コラム

日本人にできることは中国人もできる【中国駐在サバイバル】

2025年12月05日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

中国で駐在員の悩みを聞いていると、「日本人のようにはいかない」「結局、難しい仕事はいまだに自分(総経理や総監クラス)がやるしかない」「国情の違いと思ってあきらめるしかないんですかねぇ」といった話がよく出てきます。

今回は、これから現地で指揮を執る人、現地で苦闘奮闘している人へのエールとして、中国での社員の鍛え方、仕事の任せ方を考えます。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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悟りの境地の実態は…

新任者の悩み

私がこの20年近くの間に新任者から伺った悩みです。

【当然/無理】
日本人駐在員が「こんなの当然でしょ」「当たり前だろう」という局面で、現地の社員たちは「中国では無理」と返してくる。自分たちはやったことがない、前任者にもそんなことは言われなかったなど、「当然ではない」と主張される。

【詰め/差不多】
日本人は仕事はきっちり、詰めが大事だと思っている。一方、中国でよく耳にするのは「差不多」。「差が多くない」という字面から、だいたいは仕上がっているのかと油断してしまうが、一歩踏み込んで確認すると、まだ着手さえしていないという時も(私のような細かい人間は、そもそも差があるという時点で気になる)。
そして、日本人が詰めの甘さを指摘すると、「『差不多』でいいのに、なんで日本人はそんなに細かいことを気にするんだ」と不満を抱く。

【なぜ勝手に/こっちの方が】
会社としてルールが決まっているのに、少し目を離すと勝手なやり方で進めてしまう。規則に従ってやるように言っても「こっちの方が合理的だ」と悪びれない。

【仕事は協働/自分の仕事】
日本人にとって仕事は協働でするもの。ほとんどの仕事は相互につながっていると考えている。一方、中国の人たちは自分の仕事を区切りたがる。何か頼むとすぐに「それは私の仕事ではない」と言い、同僚が困っていても定時にさっさと帰ってしまう。

ほとんど真逆

……どうでしょう。ほとんど真逆ですよね。日本人にとっては、ずっと当たり前だと思ってきたこと、こうするのがいいと信じていたことをことごとく否定されるため、潔癖で正義感が強い人などは赴任直後に病みかけてしまうこともあるようです。

それでも仕事ですから、みんな最初は頑張って指導します。ところが何回言っても変化がない。ちょっとよくなったと思ってもすぐ元に戻ってしまう。そんなことを1年も繰り返していると、多くの人は「中国では無理」と思うようになります。

いわば悟りの境地ですが、実態は根負けです。相手が動かないから、動かそうとした側が諦めたということ。私はいろいろな会社で悟ってしまった駐在員を見てきました。赴任前や赴任直後のやる気にあふれた姿を知っていると、わずか1年で悟りの境地に至ってしまった人を見るのは心が痛みます。

本当に中国人には無理なのか

起点・アプローチが異なるだけで、器・考え方に優劣なし

日本人と中国人には、真逆な部分もたくさんあります。ただ、それはスタート地点・アプローチの仕方が異なるだけで、能力・理解力・吸収力の問題ではありません。

実際、私がお会いした中国の仕事人の中には、非常に優秀で印象に残っている人たちもたくさんいます。

例えば、完全に経営目線を持っている人。本社・現地の駐在員トップ・総経理・董事長以上に経営的な観点から課題意識を持ち、意見を言える人もいます。そういう人については、日本本社の社長が現地トップに「この人を辞めさせたら、お前はクビだからな」と言っていたりします。

また、日本人駐在員以上に、何なら本社より危機感を持っている人材もいます。「うちの駐在員たちがあまりにも中国に無理解で、マネジメントに支障が多発している。学んでもらう機会を作りたいが、自分たちが言っても効果がないので、小島さんからガツンと言ってほしい」と中国人幹部が相談してくる。マネジメントに対する危機感を日本人より強く持っています。

ボスを啓蒙できる人もいます。危機感も経営目線も持ち合わせない日本人駐在員が、辞令が出たからとりあえず総経理・副総経理・工場長をやっている。当然、現場で問題行動があってもなす術なく放置。それを中国人のサブが説得したり代わりに締めたりする場面も見てきました。

どれも特殊なケースではありません。処遇が異常に高いとか、小さい会社ではとても採用できない高スペックだとか、そういう人たちではない。どの会社でも採ろうと思えば採れるような人材の中にも、こういう人たちはちゃんといます。

私が見てきた経験から、仕事人としての器・考え方において日本人の方が明らかに優れているということはありません。日本人の方が日本本社の考え方ややり方に馴染んではいますが、これはベースとなる器量や潜在力の差ではありません。

現地のトップとして適性を欠く日本人駐在員・赴任者もいるし、日本人より日本的な経営管理を徹底しようとする中国人もいる。もちろんお互いにその逆もいます。わざわざ言うまでもないことですが、国籍と能力・資質には大きな関係はないと感じます。

中国の人たちは、日本の方針や管理手法に対して理解不能・受け入れ拒否なわけではない。ただ、私たちが日本で馴染んできたのと同じやり方ではうまくいかないかもしれません。

すり合わせでいいところを組み合わせる

お互いにこれまで馴染んできた考え方が違うという前提で、いいところを組み合わせていけるよう、すり合わせは必須です。

例えばこんな領域で、やりようによってはいい効果が生まれると思います。

【PPPPPPDCA/DCADCADCA】
日本は「PDCA」の「P」を重視します。まず持ち帰って、よく検討し、差し戻されてまた上げてを繰り返し、ようやくゴーサインが出る。

一方、中国は「試試吧」。とりあえずやってみようという文化です。準備に時間をかけるくらいだったら、まずやってみます。うまくいかなかったら調整すればいい、ダメだったらやめればいいと思っています。

これはどちらがいいというものでもないです。ただ、私は日本のやり方だけではこれから通用しないと思います。中国のやり方だけでも危うい。持ち味の違いを理解しながら、すり合わせをしていくべきです。

【水田/交易】
日本人は昔から水田でコメを作ってきました。外敵のない島国で、気候も温暖、水資源にも恵まれていたので、「一所懸命」でずっと同じところで同じ人たちとコメを作っていれば食べていけました。

一方、中国は異民族のいる地域と陸続き。主に商人として交易で生きてきました。交易は自己主張しなければ損をしてしまいますし、今高く売れる物が「いい物」です。

これもどちらの方がより優れた生き方かという話ではありません。それぞれ異なるコミュニケーションスタイルや思考スパンを獲得しているため、自分たちのビジネスを育てていく上ではどんな時にどの発想が有効なのか、いいとこ取りで組み合わせていけばいいと思います。

【会社/個人】
会社と個人の関係の捉え方も大きく違います。日本人は会社という場、全体としての利益を考えます。端的に出るのがお詫びの時。日本人は迷惑をかけた本人ではなく上司、会社が出ていくことで解決を図ります。

一方、中国で上司がお詫びに行くと、「あなたじゃない、本人に責任を取らせろ」という話になります。だから、中国人社員はとりあえず言い訳をする。罪を認めても庇ってくれる人がいない社会を生きてきた人は、自己弁護をしておかないと尻尾切りされてしまうと考えます。

日本的な潔さと中国的なしぶとさ。これもどちらがいいという話ではない。中国流が意味を持つ時もあれば、日本流の方が評価される時もあるでしょう。うまく使い分けることを考えればいいと思います。

今日のひと言

根負けせず採用と育成で対処

現地に赴いたら、「中国人には無理だ」「中国だからしょうがないよね」はいったん封印して、半年〜1年は根負けせず頑張ってください。ただ、同じ人を相手にひたすら同じやり方を続けていても通じない可能性はあります。その場合には、相手を変える、やり方を変えることも考えてみてください。

お互いの違いを理解してすり合わせができる人は中国にもいます。特に重要なポジションには、柔軟性がありそうな次世代を登用したり、社内にいなければ外からの採用を考えたりと発想の転換をしてみてください。

なかなか通じない相手にゴリ押しするより、価値観をスッと共有できる人を登用した方が根本的な解決になります。

そういう人材の中には、こちらの器を超える域まで伸びてくれる人もいます。駐在員として、育てがいのある部下に恵まれたら嬉しいですよね。ぜひそういう人を見つけて、育成に取り組んでもらえればと思います。

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。