コラム

中国拠点の組織が崩壊寸前…再生かリセットか【中国駐在】

2025年09月26日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

昨今の中国拠点で、経営者の頭をよぎることが多いテーマです。例えるなら、シロアリにかなりやられている住宅や、錆やらフジツボやらで底がボロボロの船のイメージ。健全な状態を取り戻すにはものすごい手間がかかる。かといって建造し直すのも一大負担。崩壊しかけたチームを救うか捨てるか、見極めポイントを考えます。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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崩壊寸前の組織の典型例

特に海外拠点における崩壊寸前の組織とはどういうものか、典型的な例を見てみましょう。

①慢性赤字
単なる一時的な要因によるものではなく、慢性的に赤字に陥っている。このままでは累積が深刻化していきそう。

②幹部は他人事
こうした状況にもかかわらず、幹部は他人事で、自分の利益やポジションにしか関心がない。あるいは「もうすぐ定年退職。後のことは自分の問題じゃないし」という態度。

③組織は8の字
上位の幹部は固まっているのに、中堅層がごっそり抜け落ち、若手だけが残る組織図になっている。この状態では、たとえ上位幹部を一掃しても、次を担える人材が育っていない。

④派閥組織
複数の幹部がそれぞれ幅を利かせていて、裏でいろいろやっているのも「お互いさま」。誰かが密告すれば自分も槍玉に上がることになるため、牽制が効いている。逆に言うと、部長クラス同士が建設的な議論や批評を行わないのであれば、それぞれの派閥でがっちり固まっている可能性がある。

⑤相互不介入
会議でも相互不介入を徹底。「他部署のことには口を出さないでくれ、オレも出さないから」という暗黙のルールが確立してしまっている。トップが議論するよう促しても、結局話すのはトップや駐在員のみ。

⑥業務はタコツボ化
お互いに干渉せず、派閥ごとにそれぞれのやり方で業務を進めているため、経営側からは各部門・各部署でどう業務を進めているのか、全然見えない。他の派閥の管理者から見ても、やはり何がどうなっているのか分からない。業務がタコツボ化している。

再生のための改革はすごく難しい

こういう組織を抱えていても、閉めていい拠点なら話は簡単です。見切りは早い方がいい、傷が浅いうちに閉めましょう、で終わるのですが、拠点機能の存続が必要な場合は改革かリセットかを選ばなければなりません。

このまま置いておくのはまずいけれど、改革しようにも糸口が見えない。いっそ問題幹部を一掃しようと思っても、どうやってクビにするのか、一掃した後の後任はどうするのかなどが問題になってきます。

また、完全に派閥の均衡が取れてしまっている場合、崩すには一気に全部を変えるしかありません。果たしてそんなパワーをかけられるのか。

頑張ってやろうと決めても、味方はいません。みんな他人事だと思っていて、経営者と一緒に会社のことを考えてくれる人がいない。

いっそリセットした方が…

組織はややこしいことになってるし、改革の糸口も見えないし、味方もいないし、となると、ここは捨てて新たに拠点を立ち上げた方がいいのかなと思いますよね。その方がラクな気がする反面、リセットには多大な資金と手間がかかります。

これまでよりダウンサイズすれば投下資金は少なくて済みそうですが、それでも新しく本社からお金を引っ張ってこなければなりません。本社が出せるのか、出す価値はあるのか、説得も必要です。

立ち上げはゼロからのやり直しです。新たに人を採用して教育して、業務を回せるようになるまでには、長い道のりが待っています。

それから、新規の拠点をどこかに立ち上げるとしても、既存の拠点は閉める必要があります。そのまま置いておいたら重荷が増えるだけですからね。確実にクローズできるのか、従業員や政府筋は大丈夫なのか、いろいろ考えてしまいます。

万一閉められなかったら…などという考えが頭をよぎると、いやいやリセットは大変だし、やっぱり再生した方がいいのかも、と心は揺れます。

再生かリセットかの判断基準

再生するべきか、それともリセットするべきか。この判断基準に唯一の正解はありません。最後は個社で判断するしかないという前提で、私が相談を受けたらよくお伝えしている基準を紹介します。

判断基準①実現可能か

最初に見るべきは実現可能性です。再生とリセットのどちらがより合理的かを考える前に、そもそも実現が難しければ、それは選択肢になりません。

3つのケースがあります。
a. 両方とも実現可
b. 両方とも実現不可
c. 一方だけ実現可

この中から選ぶと思いきや、現実には、これらの選択肢と、ここに挙がっていない「現状維持」を比較することになります。

「再生かリセットか」と言ってるのに、どちらも選ばずに現状維持では反則みたいですよね。でも、多くの会社では現状維持も視野に入ります(検討した結果、なし崩し的に現状維持に進むことも少なくありません)。

現状維持が悪なのかというと、そうとも限りません。未来ある意思決定として、リセットでも再生でもなく、現状維持を選ぶこともあり得ます。

例えば、問題の元凶が第一世代の幹部の場合です。下の世代は理解があり、既得権益の確保に汲々としないタイプが揃っている。会社の経営体力もあと数年は持ちそう。だったら、第一世代の定年まで時間稼ぎをして、問題幹部がいなくなった後に改革を進めてもいいでしょう。この場合の現状維持は大いにアリです。

市況も理由になります。経済動向で現在は非常に厳しいものの、過去のデータから見ると勢いは確実に戻ってきそうだと。売上が上がれば、お金をかけて大胆な改革もできるようになります。だから次の波が来るまでは待ちの姿勢ということです。

このように未来が見えていて、現状維持が有効で前向きな手段であればいいんですが、現状維持したところで未来がないなら、先ほどの選択肢a〜cに限定して選び直しです。

再生とリセット、両方とも実現不可(b)なら健全な撤退。後ろ髪を引かれる思いはあるかもしれませんが、切り替えるしかない。そうしないと未来はさらに厳しくなります。

再生のみ、またはリセットのみが可能(c)なら、それ以外に未来がないんですから、腹を決めてください。コストやリスク、さまざまな阻害要因をできる限り取り除いた上で、スムーズに進めましょう。

判断基準②総合的な合理性

再生とリセットのどちらにも実現可能性がある場合(a)は、総合的な合理性で判断します。

総合的な合理性を判断する要素

コスト:
新設する方はある程度予測できますが、閉める方には予期しないコストが出てくるものです。最も会社に都合よく進んだ場合と、最悪の場合のコストを両方出してみる必要があります。再生する場合のコストも算出します。問題幹部を整理するには資金が必要ですし、紛争になればその解決にも費用がかかります。

リスク:
リセット(新設&閉鎖)より、既存の組織の改革再生の方がリスクは高いです。労務問題、客先への供給責任、政府からの介入などを含めて、両者のリスクを天秤にかける必要があります。

実行難度:
リセットと改革再生、どちらの実行が難しいかも考えなければなりません。

未来の経営の自由度:
いまこの瞬間だけではなく、5年後、10年後の経営環境や経営方針の変化を見越した時に、より経営の自由度があるのはどちらなのか。これは観点が二つあって、一つは拡張性、もう一つはクローズの容易さです。自社にはどういう未来があり得るか、それにはどちらがいいかを考えます。

再生かリセットか、仮の目安

これらを総合的に判断しなければならないのでバシッと数値算定はできませんが、判断に使える仮の目安はあります。

黒字または資金が潤沢か:
資金面に大きな心配がないか
ということです。いまのところ黒字が確保できている、または過去の経営で相当程度のキャッシュを現地に積み上げているなど、資金が潤沢で経営の基盤が安定しているなら、リスクを取りやすくなります。資金がカツカツだと、あるように見えた選択肢が実際はないという場合もあり、ここは非常に重要です。

柱や基礎(未来を担う人材)が大丈夫か:
いまある組織を再生するには大改革が必須です。マイナスの影響が強い幹部にはお引き取り願うシナリオになります。彼らが去った後、未来を担う人材が会社にいるかどうか。家のリフォームでも、不具合を取り除くのに基礎や柱まで手を入れるようだと、実は全部建て替えた方が安く、安全で、よりよいものがつくれますよね。派閥のボスと一緒に自分も辞める、または裏ボスの側について会社と戦うような人ばかりで中間層が形成されていると、不具合と一緒に柱や基礎まで取り除くことになってしまいます。

腐食の程度(ブラックボックス):
組織の腐食がどの程度進んでいるのか。従業員がみんな派閥に属していて、改革に協力どころか、情報の提供を拒んだり、データを消去したり、焼却したり、流出させたりしそうだとなると、これは腐食が大きすぎます。もともと錆を落として使おうと思っていた船も、船底を全部敷き直さなきゃダメとなればリセットした方が安上がりかもしれません。業務がどの程度まで属人化されているのか、どの程度までブラックボックス化しているかも考えに入れる必要があります。

本社の覚悟:
本社が覚悟を決められるかも基準になります。改革再生はリセットより紛争になりやすい。不可避といっても過言ではありません。もちろん最初から「肉を切らせて骨を断つ」でいくわけではありませんが、ノーリスク、ノーコスト、ノーダメージではいかないです。最小限に食い止める工夫はするものの、こちらにも痛みがあるという覚悟は必要です。一方、リセットの場合はコスト負担を引き受けなければなりません。この意味での流血に腹を括れるか。どちらにしても本社の覚悟は必要です。

リセットの方が疲労は軽い

改革やリセットをサポートする側として思うのは、リセットの方が、既存の組織で大改革の戦いをするより疲労は軽く、気持ちもラクです。変な話ですが、費用がかかる分、スムーズにやりやすいのがリセットだと思います。ただ、現行の組織に失いたくないもの(新設法人には移管できない資格など)がないなど、実施には条件がつきます。

また、大改革の戦いが局地戦で済みそうな場合は、閉めてしまうのは惜しいです。見込みがあるなら再生も当然選択肢に入ります。さまざまな角度から総合的に考えて検討してください。

今日のひと言

資金がネックになる前に対処を

資金がないから再生もリセットも無理となってしまうと、もう閉めるしかありません。しかも閉めるにもコストはかかります。資金面が判断のネックになる前に動くことを強くおすすめします。

いくらキャッシュがあるからといって、現状維持で意思決定を先送りし、資金をどんどん食い潰していくのは危険です。潤沢な資金がある時と、急に細ってきた局面では、判断の前提が大幅に変わってしまいます。問題から逃げるのに現状維持を使ってはダメです。

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。