コラム
優秀な人ほど任せられない? 権限委譲のジレンマ【管理職再興】
つい自分で仕事を抱えてしまって、権限委譲できない人っていますよね。なぜ委譲できないのか、どうしたら委譲できるようになるのか。応援目線で考えてみます。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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任せる側の困惑
任せるって難しい!
任せるというのは意外に難しいです。私たちの会社でも先輩メンバーにはずっと「どんどん若手に仕事を任せていってね」と言っていますが、試行錯誤が続いています。任せすぎたり任せなさすぎたり、なかなか程度がつかめずに苦労しているようです。
任せる側が抱えがちな困惑には、以下のようなものがあります。
■任せたのにいちいち相談される
いちいち相談されると、「もう任せたんだから、一つ一つ確認しなくてもいいでしょう。あなたの方で判断してよ」と言いたくなる。
■任せたのにやっていない
ちゃんと説明して引継いだはずなのに、後から気になって確認してみると全然やってない。「もともとの仕事に専念していた」と言われ、手をつけてない追加業務は自分がやらざるを得なくなる。
■任せたらあちこち破綻が
任せた業務について、周りが「ちょっとこれどうなってるの!」と混乱したり影響を受けたりしている。このまま任せておいて大丈夫かなと心配に。
■任せたらクレームが
それが行き過ぎるとお客様からクレームが入ったりして、自分が上司から叱責される。「部下に任せるのと放任は違う。責任を持って管理監督するように」なんて言われちゃうと、どうしても業務に手を出してしまう。
■仕方ないので主導したら上司から指摘
そんなこんなで手を離せないでいると、また上司から「なんでまだ自分でやってんの? 任せなきゃダメじゃないか」と指摘を受ける。
「じゃあ、どうすりゃいいのよ」と言いたくもなりますよね。困惑する気持ちは私も理解できます。
「任せきれない」と「任せすぎる」の間で悩む
観察していると、仕事そのものやお客様への責任感が強い人ほど、なかなか任せきれずにいるようです。あまり責任感がない人は、お客様に迷惑かけたらどうしようとか、業務が回らなくなったらどうしようとか考えずに、ポンと部下に振ってしまいます(よいか悪いかは別の話)。
責任感が強い人はそういうことができない。「お客様に何かあってはいけない」「仕事に間違いがあってはいけない」という思いが先に立ち、ついつい自分で手を出してしまう傾向があります。
そういう人は、任せきれないでいる時に上から任せろ任せろとプレッシャーを受けたり、あるいは自分の仕事もあっていよいよ手が回らなくなったりすると、今度は極端に振れて、任せるを超えて「丸投げ」してしまいます。
つまり「任せすぎ」と「任せきれない」の間で、いかにしてバランスを取るかがつかめない。やたら揺れ動いたり、どちらかに極端に振れてしまって、ほどよい加減がわからない。これで悩んでいる管理職は少なくないように思います。
権限委譲の実践ポイント
任せられない人の特徴…人より業務への関心が強い
あくまでも私の観察ですが、強い責任感は、部下よりも業務への関心が高いことに起因する場合が多いです。これは考え方の癖ですから、いきなり変えたり強制的に抑えることは難しいと思います。そこで少しずつ馴染めるような権限委譲法を考えてみました。
実践ポイント①上に行くほど、人材育成>業務
まずは、仕事で評価されて、もっと上の立場でチャレンジングな仕事をしたい人、職業上の野心や成長・挑戦意欲を持っている人への助言です。
上に行けば行くほど、業務よりも人材育成が重要になってきます。これは業種・規模を問わず、確実に言えます。経営者になったら、各部署の業務にいちいち手を出すことはできません。これでは経営者として失格。上の立場になればなるほど「人」に重きを置かなければいけない。このことを十分に理解してください。
任せるのが下手な人は、もともと「人」より「業務」のウエイトが重いタイプ。しかし、実務を手放さないと部長以上の本来業務は無理です。実務に手を出してしまう部長もいますが、そういう人は部長の本来業務が手薄になっています。それでは部長より上に行けるような評価を得るのは難しいです。
「さらに上に行くためには実務を手放せないと難しいぞ。無意識に持っている責任感のバランスを取り直さないとダメだ」と自分に言い聞かせる。これが第一のポイントです。
実践ポイント②「0か100か」の二択にしない
任せることが苦手な人は、どうしても0か100の両極端になりがち。自分が全部やるか、相手に全部渡すかになってしまう。これも「ゼロか百かではなく、その間で!」と自分に言い聞かせるといいと思います。グラデーションのイメージですね。
まずは自分が主になって、自分90、部下10で動かしてみる。部下が少しやってくれるようになったら、80/20から50/50、そして40/60と、堅実にやれているか確認しながら少しずつ手を引いていく。いけるようになったら、20/80、10/90と、段階的に部下を主にしていきます。
0と100でパチンと切り替えず、少なくとも3段階は踏もうという意識でいると目安になりやすいと思います。
実践ポイント③やってみせる→言って聞かせる→させてみる→承認・肯定する、の繰り返し
「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」。山本五十六の名言です。人材育成の基本ということでよく引用されます。
まずは自分がやってみせます。部下も見るだけなら負荷がないですから簡単です。それから、ポイントはどこか、何のためにやっているのかを説明します。ここまでは相手もフンフンと聞いているでしょう。
「わかった? じゃあ、ちょっとやってみようか」ということでさせてみます。聞いて頭で理解するのと、実際に手を動かすのでは全然違いますから、たいていはうまくできません。
ここで相手の目つきが変わることがあります。パッと見は難しくなさそうだし、理解したと思ってやってみたのに、全然違うぞ、という事態に直面するわけですね。そこで初めて「あれ? 先輩はどうやってたんだっけ?」と気になってくるので、もう1回やってみせます。
この時にやり方の差や意識の置き方をもう一度説明します。初回とは相手の聞くレベルが変わっているため、届き方がまったく違います。そこでもう1回させてみる。
いきなり合格点は取れなくても、前回よりはマシでしょう。ここで少しずつ承認・肯定を始めます。よくなったポイントを探し、そこを際立たせて成長を認める。
このサイクルを、相手が自立レベルを超えるまでひたすら繰り返します。
何巡目かになったら、ただほめるだけでなく「どこが変わったか」「自立してできるようになるまで、あとどれくらい頑張らなければいけないか」を交えるようにします。
自分が手を出さなくていいレベルに到達しても、すぐ「やれやれ、これで安心」と目を離してはいけません。そっと見守ってあげてください。
もちろん、本人が自信を持って取り組むようになったら、ずっと見ている必要はないです。それでも知らんぷりではなくて、時々は声をかけたり、他の人経由で聞いてみたりして、少なくとも順調かどうかくらいは意識・把握してもらえたらと思います。
どこまでいったら手を離していいかといえば、周囲が自分(上司)ではなくこの部下に声をかけるようになったら、というのが一つの目安。
この業務に関して周囲が一人前と認めた、この業務は彼/彼女の仕事と認識するようになったわけですから、もう任せて本人が経験と自信を積んでいく方が成長できます。
さらに、独自の工夫を始めた、周囲の評価が元担当者(自分)よりも高まった、下の部下に教えようとしている…といった状況が見てとれたら、もう意識も外しちゃっていいと思います。
任せる割合が0から100になっても、そこですぐ安心しないで、手を離しても大丈夫と確認できるまでは意識していてあげてください。
今日のひと言
業務は眼前の責任、育成は未来への責任
権限委譲が苦手な人は、基本的には業務に熱心で責任感の強い人が多いと思います。この業務・お客様への責任というのは目の前の責任です。
チームの責任を自分が取るという意識そのものは素晴らしいですが、もう一歩踏み込んでみませんか。いつまでも手を離さないでいると、自分も部下も次のステージに進めません。
人材育成・権限委譲は未来への責任です。
目の前の責任に全集中するのではなく、部下に仕事を任せて自分は新しい仕事にチャレンジできるようにしていく、部下を自立させて同じ業務を新しい構成でやっていけるようにしていくのが、管理職の責任です。
この意識があれば「譲ったんだからあとは自分でやれ、オレは知らん」みたいなことにはなりません。
いきなりは難しいと思いますが、先ほど挙げた実践ポイントを自分に言い聞かせながら、少しずつ程度をつかんでいってください。
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この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。