しなくてもプロの味が出せるため、参入障壁が下がっているんだそうです。
このように、人間が「微妙な経験と感性」で済ませていた部分が、すべて数値化できるようになりました。オペレーションの段階でも、人間のように感覚のブレがなく、常に最適な処理ができる。ロボットとAIとセンサーを使えば、長い時間をかけて熟練の域に達した人しか再現できなかったレベルに、素人がいきなり到達できてしまいます。
それから、暗黙知が前提の領域で、ごくわずかな感覚の違いが問われる仕事も減っていくと思います。AIは暗黙知にとらわれないため、これまでとは全然違うアプローチをタブーなく試して、別の最適ルートを拓いてしまうからです。
例えば将棋の世界。AIが指す将棋は人間から見ると違和感があります。定石や暗黙の了解、自然な感覚など関係なしに最適解を探っていくので、人間には不自然な手、思いつかない手を指す。他の分野でも同様に、暗黙知の前提を破って、これまでの発想になかったような解決策を生み出していくと思います。
最後に、言語の壁をなくす仕事です。通訳・翻訳、特にマイナー言語はこれまで希少価値が高かったですが、すでにスマホのアプリで、自分が母語で話したり入力したことを瞬時に相手の言語に変換して見せられます。
実際、最近の駐在員は、こうやって直接コミュニケーションを実践しています。自分が母語で話したり入力したりして相手に見せる。相手がそれを理解して、吹き込んだり入力したりする。十分キャッチボールが成立しています。
文字起こしや文字から音声に転換する技術も実用レベル。もう少し経てば「ほんやくコンニャク」の世界が実現します。
AI時代の怖い発見
在宅業務はプロ限定に
ここまで考えて、在宅業務・リモート業務は今後プロ限定になっていくのではないかと気づきました。
リモートワークに向かない業務
アメリカで、コロナの際に在宅勤務を導入した結果、多くの人が在宅の方が便利だと感じ、在宅でできる仕事に転職したい、出社を強制されるなら辞めるといった流れが生まれました。
ところがコロナが下火となった途端、リモートを認めていた企業は出社前提に方向転換します。理由は簡単で、リモートでは業績に対する貢献度が下がるから。全員出社に回帰したのは、価値の創出レベルが落ちたからです。
なぜ在宅だと生産性が落ちるのか。第一に、指示の効率が悪いことです。オフィスだったら目の前に部下がいるので、管理者の指示もその場で完結します。これが在宅だと、オンラインで声をかけて、チャットやオンライン会議室を設定して、といったやり取りが発生する。それが面倒くさくて「まあ、いいや」。指示も報告もいちいち間延びします。
また、見られていないと自立できない人も在宅勤務には不向きです。ついついネットサーフィンしてしまったり、休憩のつもりで寝てしまったり、オフィスだったらあり得ない勤務実態が出現します。ちゃんと仕事をしているか監視するのは会社にとっても大変な手間だし、本人にもストレス。そんなことに気を取られるくらいなら出社の方がよっぽど楽です。
業務の品質や進捗を管理しなければいけない業務も出社した方が簡単です。「あれどうなってる?」「ちょっと確認させて」など、オフィスだったら瞬時で事足りることが、オンラインだと滞ってしまいます。
要は、オフィスにいる時以上に自律して業務を完遂することができないから、生産性が下がり、多くの経営者は「もう在宅はなし!」と言っているわけです。
実はこういう在宅業務は、そのほとんどがドキュメントワークか何らかの処理です。レポートを作る、メールに返信する、PowerPointで資料を作る、何らかのアウトプットをチェックする……、こういう業務、AIの得意領域ばかりです。
AIなら時間を問わず働くし、監視・監督しなくていいし、声をかければ即レス。アウトプットの質や速度も落ちたりしません。そりゃ置き換えたくもなるでしょう。在宅勤務者は今は楽かもしれませんが、このままでは近未来に自分の首を絞めるのではないかという気がします。
さらに追い打ちをかけるのが、プロとの協業がしやすくなること。これまでは、日本人とだけ仕事してきた日本の会社が急にポーランドだのメキシコだのケニアだのの仕事人とつながって協業するのは、ほぼ無理でした。
それが、今は物理的な距離を問題としないコミュニケーションツールが選び放題。AIによる言語の置き換えを組み合わせれば、世界中の自立したプロとつながれます。しかもこれらに要するコストは、20年前、30年前と比べたら破壊的に安い。
自立している専門家は、もともとリモートだろうとオフィスだろうとプロフェッショナルとして仕事ができる。彼らとよりクリエイティブな、より合理的な協業ができるなら、経営者もウェルカムでしょう。言語の壁を超えてメンバーを組むのは、これからのチームづくりの新しい醍醐味になりそうです。
こうなると、必然的にリモート勤務者は二極化していきます。
オフィスにいる時と同等以上のパフォーマンスを発揮できる人、さまざまな制約があって通勤は難しいが会社に欠かせない人に対しては、雇用主もリモート勤務を認めます。プロジェクト単位で協業する外部のプロとのつながりも強まります。それ以外の在宅業務はAIに置き換わり、出社しない人は不要になっていきそうです。
“論理外”を創造できないチームは消える
そんな時代に、「チーム」には何ができるのか。
AIが苦手なものといえば、チームだからこそできる非線形な発想でしょうか。個人の論理性、作業の蓄積からでは出てこない、複数の人が集まることで発生する論理外の創造や飛躍、新しい観点の創出。人間のチームがAI以上のパフォーマンスを発揮するには、こういう領域にフォーカスしていく必要があります。
人間の感覚・感情・センスに訴えかけるもの、またそれらを通じて他の誰かを動かすこと、意図的に論理を崩したり外したりする領域、こういったものは現段階のAIはまだ得意ではないようです。
一方、論理性や記憶に基づく数値化可能な業務、ほとんどのドキュメントワーク、反復的に発生する対応や処理などはAI、センサー、ロボットで置き換えられます。個別業務の集積でしかないチームは、価値が消滅していくのではと思います。
切り口を変えると、マネジメント領域はAIに占められていく。リーダーシップやアートの領域は人間の優位性・価値が発揮できそうです。
AIの設定・活用か、AIの補助的立場か
AIを軸に考えると、AIを設定・開発する人、AIのアウトプットをチェックできるレベルの人は、AIを活用・運用する仕事ができます。そうではない人はAIに管理され、その指示に基づいて仕事をするようになる。AIを間にここも二極化します。
例えばオペレーター業務などは、人間がAIの判断に基づいて動く立場になる。AIが常時オペレーターの対応レベルをモニターし、言い方に問題があったり適切な回答でなかった時は、「ここを補足してください」と指示する。
人間が電話を切った後に、AIが「これに関してはこの資料をメールで送ってください」と指示し、それに従って人間が作業をする。オペレーターを飛ばしてAIが直接対応することもありそうです。そうして、また、AIがオペレーターの評価を数値化し、それが処遇や契約更新可否に連動する…。
そうなると、AIにできないから人間がやるのではなく、AIにわざわざ置き換えるまでもない、いまのところ人間の方が安くて手っ取り早いという仕事だけが残ります。AIは常にアップデートしていますから、そういう業務はいずれ消滅するか、対価がどんどん下がっていきます。
AI時代にも生き残れるチームづくりを
……かなりシビアな未来像になってしまいました。
現在30人のメンバーがいる職場も、AIの導入が進んでいくと、27人は不要になるかもしれません。しかも残る3人は自立したプロフェッショナルだけだから、管理・監督が仕事のマネジャーもいらない。人間のチームにとっては何とも厳しい世界です。
今回の思考実験を通じて、私自身、AIをどう活用するかより、AI時代にも必要とされるチームづくりを考えなければいけないと認識を改める機会になりました。
今日のひと言
チーム存続に関わるのかも
AIが職場に入ってくる時代にチームはどう変わるのか、から考え始めたのですが、これはチームの存続に関わる話かもしれないという結論になりました。
自分の率いているチームは、AIに使われたり、AIに淘汰されたりせず、これからの時代にも必要とされたい。世の中の課題を解決できる専門性を持ち、プロとして仕事ができるようなチームであり続けたいと思っています。
そのためにはどんなことにフォーカスしていかなければいけないのか、どんな専門性を獲得すべきか。また、人間同士のチームだからこそ生み出せる価値として、どういうものを作り出していく必要があるのか。真剣に考えなければならない時代が来ています。
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この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。