コラム
中国で内部通報制度を機能させるには【中国駐在サバイバル】

中国拠点の経営管理において「不正対策」は重要領域の一つ。内部通報制度はその典型的な手段です。私たちも内部通報制度のあり方について相談を受けたり、通報された問題への対処に関するセカンドオピニオンを求められたりすることがしばしばあります。今回は事例を踏まえて、内部通報制度の留意点を考えます。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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内部通報制度の現在地
内部通報制度とは

社外専門家を窓口にする場合
内部通報制度とは、会社組織などに不正や問題があった時、内部の人たちが通報できるように窓口を整備して、会社の健全性を保つという制度です(とっくにご存知ですね)。
コンプライアンス部など社内の専門部署が窓口になる場合もあれば、弁護士など社外の専門家に依頼する場合もあります。その両方を設置している会社もあります。
社内窓口では揉み消されたり不都合が出たりする可能性があると考え、通報先を社外専門家のみにしているところも。この場合、社内窓口は社外専門家からの連絡を受ける役割です。事実関係の確認サポートや内部的な対応を行います。
社内窓口で通報を受ける場合も社外専門家とのつながりはあり、扱いが難しいケースは社外に相談できるようになっていることが多いです。海外拠点の場合は、社内窓口が日本本社のこともあります。
有効性にいろいろな難題…日本の場合
中国拠点における内部通報制度については、私たちにもよく相談が舞い込みます。正直に言うと、この制度は有効性にさまざまな課題があり、中国で効果的に機能させるのはハードルが高いです。
では日本では機能しているかと言うと、まだまだ課題があります。
日本の課題は、通報がなかなかされないこと。同調圧力が強く、そもそも通報することに心理的な抵抗感があります。それから報復。仲間を裏切ったとみなされ、さまざまな方法で報復されたという話が絶えません。
結果、通報する側が安全だと思えないため、本当は通報したいこと、あるいは通報しなければならないと思っていることがあっても、結局見送ってしまいます。また、仲間を守るため通報が揉み消されることもあります。
日本の課題は、通報者や通報内容の保護にあり、まだ十分に活用できているとは言いがたい状況にあると感じます。
中国における内部通報制度の課題
通報者保護より悪意の通報に振り回されないこと
日本では「通報者や通報内容をどう保護し、必要な通報を促すか」が大きな課題ですが、中国では、それ以前に「悪意の通報をどうするか」という点に頭を悩ませることが圧倒的に多いです。
何も対策をしないと、恣意的な、あるいは自己利益を図るための通報ばかりになってしまいます。私が実際に見てきた中で、どんな通報があったか挙げてみます。
【厳格な管理者をつぶしたい】
自分たちの部署の上司が真面目すぎる。厳しいことばかり言ってきて、うっとおしくてかなわない。何とかして追い落とそうと、複数で示し合わせて「部下にパワハラ」「業者と結託して不正」「えこひいき評価」など、本人に問題があるような内容で通報。会社から調査が入り、ポジションから外されることを期待した(外されなくても、調査を受けたというだけでダメージになることも狙った)。
【不正の輪に入らないヤツを排除したい】
部署ぐるみの不正を働いているが、一人だけ輪に入らない同僚がいる。このまま置いておくと危険だと考え、内部通報制度を使って告発。これも複数で声を上げることによって、あたかもその人に問題があるかのように見せた。
【不正の仲間割れ】
社内ネットワークを駆使して不正をやってきたが、利益の分配などを巡って仲間割れし、一方が通報した。
【おいしいポジションの後釜狙い】
不正で旨みを得ているポジションがあり、その座を狙った部下や同僚が内部通報で告発。おこぼれを分けてくれない課長や部長を排除したい場合、同格のポジションへのスライドを狙った場合など。
これは捏造ではなく実際の不正摘発のために通報しているので、行為は正しいが動機に問題あり。前任者を追放した後は自分がそのポジションに収まって模倣する。
【派閥間抗争】
お互いに甘い汁を吸っている間は相互不可侵でやっているが、何かでパワーバランスが崩れると派閥間抗争に発展する。敵対する派閥を倒すために内部通報を利用。
【解雇される前に総経理を糾弾】
問題幹部を解雇しようと準備していたら、それを察知した本人が自分を守るために「総経理には問題がある」と通報。駐在員にダメージを与え、自分が生き延びようとした。本社役員や董事会メンバーの全員に告発メールを送りつけたケースも。
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中国では、こんなことのために内部通報がしょっちゅう使われます。「この通報は非常に気になる。組織ぐるみの問題のようだから、慎重に調査をして、不正があれば是正していきましょう」といった、本来あるべき取り組みの発端となるような内部通報は非常に少ないです。それでも通報されたら放置するわけにはいかないため、対応する側は非常に疲弊します。
中国で機能させるために
残念ながら、中国で内部通報制度を有効に機能させるための決定的な方法はまだ見当たりません。その前提で、今できることを私なりにまとめます。
まずは日本と同じ感覚でとらえないこと。したたかな人たちがいる中国では、日本のように「通報者を守る」「勇気を出して告発してもらう」こと以上に、99%は悪用されることを前提にしておかなければなりません。
通報者保護や利用促進にばかり気を取られていると、まんまと利用され、かえって組織全体がおかしくなります。真面目な人たちがバカを見る結果を招くことも。最初から日本とは違うと思っておく必要があります。
また、個人を名指しして糾弾している場合、もちろん実際に問題がある可能性も否定できませんが、通報内容の具体性は冷静にチェックする必要があります。内容が具体的で、複数から告発があれば、内々の調査に動きます。ほとんど讒言・罵詈雑言に近い決めつけに関しては、軽々に動かずに続報を待つ(促す)ようお勧めすることもあります。
不正対処のプロとして内部通報制度を一緒に運用する
中国における内部通報については、有効性に問題があり、本来の目的である不正の撲滅につながらないことから、私たちは長らく対応に関するセカンドオピニオンを出すだけにしてきました。しかし、最近は宗旨変えして、今は私たちが「内部通報窓口の代行」サービスまで提供しています。
宗旨替えした理由は三つあります。
①中国事業における駐在員の減員・経営の現地化が不可避の流れとなり、内部牽制の仕組みは(費用対効果や有効性に課題があっても)複合的に設置した方がいいと考えるようになった。
②日本で社外取締役などから海外拠点の内部通報窓口設置を求められるようになってきた。
③どうせ設置するなら、自分たちで手がけた方が副作用・悪用を抑制できると考えた。
「話は分かったけど、これって外部通報窓口では?」と感じた方、鋭い。外部に設置したら外部窓口ですよね。でも、私たちは自社のサービスを「内部通報の代行」と定義しています。
理由は、外部通報窓口だと第三者としての完全なる中立性・客観性が求められるから。でも、私たちは中国特有の問題を回避するため、経営管理の観点からフィルターをかけます。それが自分たちの介入する意義だと考えていますので、やはり外部通報窓口とは違います。
駐在員の減員が続く中、内部統制の強度を確保する上で、一定の役割を果たせると自負しています。
今日のひと言
一筋縄ではいかない世界
内部通報は一筋縄ではいかない世界です。仕組みがあれば不正を抑止できるか、健全な環境を確立できるかというと、反対に振れてしまうケースもあります。環境が違えば打ち手も変わると意識して、内部通報制度を取り扱ってください。
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この記事を書いた人
多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。