コラム

中国拠点の人員削減で炎上しないために①…炎上事例および対策の原則【中国駐在】

2025年08月29日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

中国拠点の解雇やリストラで会社にとって最も気になることは、「現地で騒動が起きないか」でしょう。私たち外部の伴走者にとっても、どう騒動リスクを抑えるかは重要な仕事です。

ただ、リスクをゼロにすることはできないので、同時に「起きたらどうするか」の備えも必要です。

今回は、騒動が起きるとどんな状態になり、どう進捗し、どう収束していくのか/いかないのか、実際に経験してきたケースから紹介します。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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中国拠点のリストラで炎上する理由

人員削減は撤退より難しい

人員削減と撤退、どちらが難しいかと言われると、実務に携わる立場としては人員削減の方がしんどいです。撤退の方が要素が多い分、難しいのではと思われるかもしれません。確かに手間やかかる期間は撤退の方が大がかりなものの、難度という点では圧倒的に人員削減です。

なぜなら人員削減は人によって損得が異なるから。撤退の場合、最後は全員解雇。残る残らないの区別はありません。すぐ納得するわけではないけれど、従業員たちも心のどこかで「会社を閉めてしまうなら仕方ない」と思っています。これは取引先や政府も同様。

一方、人員削減では会社に残る人と残らない人に分かれます。すると「なぜ私が対象なのか」「なぜ彼女は残れるのか」となる。人によって扱いが変わる=損得が異なる状況では、自分だけ損するのはイヤだ、アイツだけ得するのは許せないという強い感情が起きます。

ただでさえ強い感情が生じる人員削減で、どういうやり方をすると炎上まで至りやすいか、過去の事例を見ていきましょう。

炎上事例①選定理由で炎上

◾️低評価者を選定
リストラ対象者の選定理由を「低評価」にすると炎上します。政府や国営組織などでは末位淘汰といって評価が低い人から淘汰する政策もありますが、これを民間企業でやると、「あなたは無能だからやめてもらいます」と言っているのと同じです。
実際そうだとしても、これを選定理由にすると、本人は就業機会を失うだけでなく、無能・低評価者の烙印を押されて去ることになります。仮に離職自体は受け入れられる人だったとしても、この理由は受け入れられず、激しく反発・抵抗します。

◾️ベテランを選定
社歴が長く年齢の高い従業員をターゲットにしたために炎上することがあります。会社から見ると、処遇は高いのに働きは悪い、文句ばかり言うということで、ベテラン勢から減らしたいと思うかもしれません。組織構成のバランスがよくない場合もあります。
だからといって「ベテランは働きが悪いから」と表立って言われれば、言われた方は当然反発します。これまで貢献してきた自分たちをないがしろにするのかという話になって炎上します。

◾️若手を選定
逆に、「ベテランは難しいから、他の就業機会もある若手にしよう」というのも炎上します。若いから対象になると言われても、当の若い人たちは納得できません。
今の中国で仕事探しが難しいのはみんな一緒。蓄えがある中高年に比べたら、負担の重い自分たちの方がよっぽど苦しいと考えます。要は解雇しやすいから狙い撃ちにするんだろう、不公平だ、ということで炎上します。

◾️理由を明示しない
対象者の選定理由を明示しないのも危ないです。はっきり言わないと憶測やデマが広がります。会社としてはいろいろ考えた末の決断だったのに、「評価順で決まったらしい」「上司との折り合いが悪いとダメらしい」みたいな噂が流れ、それが独り歩きして、怒りや不満を誘発します。

炎上事例②会社の対応で炎上

◾️意表を突かれて
つい先日飲み会にも行ったし、今年は社員旅行もあったし、来年も頑張っていこうと上層部から声をかけられたばかりなのに、寝耳に水の人員削減。しかも自分も対象に入っている。まったく想定外の状態からリストラが行われると「会社に騙された!」と腹が立ち、炎上につながります。

◾️事務的な対応
会社の対応が機械的・事務的だと、「人情味がない」「人として許せない」となります。

◾️高圧的な対応
会社に「納得できないなら裁判所に行ってください」と高圧的に出られると、それはカチンときます。

◾️一方的な対応
話し合いの機会を設けず、「後は弁護士にまかせてある。出ていって」とやる会社があります。話をする間もなく一方的に出て行けというのは炎上しやすいです。

炎上事例③条件で炎上

◾️期待条件との乖離
「これっぽっち? ふざけんな!」という怒りから炎上することも。

◾️人によって異なる条件設定
なぜあの人がこの条件で、私がこれなのか、納得できないと言って炎上します。あるいは、自分はこういう事情があるから上乗せしてもらうべきなのに、なぜ他の人と同じなのかといったことでも揉めます。条件設定で炎上すると、やれ不公平だ差別だとなりがちです。

炎上事例④どれもなくても炎上

残念なことに、ここに挙げた要素がどれもなくても炎上します。そういう場合、人員削減が原因で炎上したというより、矛先やきっかけがあれば即発火するような火種がもともとくすぶっていることが多いです。たまたま今回、人員削減に乗じて噴出したというわけです。

炎上リスク低減のためにできること

いろいろな炎上パターンで火消しや予防策の制定を手掛けてきた経験から、リスクを低減するために会社ができることをまとめます。

リスク低減の原則①整理解雇の4要件は準用する

日本には「整理解雇の4要件」というものがあり、満たしていないと整理解雇はできません。個別の懲戒解雇などと違って、対象者ありきではなく、会社の業績不振などを理由に人員を削減するのが整理解雇です。一定規模の整理解雇を行う際には、4要件を守らなければならないとされています。

                                                                        整理解雇の4要件

まずは①人員整理の必要性。他の手段ではダメなのか。次に②解雇回避の努力をできる限りしたのか。それから③人選に合理性があるか。最後に④解雇手続きの妥当性が確保されているか。これら四つが問われます。

中国では日本のように明確に定められてはいませんが、従業員と裁判や仲裁で争う事態になった時のことを考えると、準用して間違いはありません。

中国でも司法の場で争うと、解雇の手続きが法定要件を満たしていなければアウトになるし、リストラの必要性や合理性も問われます。最低限、整理解雇の4要件は意識しておいてください。

リスク低減の原則②炎上には2種類あると認識

炎上には実は2種類あります。これは非常に重要なポイントです。

一つは意図的な炎上。誰かが炎上させている場合です。もう一つは、結果的に炎上してしまった場合。この二つはまったく意味が異なり、対応や予防の仕方も変わってきます。

意図的な炎上の場合は心理戦です。仕掛けた側は、炎上した方が自分に有利だと思って炎上させています。それに対し、会社は炎上しても得にならない、むしろ損だと示していかなければなりません。

もちろん、ただ「損だよ」と言ったって効果はゼロ。表裏であらゆる駆け引きをしながら、結果的にそこに持ち込む準備と力量が必要です。

結果的に炎上してしまった時は、たいてい会社側に責任があります。従業員の感情ケアができていれば回避できたはずの事態がほとんど。ケアを怠った(またはやり方を間違えた)ために炎上してしまいます。

意図的な炎上は、それまでの労使関係や主導者の存在が大きく影響するため、会社側の努力や工夫だけではどうにもならないところがあります。逆に、結果的な炎上は会社の事前準備次第で抑制が可能です。

意図的な炎上と結果的な炎上を分けて考え、2種類あることを念頭に置いて対応準備を進めれば、不要な炎上は避けられます。

リスク低減の原則③火種も二つある

炎上の種類の他に、火種、つまり炎上の要因となるものも二つあると覚えておいてください。一つは面子、もう一つは利益です。これはどちらもケアする必要があります。

面子と利益、どちらかを選ぶとなったら、冷静な状態ならほとんどの人は最終的に利益を選びます。面子では食えませんからね。

でも、面子を潰してしまうとこの合理的な計算が働かなくなります。「お前/この会社だけは絶対に許さない」とスイッチが入ると、損得勘定ができなくなって、面子の炎ですべてを焼き尽くそうとします。

要は、面子さえ潰さなければ利益の話になる。その前提で、会社は対象者の面子をケアしながら、利害を示し、応じた方が得だと思ってもらえるように導いていきます。

これは説得やお願いではなく、あくまでも自分でその結論にたどりつくよう誘導するということです。選択肢を用意し、こちらの方が会社としても手厚いことができると説明する。最初は「会社にはだまされないぞ」と思っていた人たちも、自分で考えてみた結果、確かにそうだと納得すれば、そちらの方に動いていきます。

(次回に続く)

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。