コラム
中国拠点の人員削減で炎上しないために②…実例から学ぶリスク対策【中国駐在】
前回に続き、中国拠点の解雇やリストラで、どう騒動リスクを抑えるか、解説していきます。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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炎上リスクをできるだけ減らすために
リスク低減策①苦渋の決断と大義を前面に
ここまでの話を前提に、具体的なリスク低減策、炎上防止策を紹介します。
まずは感情面の対策です。会社としても苦渋の決断だということははっきり述べる必要があります。これは整理解雇の4要件のうち「解雇回避の努力」とも関わります。
例えば、「こういうやり方も検討したが、整理解雇しかないという結論に至った」と経緯を説明する。または「人員整理を行わないと、今の業績では拠点を清算するしかない。清算すれば全従業員が職を失う。取引先にも客先にも迷惑をかける。本当に申し訳ないが、ギリギリまで検討した結果、こういうことになった」と大義を話す。
もちろん従業員だって納得はできないんですが、そういう話を聞けば気持ちが少し和らぎます。尊重されているとまで言えなくとも、ぞんざいに扱われているわけではないことは伝わるので、ここはよく考えて言葉にしてください。思っているだけではダメで、伝える工夫をする必要があります。
リスク低減策②敵は外に置く
現地の中だけで、日本人vs中国人、経営vs現場といった対立を作らないことです。
「日本本社からの命令で、グループ全体として人員削減は不可避と言われてしまった」とか、「客先が来年からこのラインの商品は不要と言ってきて、オーダーが消滅してしまった」とか、もっと漠然と「今の経済環境では業績が上向く見込みがない」とか、現地の経営者が主体的に人員削減に取り組みたいのではなく、脅威は外にあることを強調します。
従業員から見て「確かにあなたたちのせいじゃないよね」と感じられる位置に敵を置き、現地としては最大限の努力をしたが、これ以上は抗えないという図式にして、拠点内で対立構造を作らないことが大事です。
リスク低減策③能力不足を選定基準にしない
低評価を対象者選定の基準にしないこと。例えば、評価Cが何回以上ある人から対象者リストに入れるといったことは避けます。低能力のレッテルを貼られたら、誰でも頭に血が上るのは当然です。仮にそうだったとしても、わざわざ正式な基準として明示することはありません。
リスク低減策④会社都合の選定基準にしない
会社都合を押し通すと、会社の犠牲になる対象者は納得できません。ベテランは働きが悪くてコストパフォーマンスが低いから、若手は解雇しやすいからといった会社本位の選定理由は、事実でも表に出してはダメです。
リスク低減策⑤基準は客観的に
例えば、あるライン自体が客先の都合で消滅するとします。そのラインの100人は全員仕事がなくなる。他の事業で30人は吸収できるものの、70人は辞めてもらうしかない。さて、残す30人をどう選んだらいいでしょうか。
そういう時の基準は、できる限り客観的なものを用意します。過去に転属先の業務に従事したことがある人を優先するとか、転属先ですぐ使える汎用的なスキルを持つ人を優先する、などです。
このような基準なら、漠然とした能力や人格の問題ではないと従業員にも理解できます。逆に、すぐに従事できる人をわざわざリストラして、何の経験もない人を残すとなると筋が通りません。
多少なりとも客観性を持たせれば、経営者や株主の本心は別のところにあっても構いません。少なくとも内外に示せる基準を用意しておくことです。
リスク低減策⑥サプライズは極力避ける
サプライズを避けると言っても、別に「半年後に人員削減します!」みたいに事前に告知しろというわけではなく、会社が急に手のひら返しをしたように見せないということです。
例えば、来年は反転攻勢だとか、新しいオーダーが見込めるから頑張ろうとか、つい最近まで威勢のいいことを言っていた。または、去年の賞与支給の時に、「今年は賞与を削るが、この先にもっと厳しい措置をとらなくてすむようにするためだから、何とか我慢してほしい」と理解を求めた。
にもかかわらず、急にリストラとなれば、だまされたという怒りやパニックが生じます。
人間、理性を欠くと対応がきつくなります。落ち着いている時だったらそこまで言わないのに、冷静だったらここまでやらないのに、というのは誰にもある話。
そういう事態を避けるためには、それまで従業員に出していたメッセージと反対方向に突然舵を切るようなことはしない方が賢明です。リストラを実施するなら、その前から誤った期待はさせない。そうしないと感情が先に立って炎上します。ここは会社として一貫性のある態度を示すことが大切です。
私たちが人員削減や撤退のような厳しいプロジェクトをサポートする場合は、1年前くらいから従業員にそれとなく状況を匂わせ始めます。駐在員や出張者にも(失礼ながら)現地で調子に乗らないように釘を刺します。経営が厳しいのに、日本人はゴルフばかり行っている、宴会でどんちゃん騒ぎしている、夜の店で女性を追いかけ回しているとなれば、現地スタッフは腹が立ちます。痛みを伴う措置を決断しなければならない、その痛みを分かち合ってくれと言うのであれば、分かち合う対象には自分たちも入っているはずです。
リスク低減策⑦感情面で丁寧な対応を
リストラでは、対象者や関係者が感情的になる局面はどうしても出てきます。好きでやっているわけではないのに、心ない言葉を投げかけられることもあるでしょう。ついカッとなって言い返したくなりますが、これはまずいです。
反対に、感情を表に出さず淡々と進めようとするのも行き過ぎるとトラブルになります。対応が事務的・高圧的・一方的だと、対象者には「自分の気持ちはどうでもいいんだな」と思われます。
相手の気持ちを思いやり、対応は丁寧にすべきです。対象者が感情的になったとしても、自分も同じ立場だったらと思えば、怒りも受け止められませんか。感情を雑に扱ったせいで炎上することは非常によくあります。
自戒を込めて言えば、私や弁護士のような立場でも、つい反発したり言い過ぎてしまったりすることがあり、注意しなければと思っています。
リスク低減策⑧条件は公平より平等で
私は人事制度に関しては「平等より公平」を提唱しています。ベースアップや一律手当のような施策が平等。機会は同じように与え、やったかやらなかったかで評価や待遇を相応に区別するのが公平。人事制度では、会社の評価基準をオープンにした上で、やった人とやらなかった人に差をつけないと、挑戦・成長・貢献した人たちに対してアンフェアです。
逆に、リストラや撤退では「公平より平等」が鉄則。こういう状況で公平性を示すのは難しいのと、条件に差をつけられた人たちの不満が先鋭化しやすいためです。
通常の評価だったら、納得できなくても最後は何らかの形で受け入れて仕事を続けます。しかし解雇となると、最後だから言いたいことは言うとなり、過激化するリスクが高まります。
また、騒ぎが大きくなって、政府や上位工会(労働組合)といった第三者が介入してきた場合、人によって異なる条件を設定していると理解が得られにくいです。全員を上限に合わせろと迫られることもあります。
経営者の気持ちとして、より頑張ってくれた人に手厚くしたいという思いは理解できますが、全体的な合理性、無事の決着という観点では、公平よりも平等です。そうしないと収まりがつかないケースも多々あります。
リスク低減策⑨騒いでも粘っても得しない設定
意図的な炎上の場合、騒いだり粘ったりした方が得だと思うと、相手は何とかして騒ぎを拡大しようとしたり、とにかく粘って会社の根負けを誘おうとしたりします。
会社としては、条件や段階的な対応を設定する際、相手の立場から考えて「騒いでも大して得にならないな」「先に応じた方が得なんじゃないか」と感じてもらえるように持っていくことが重要です。心理戦はもちろん、設定自体を工夫することで、炎上の動機を削っていきます。
意図的な炎上は冷静に火消しを
前回述べたように、結果的な炎上は会社側の工夫・努力でかなり抑止できます。しかし、意図的な炎上は計算して起こしているものです。これに関しては事前の用意だけで押さえ込むのは無理で、起きてからの火消しの方が大切になります。
炎上した後の対応を間違えて、他の人たちにも「騒げば騒ぐほどプラスアルファがありそうだ」と思われてしまったら収拾がつかなくなります。うろたえたり譲歩したりせず、相手の面子を潰さないように注意しながら、「騒いでも得になりませんよ」「粘っても何も出ませんよ」と冷静に示し、早期に火の勢いが衰えていくように、恐れず対処することが必要です。
今日のひと言
炎上には2種類あることを忘れずに
特に重要な観点は、炎上には2種類あるということです。意図的に起こす炎上と、結果的に起きてしまう炎上は、それぞれ予防の仕方も対応のポイントも違います。そのことを念頭に置いて、準備や対策を進めてもらえたらと思います。
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この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。