コラム

中国駐在経験者が口を揃えて言う「実際に行って分かったこと」

2025年10月04日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

「いろいろ聞いてはいたけれど、赴任してみて初めて分かった」という話、よく聞きます。今回はどんな点が意外だったのか、行ってみないと分からないギャップを紹介します。事前に少しでもイメージできていると、行ってからの動きが変わりますよ。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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赴任して初めて分かったこと

今回は特にこれから中国に赴任する皆さんに、助走期間に読んでいただき、あらかじめ心の準備をしてもらえたらと思っています。中国だけでなく、他の国でも同じようなことはあるでしょう。特に設立からの期間が長い拠点ほど、共通性があるかもしれません。

いろいろ聞いてはいたけれど

赴任が決まると、みんな行く前にいろいろ吹き込まれます。前任者、過去の赴任者、ネット情報などで「中国は大変だよ」と聞いて身構えていくわけです。で、実際に行ってみると、実はちょっと拍子抜けする人が多いです。

まず、思ったより業務は回せている。聞いてた話より全然いけてるじゃないか、むしろ昔スポット支援で行った拠点に比べたらここの方がいいよ、という感じがする。

現地社員の反論・反発も意外に少ない。いろいろな嫌がらせがあると聞いてきたけれど、来たばかりの自分があれこれ指示しても、明確にノーを突きつけてきたり、議論をふっかけてくる人はいない。基本的にはおとなしく聞いてくれる。

事業への主体性がないことに気づく

しかし、少し慣れてくると、「あれ?」と思い始めます。まずは報連相がすべて「どうしましょうか」で終わる。報告も連絡も相談も「こういう分析をして、こういう理由で自分はこう思います。総経理はどう思われますか」という感じではなく、いきなり「どうしたらいいですか」と丸投げしてくる。これは管理者でも同じ。

また、議論や仕切りが苦手で、会議では常に受け身。横同士でフラットに意見をぶつけ合うことはせず、常に「ボスが決めてよ」という雰囲気が漂っている。

指名されれば発言はするが、気の抜けたことしか言わない。会議を通じていいアイデアが生まれた、結論を出せたといった充実感がなく、常に不完全な議論で終わっている気がする。

口に出さないだけではなく、管理職でさえ自分の考えを持っていない。意見を聞いても「それよりボスの考えを聞かせてください」で終始してしまい、どうも物足りない。また、本来なら課長が決めればいいようなこと、日本だったら係長くらいでやっている仕事までお伺いを立ててくる…。

これはよく言われることですが、中国では本当に横連携をしません。そんなことくらい横同士で話したらいいじゃないかと思うようなことも、上司に「何とかしてくれ」と言ってきます。

この辺りまで見えてくると、最初に「意外に回せている、よかった」と思った分、仕事・事業への主体性のなさが目についてきます。誰もが自分の業務の枠から出ようとせず、上から下まで一人も会社目線は持っていないように感じてしまいます。

そしてショック・失望・諦めへ

だんだん耳が現地の言葉に慣れてくると、いろいろな話が聞こえてくるようになります。赴任直後は余裕がなくて見分けられなかった、従業員たちの表情やしぐさも分かるようになってきます。

いろいろなところで、いろいろなことが見えてくると、思ったよりも根深い病巣があることに気づき始めます。

部長同士は決してお互いの縄張りには手を出そうとしない。業者との間で明らかに不自然な動きがある。他社から「おたく、大丈夫?」みたいな声が聞こえてくる。決定的な証拠はないものの、静かに深く根を張る利権の存在がだんだんと感じられてきます。

会社の経営状況が芳しくないと、これからどうしていくかを真剣に議論しなければならないのに、どうやら危機感を持っているのは自分一人だと思い知る場面もあるでしょう。

幹部は会社の未来に無関心で、定年退職まであと数年をやり過ごすことだけ考えている。もう少し自分の部下や後輩、会社の未来に向けて責任を感じてくれてもいいんじゃないか、露骨に「自分さえよければオッケー」という態度はどうなのか…。

幹部も他の従業員たちも、結局のところ全体の利益を軽視して自己利益ばかり追求していると感じれば、駐在員としてはやはり傷つき失望します。

その後は、自分の心を守るために、「海外だからしょうがない」「中国はこんなもんだよね」という諦めに至るしかありません。

心持ちの変遷を知っておく

典型的な心の動き

最初は覚悟してきたのに、蓋を開けてみたら、意外に回っているじゃないかとホッとする。次に、確かに業務は回っているが、実は個々の仕事レベルは全然ダメだとわかってくる。そのうち、内情はこんなだったのかと失望し、動かすのは無理だと諦めてしまう。

これが典型的な赴任者の心持ちの変遷だと言えるでしょう。

もちろん、全員こうなるという話ではありません。気持ちがこのように動きがちだということを、ぜひ赴任前の人たちに知っておいてほしいと思ってまとめました。あらかじめ知っていれば、現地で一喜一憂することがなくなりますから。

今日のひと言

最初から諦観をもって改革想定を

「諦観」という言葉の本来の意味は、諦めとは違います。もともとの仏教用語では「あきらかに物事を見る」こと。

赴任当初は、なかなか本質が見えないものです。

新入社員もそうですよね。最初はいいところや頑張っている様子が目に入ります。それが半年〜1年も経つと、本人も慣れてきて、こちらもいろいろ見えてくる。第一印象がよかった分、だんだんアラが目立ってきたり、評価がドーンと急落したりします。

しかし、最初からそういうものだとイメージしていたらどうでしょう。初めはいい部分に目が行くもので、そのうち、足りないところや苦手なところも見えてくるはずだ、と。

私は、自社に新人が入ってきた際、先輩たちが「今度の新人はすごい!」と興奮していると、「前回も前々回も同じこと言ってたで。だんだん足りないところも見えてくるから、その際に、期待した分だけ失望した!みたいなこと言うなよ〜」と先回りして突っ込むようにしています。

海外駐在も一緒。赴任前から心の準備ができていれば、現地で何が見えても、いちいち感情を動かされなくてすみます。

私も長くこの商売をやってきていますので、あえて断言します。設立5年を超えるような中国拠点は、赴任直後に見える光景がどうだったとしても、ここ数年で大改革に舵を切っていない限り、水面下には必ず問題があり、改革は必要です。

もし社内に問題がなくても、外部環境は10年前、20年前と比べると、まったく違う国であるかのごとく変わっています。今までと同じことをやっていて通用するわけがありません。

改革というのは現状否定ですから、痛みを伴います。当然ながら反発もあります。どんな組織でも、相当に覚悟を決めて、無理解と闘いながら、最後は相手が根負けするように持っていかない限り、改革は成し遂げられないものです。ぜひ赴任前の助走期間から心づもりをしておいてください。

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。