コラム
新任者はここで値踏みされている!【中国駐在サバイバル】

これから赴任する駐在予定者、赴任して間もない駐在員向けの話。日本でも「上司は部下を理解するのに3年かかるが、部下は上司を3日で見抜く」というように、どの国であっても部下が上司を見る目は鋭く、またシビアです。
特に中国では、新しい駐在員の器を見極めるべく、現地社員たちがいろいろな揺さぶりをかけてきます。今回は、特に着任直後に気をつけるべきポイントを紹介します(ただ、これらを押さえておけば万事OKというわけではないのでご注意を)。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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中国新任者に対する値踏みポイント
現地の目は3種類
現地の社員は、組織によって多少の違いはあれど、通常、3つのグループに分けられます。各グループの人たちは、それぞれ新任者への目線が異なります。順に見ていきましょう。
①厄介な人たち
残念ながら、どの拠点にも厄介な人たちはいます。隙があれば自分の利益を確保し、会社の利益なんかどうでもいいという人たちです。
この人たちは、まず新任者が警戒すべき相手かどうかを見定めようとします。自分たちから見て要注意人物、つまり改革をしようとしたり、不正やブラックボックスにメスを入れようとしたりする人間かということです。
駐在員の弱みを握っておけば自分たちに不利益なことはできないだろうと考えているため、弱点や隙もあれこれ探します。
雑な表現ですが「喰えるヤツか」も見ています。
これにはいろいろなパターンがあります。代表的なのは自分たちがマウントを取れるかどうか。駐在員がおとなしいタイプで、こちらが強気に出れば何にも言えない、見て見ぬふりをすると分かれば、ここぞとばかりに優位に立とうとします。
もう一つは、自分たちの側に取り込めるかどうか。ちょっと金銭を握らせたり、不正に加担させたりして、「利益を得てるんだから文句は言えないだろう」と口を塞ぎにかかります。
要は、厄介な人たちがやりたい放題やれるかという観点から見ているわけですね。
②頼りになる人たち
次に、会社と一緒になって成長・挑戦していこうという人たちです。会社と自分の利益を一致させて、同じ方向に進もうと思っています。
すでに傾きかけたり喰い物にされたりしている組織でなければ、こういう人たちが全体の5%〜10%はいます。駐在員が最も頼りにすべき人たちです。
彼らは、新任者が信用できるかどうかを見定めようとします。これは信頼や親近感以前の最低限の信用です。厄介な人たちの側に取り込まれてしまったり、虚偽の報告を鵜呑みにして組織をシッチャカメッチャカにしたりしないか、または不真面目でやる気のない「仕事人としてダメでしょ」という人ではないか、確かめます。
ここをクリアすると、次は現地で戦えるかを探ります。現地経営において、ルール導入や痛みのある決断が毅然とできるか。功罪ある過去の蓄積に対して「ダメなものはダメ」と言えるか。現地の実情を理解しない本社からの非合理的な要求や指示から体を張って現地を守れるか。
これらを踏まえて、本当に信頼できるリーダーか、自分たちがついていくに値する人間かを判断します。
③日和見な人たち
その他大勢、そんなに強い思いを持っていない人たちは、初めのうちはただ「嫌なヤツ」か「まあ嫌なヤツではなさそうかな」程度で様子見です。
改革の成否を握るのは「日和見な人たち」
この3グループの人たちが駐在員をどう位置づけるかによって、任期中のアクションの難易度は大きく変わります。
厄介な人たちは、駐在員が始動する改革における戦いの激しさを左右します。この層が多く強固なほど厳しい戦いになり、こちらの覚悟・準備レベルも変わってきます。
頼りになる人たちは、改革や変革のレベルを決定づけます。そういう人がいない、それほど強固ではない状況で、駐在員だけが孤軍奮闘しても大きな改革は難しいでしょう。頼りになる人たちのレベルや人数、どこまで潜在能力を引き出せるかによって、改革の到達可能ラインが変わります。
そして改革の成否を握るのは、実は日和見な人たちです。彼らが厄介な人たちに呼応して会社に反旗を翻すか、挑発に乗らず傍観するかによって、改革の成否が大きく変わるからです。
例えば、8割の社員が日和見だとします。厄介な人たちがストライキを扇動した時に、日和見層が同調すれば全体のほぼ9割がそちらに流れてしまいます。これを押さえるのはかなり厳しいです。
一方、日和見な人たちがスルーしてくれれば、厄介な人たちはせいぜい1割、どんなに多くても2割といったところですから、局地戦で終わります。
赴任直後から3種類の視線を気にしなければならないというのは、新任者にとってはなかなか苦しいと思います。でも、せめて最初のうちは自分が値踏みされているという緊張感は必ず持っていてください。
「上司が部下を見抜くには3年かかる」と言われますが、部下は新任者を3日で(…とまではいかなくても、3週間、3か月もあれば)完全に見抜きます。その前に無防備にガードを下げて3つのグループすべてから低評価をつけられてしまうと、その後の任期がものすごく大変になります。
現地社員はどこで/どこを見ているか
職場で注意! 態度・ワナ・挨拶
職場で見られているのは、まず態度です。
新任者が部長クラスだとして、総経理(現地トップ)に対する態度と、課長や担当者に対する態度がまるっきり違う。本社の上役からかかってきた電話には丁重に対応しているのに、部下だけの会議だとぞんざいな口ぶり。このように上と下で態度が違う人は嫌われます(どこでも同じですね)。
妙に気を遣ってバカ丁寧だったり、やたら下手に出たり、逆にすごく高圧的だったりすると、「器が小さいな」と思われます。
仲間内で固まるのも要注意です。駐在員が多い会社だとランチも夜飲みも日本人だけでつるんでいて、他社でも日本人同士、駐在員仲間としか付き合わない。または日本語が話せて気の合う部下だけを食事に連れていく。特に日和見な人たちはこういうところを見ると「ヤな感じ!」と思います。
駐在員を見極めるための罠もあちこちにあります。典型的なのはニセの情報を持ってくるケースです。
「法律ではこの手当を出さなければいけないことになっています」
「最近新しいルールができたので、この拠点でも対応しないとダメです」
「法律ではこうなっていますが、当地ではこうです」
「周辺の企業にも聞いたけど、みんなこうしていました」
……着任3か月ぐらいまでに持ち込まれるこの手の情報にはガセが多いと思っていてください。さほど悪気はなく、新任者の力量を確かめている場合もあります。自分で裏を取れるか、鵜呑みにするか、ややこしいツッコミを入れてこないか、対応を見ています。
それから、こちらの指示を拒否して反応を見ることもやります。「このエリアではできません」「中国では無理です」など。これも罠です。なんだかんだ言うものの結局引き下がるのか、それとも最後はやらざるを得ないところまでしつこく食い下がってくるか、試しています。
おべっかを使ってくる人たちもいます。着任直後からやたらと持ち上げられて、厄介な人たちに「褒めるとすぐ有頂天になる」「いい顔をされるとすぐ自分の仲間だと思うタイプだな」などと認定されたら危険。脇が甘そうだとか、弱みを握ったらこっちへ転びそうだとか、抱き込めそうかどうかも見られています。
挨拶も大きな判断材料です。特に部長、統括部長、工場長、総経理など上の立場で赴任した場合、自分から現場スタッフに声をかけているかどうか。工場などの現場に自分で足を運ぶか。販売店など拠点の数が多い場合でも、時間を割いて、無理を押して、すべての最前線まで陣中見舞いに来るか。この辺りも重要です。
現地の言葉と食べ物に興味を示す人は、特に日和見な人たちに好印象を与えます。流暢じゃなくても、数語しか覚えてなくても、中国語を使うのは高ポイント。工場メシを楽しんで食べたり、現地社員に発音を直されたりしているうちに、「新しく来た人、いい人っぽいよね」という世論ができます。
逆にムスッとしたまま「おはよう」とか言っていると、「何か感じ悪い」という漠然としたネガティブイメージが固まっていきます。普段直接話す機会がない人たちほど、そういう何となくの印象がより強固になりがちです。
職場外で注意! 宴会・夜遊び・休日
職場外では、宴会は絶好の見極めポイント。特に中国式の乾杯への対応には注意が必要です。断れず、毎回撃沈するまで飲まされていると、厄介な人たちは宴席外でも増長します。仕事を押しつけてきたり、堂々と「できません」と言ったり、指示を無視したり……。どうやって乾杯をかわし、自分のペースに持ち込むかが大事です。
飲まされて撃沈だけでなく、酒癖が悪い人も要注意。泣き上戸、勝手に脱ぐ、セクハラまがいの言動など、普段とのギャップがあればあるほど、日和見の人たちからのイメージが大きくダウンします。飲んだ時の姿が正体だと思われ、翌日から付き合い方や距離感を変えられることもあります。
自分の流儀(飲まない、白酒は飲まない、宴会には参加しない)を貫いて、宴会の雰囲気から浮く、白けさせるということが続くと、やはり距離が遠くなったり、感じが悪いと思われたりします。場には馴染みつつ、自分のペースも保てるか。中国の宴席は難しいです。
ナイトライフも必ず見られています。まだ駐在員には男性が多いと思いますが、夜遊びの程度、昼とのギャップに対して、日和見な人たち、特に女性社員の視線は非常に辛辣です。厄介な人たちの中には、自分から夜遊びに誘い、動かぬ証拠を握って駐在員を言いなりにしようとする人もいます。
休日も気が抜けません。服装、髪型、表情、中国語のしゃべり方など、平日とのギャップが見られています。繁華街を若い女の子と手をつないで歩いていた、なんて情報はなぜかすぐ会社中に広がります。「まだ赴任して1か月も経ってないだろう。仕事ではあんなに奥手なのにプライベートだけは積極的だな」と陰口を叩かれ、指示を聞いてもらえなくなります。
真面目に休日出勤するのも考えものです。早く業務に習熟するためにあちこち見て回っているとか、全体のためになる施策を進めているのであれば、まだ仕事熱心だと思われるかもしれません。でも、ひたすらデスクワークをこなしているようだと、メリハリをつけられない、仕事ができない人だと思われます。休日出勤するなとは言いませんが、会社で何をしているかは見られています。
今日のひと言
まずはそういう世界に飛び込む自覚
今回は新任者に対する値踏みポイントだけをお伝えしました。まずはそういう世界に飛び込むという自覚を持って振る舞ってください。最初にガードを下げてしまうと、気づいた時には立場が固まってしまっていて、今から取り戻すのは大変だという状況になります。
どこでどういうレッテルを貼られているか分かりません。少なくとも最初のうちは、気を張って過ごしてもらえればと思います。
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この記事を書いた人
多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。