コラム

チームづくりの原則「この指とまれ」。「自分には人事権がないから無理」と思った管理職のあなたへ

2025年07月11日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

私はチームづくりの原点は「この指とまれ」、リーダーが掲げたミッションに共感する人を募ってチームを作るべきだと思っています。ただ、組織の管理職としては「自分には人事権も異動権もない。そんなの無理よ」という気持ちでしょう。今回は、組織人の立場からのチームづくりを考えてみます。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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「この指とまれ」のチームづくりとは

中でも採用・変革・新挑戦は「この指とまれ」一択

チームづくりは「この指とまれ」。過去にもYouTubeで話しています。

チームづくりの中でも、特に採用・変革・新挑戦においては「この指とまれ」を推奨します。

京セラの創始者・稲盛和夫さんは「人生・仕事の成果=考え方×熱意×能力」という金言を残しています。ポイントは「掛け算」と「考え方にだけマイナスもプラスもある」こと(熱意と能力は0〜100の高低のみ)。

この金言をチームづくりに当てはめると、考え方のマイナスとは、チームとベクトルが違うこと。考え方が違うと、掛け算でマイナスの総和も大きくなる(影響力があって方向性の違う人がチームにいると、負の影響も大きくなる)。

だから採用では、熱意の高低より、能力の高低より、まず方向性の合う人を入れることが最重要。ベクトルの近い人を採るには、「この指とまれ」方式が一番シンプルです。

変革や新挑戦も同様。これらは成功パターンが確立していない中で、リスクやプレッシャーと戦いながら、道を切り開いていく仕事。過去を否定しなければいけないこともある。メンバーの方向性を合わせるところから始めていては、時間と労力がかかりすぎます。

外の大課題(敵)に向き合わなきゃいけないのに、チームメンバーにプロジェクトへの無関心・ネガティブな見方・不安・抵抗感があったら、リーダーとしては戦いになりません。最初からそういう仕事にやりがい・価値を感じる人を集めてはじめて、スタート地点に立てる。

だから、チームづくりにおいては、初めから使命に対する共感や責任感があり、動機づけが必要ない人たちを選ぶべき。その方法が、「この指とまれ」です。

What Why Who

では、どうやってそういう人を集めるか。「この指とまれ」のチームづくりでは、指を掲げる人がこれからここで何をしようとしているのか(What)、なぜそれをするのか(Why)、どんな人たちに集まってほしいのか(Who)を明らかにした上で、「一緒にやりたい人は来て!」と呼びかけます。

たくさんの人を引き寄せることが目的ではないので、やたら広範囲に呼びかける必要はなく、「やってもやらなくてもいい」程度の人は誘いません。興味を持った人が自分から手を挙げて集まってくるイメージです。

ただし、受け身で待つだけではダメ。人材採用も、代理店に頼んで求人サイトを作って情報を載せて、他社と同じような採用活動を行って…では、なかなかいい人材は採れませんよね。

よさそうな人がいたらこちらから口説いてみる、機会を作って自社の魅力を伝えに行く、ターゲットの目にとまりそうな場所で存在をアピールするといった工夫が必要です。いい人を集めるには手間暇をかける必要があるし、またかけるべきだと思います。

部下を選べない管理職の「この指とまれ」

部下を選べないリーダーはどうすれば?

そうは言っても、「この指とまれ」は誰もができるわけではありません。やりやすいのは起業家や社長、新事業のトップに選ばれた人、海外拠点の立ち上げで赴任する人くらい。すでに組織が出来上がっているところに異動や昇進で着任した人には、いまさらメンバーを入れ替える権利なんてないのが普通です。そんな大多数のリーダー・管理者はどうすればいいでしょうか。

                                                                      これは辛い

固定のメンバーで構成された組織の中に管理者が一人で入っていき、その他全員の面倒を見なければいけないという状況は非常に辛いです。最初は、いかにして上図の状況を崩していくかが課題になります。実際に私が日本でも中国でも使っている方法を紹介します。

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                                                                まず見極め

組織にはいろいろな人がいます。話しやすい人、自分(リーダー)のことを好意的・肯定的に見てくれている人、課題意識を持っていて何かと相談してくれる人。逆に、明らかに距離をとっていて、自分からは話しかけず、「余計なことすんな」オーラを出してくる人。それからまだどういう人かわからない、向こうもこちらを様子見している感じの人。

着任したら、まずは周囲をしっかり観察して、メンバーがそれぞれどんな人なのかを見極めます。当初の見込みが外れても構いません。見方を修正すればいいだけ。観察を続けます。

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                                                             最初の声かけ

次に、メンバーの中で一緒にやってくれそうな2、3人に声をかけます。自分が部長で相手が課長だったりしたら簡単なのですが(管理職だけで集まっても不自然ではない)、役職のないメンバーに声をかけるなら、最初の「場」の作り方に工夫が必要です。

「3人だけでつるんでコソコソやっている」という印象を与えないように、何らかの新しいテーマを設定するのがおすすめ。誰がやってもいい改革や、誰にも属さない業務などを見繕って、「よかったら一緒にやらない?」と声をかけてみます。

「いいですね、やりましょう」と反応してくれたら、「この指とまれ」の第一ステップは成功。小さなチームができました。

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                                                            ちょい広げる

いい感じに滑り出してきたら、ちょっとだけ広げます。見込んだ人に自分で声をかけてもいいし、初期メンバーに推薦してもらってもいい。「あの人もこれはきっと共感するはず」という声があれば、同じように呼びかけて反応を見ます。

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                                                        チームで広げる

新たに声をかけた人たちも乗ってくれる感じであれば、さらにチームで広げていきます。加わろうとしない人たちは無理に巻き込まず、また排除もせず、日常業務の指示対応をしながらそのまま置いておきます。

易燃人・可燃人・未詳・難燃人

上図で丸を色分けしていますが、これには意味があります。

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                                            易燃人・可燃人・未詳・難燃人

青い丸で示した人たちは「易燃人」。リーダーの熱が伝わりやすい人たちです。もしかしたら、一人ではどうにもならなくて外に火を広げなかっただけで、自分の中にはずっと小さな火を灯していた人かもしれません。すでに燃えている「既燃人」もここに入れていいでしょう。

青の点線で示しているのは「可燃人」。与える熱量がある程度大きくなったら、火のつく人たち。易燃人に熱が伝わった後は、可燃人と見込んだ人たちに広げていきます。

白抜き黒丸は、どちらともわからない「未詳」の人たち。熱を与えていったら燃えるかもしれないし、ずっと燃えないかもしれない。

それから、明らかに燃やすのが難しそうな人もいます。黒丸で示した「難燃人」です(残念ながら「不燃人」の可能性もあります)。

燃えにくい人は別扱いに

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                                                  燃えにくい人は混ぜない

初めは自分だけで「この指とまれ」をやっていたのが、ミニリーダーたちが現れると、熱源が増加します。燃え始めた人たちはどんどん束にして、お互い燃やし合ってもらいましょう。

イメージは「火起こし」。最初はすぐ燃える人たちに火をつけ、その火種で燃えやすい人たちに火をつけ、一定の火勢になったら少し燃えにくい人たちに火を移していく。いきなり燃えにくい木に火をつけようとしても失敗します。

なかなか燃えない人、燃やそうとするとこちらに湿り気が移りそうな人は、しばらくの間は最も火力の強いリーダーが直接対応し、燃え始めたばかりの火の中に入れて面倒を見させたりしないこと。せっかく燃え上がった火がぶすぶすと鎮火しないよう別扱いにします。

リーダー自身も、自分の力では熱を伝えられないと思ったら、会社のルールと本人の役割に基づいて最低限の仕事をしてくれればいいと割り切ってください。それさえ難しければ人事部マターです。組織から外すしかない人もいるかもしれません。

なお、チームの中に入れるのは難しいけれど、何か得意な分野があり、特定の仕事を任せられる人であれば、うまくやる気を引き出して、その人なりに力を発揮できる状態まで持っていくことはできます。リーダーはその人の存在意義や貢献実感を刺激して、チームに水を差さないように目を配ります。

今日は組織の管理職向けの話なので、トップ向けに一言だけ。経営者は、難燃人・不燃人の扱いを管理職に任せていてはいけません。何らかの形で組織から引き取り、価値を創造できるチームが停滞しないよう施策を打つのは、経営者の大切な仕事。そうしないと、チームは業績に貢献し続けることができなくなります。

今日のひと言

燃えやすい人から加熱していく

この「火起こし」は順番が大切です。いきなり多くの人に声をかけてしまうと、全体の温度が上がり切らず、火がつかないまま終わってしまいます。

何よりリーダー自身が燃えていること。自分の熱を燃えやすい相手に渡し、火が強くなってきたら、可燃人たちに広げていく。途中で火を弱めてしまうものを投入して勢いを削がないように注意しながら、徐々に炎を大きくしていきます。

燃えにくい人に対して、リーダー自身以外の人に火をつける努力をさせないことも大事なポイントです。最後まで燃えない人たちは無理にチームに投入せず、分けて扱った方が部署・組織全体のパフォーマンスは上がると思います。

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。