コラム
中国人社員がマニュアルに従わない理由【中国駐在サバイバル】

中国駐在員にとって現地社員のルール破りは「あるある」。今回は「なぜ中国人はマニュアルに従わないのか」という観点から、この問題を考えてみます。理由が分かれば「従わないんだから仕方ない」という諦めから一歩踏み出せるかもしれません。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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なぜマニュアルに従わないのか
中国人に限らない
この問題を考え始めたのは、これをテーマとして取り組んでいる大学の先生から「小島さんはどう思う?」と声をかけていただいたのがきっかけです。周囲を見回してみると、マニュアルに従わないのは中国人スタッフに限ったことではないようです。
作業マニュアルを外国人社員の母国語に訳しているのに、手順を守らず労災を招いてしまう。対応に差が出ないように接客マニュアルを作っているのに、ちょっと目を離すと自己流のアレンジを加えている。
日本にもマニュアルに従わない人はいますが、その程度や、守らない人に遭遇する率は外国の方がかなり高い気がします。良くも悪くもマニュアル通りじゃない場面はよく見かけるし、それで品質にバラツキが出たり、お客様からお叱りを受けたりして頭を悩ませている駐在員の話もよく聞きます。
従わない理由① 従う動機が薄い
なぜマニュアルに従わないのか。その理由の筆頭に上がるのは、マニュアルを遵守する動機が薄いことです。「しっかり守ったら何かいいことがあるの?」と思っている。守っていれば認められる、褒められる、昇格する、給料やボーナスが出る……などのメリットが感じられないなら、わざわざ守る動機がありません。
逆も然り。マニュアル通りにやらなくても、特に身に迫る不利益がない場合です。注意やクレームを受けても実際に出る給料は変わらない、評価とも賞与ともリンクしていないなら、積極的に守ろうとは思いません。
また、「マニュアルは守るべきものだ」「この手順にはこういう意味がある」ということを、定着するまで上司が教育していない場合もあります。守らせたい側が相応の熱量・時間・手間暇をかけて、記憶に定着し、習慣として染み付くまで言い続けているか。「そこまではやってないな」という会社も結構あるんじゃないでしょうか。
何であれ、上司がかけた熱量分しか部下には伝わりません。気づいた時に時々言うだけでは、部下たちも「喉元過ぎれば」で忘れてしまいます。
従わない理由② マニュアルを知らない
上司は「知っているはず」と思い込んでいるけれど、実は現場がマニュアルの存在・中身・意味をよく知らないというケースも多いです。
マニュアルの存在自体を知らない、どこにあるかわからないとなれば、守る守らない以前の話です。
存在することは知っているが、内容をよく知らない場合もあります。文書で渡されたが読んでいない、研修は受けたが頭に入っていない。これで守らせることはできません。
マニュアルを守ること自体が自分の責任の一つであると理解していない人もいます。守らないことによって問題が起きる可能性があり、責任を追求されるかもしれないと分かっていないため、守りません。
従わない理由③ マニュアルに問題がある
あくまで私の直感ですが、マニュアルそのものに問題があるというケースも根深いと思います。
まずは表現が明確でないこと。曖昧で概念的だったり、どっちにも取れる言い方になっていたりして、今まさに直面している事態で自分が何をしなければいけないか、マニュアルを見ても分からない。これで守るのは無理です。
もう一つはマニュアルが硬直化している場合です。よくあるのは、外国人客が多い店で、お客さんの国籍に合わせて各国のスタッフを雇っているのに、マニュアルは日本人向けのものしかないケース。英語版、中国語版、タイ語版、韓国語版と言語だけはいろいろ揃えていても、中身は日本語版と同じになっています。
当たり前ですが、日本人にとって嬉しいサービスが違う国のお客さんにも喜ばれるとは限りません。画一的なルールを守っていると、逆に不興を買う可能性さえあります。
接客マニュアルを作るなら、文化圏や言語、富裕層か格安ツアー客かなどで変えていかないと、心地よく買っていただけるサービスは難しいでしょう。
それから効率も問題になります。マニュアルに従えば正解・合格とみなされる作業ができるとしても、すごく面倒くさいとなると、やっぱりすっ飛ばしてしまいます。製造業などでも「やれなくはないが、こんなことを毎回やっていたら仕事にならない」というマニュアルは割と見かけます。
そういう場合は、何のためにマニュアルを作るのか、本質に立ち返る必要があります。手順を無視したことによって起き得る代償が見えていないと、効率が悪いと捉えられて守られなくなります。
従わない理由・番外編
ここまではマニュアルを用意する側に起因することでしたが、これらの問題がなくても守れない人はいます。社風が合わない、商売に向いてない、ルールを守る気がないなど…。これはそういう人を採用してしまったことが問題。マニュアルの見直しより先にやることがありそうです。
マニュアルで成果を出すために
マニュアルを定義してみよう
会社がマニュアルを活用して成果を出すためには、どんなことをしていけばいいでしょうか。
まずはマニュアルって何なのか、改めて考えてみます。
私の理解では「それに基づいて行うと必要な品質が確保でき、かつ、そのやり方が効率的であるガイドライン・指南書」。
航空機のパイロットは、どんなベテランでも、運航前にマニュアルのチェック項目に基づいて一つ一つ確認するそうです。フライトの安全、品質を守るためです。
接客なら、自社のブランドを損なわずにお客さんのニーズを満たし、より贔屓にしてもらうため。製造現場なら、品質不良を出さず、安全に生産するため。品質確保がマニュアルの存在理由です。
ただ、それだけを狙ってもダメで、効率的であることも必要です。非常に面倒くさかったり、回りくどかったり、やたら重複作業があったりすると、意味が分かっていても人間は従わなくなります。
ポイントは品質確保を効率より優先すること。「マニュアルに基づいて作業すれば素人や見習いでも品質確保できる」という前提はキープしたまま、より合理的・スムーズにできるように改善していきます。
私の会社にも標準書・マニュアルはありますが、繰り返し見られるのは質のいいものだけ。IT系の操作法を忘れてしまった時など、いいマニュアルだと見る気になるんですよね。「どこかに誰かがまとめた操作法ガイドがあったはず。あれ、すごくわかりやすかったぞ」という記憶があれば、探してこようという気になります。実際にマニュアル通りに作業して「おお、できた!」となったら、マニュアルに対する好印象が強化されます。
マニュアル改革
マニュアルを活用するためのファーストステップは内容の改善です。これは簡単な見分け方があります。マニュアルの手順通りに自分で作業してみてください。新人やアルバイトがマニュアルを見ながら作業しているところを観察するのもいいですね。
実際にやってみて、必要十分な内容がコンパクトにまとめられていると感じるか、「できたことはできたけど、この通りにはやらないな」と思うかによって、改善の余地やポイントが判断できます。
多文化圏の人たちを相手にする場合は、翻訳だけでなく、実際に相対するコト・モノ・ヒトの特性に応じたアレンジも欠かせません。
それから教育です。マニュアルの存在を伝え、中身を説明する。質問を出させたり、実際に作業をさせたり、後から抜き打ちでチェックしたりもしてみる。納得した・しないではなく、マニュアルが身体に染みついて、何も考えなくてもその通りに動けるようになるまで教育します。
私の会社では、「何度言っても部下が守ってくれない」と愚痴を言う上司に対して「最低400回言え、400回言ってダメなら私が引き取る」と伝えています。人間、放っておくとやりません。意識しなくてもやれるまで習慣化するには、こちらの根気と工夫が必要だと最初から腹を括っていましょう。
動機づけもポイントです。守るとどんないいことがあるか、守らなければどんな損があるか、切実な利害と紐づけます。
先ほど定義した通り、マニュアルは品質の確保を効率的に行うための指南書ですから、形式にも工夫の余地があります。実際に使う人たちが興味を持ち、理解が深まるのであれば、形式は動画・VR・マンガ・アニメ・イラスト、何でもアリです。今はさまざまな情報伝達の手段が気軽に利用できる時代。提供側としては腕の振るいがいがあると思います。
「あるものは守れ」では納得・共感できない
「悪法も法」ではありますが、何の工夫・改善もせずに「決まりだから守って」で押し通していると、年月を重ねるうちに守る側は共感・納得できなくなります。環境も価値観もどんどん変化していく中で、これは仕方のないことです。
マニュアルの目的は無理やり守らせることではなく、会社としての品質確保であり、無駄のない作業の実現です。提供側はそこをブラさずに工夫を続ける必要があります。
例えば、マニュアルに納得できないこと・躊躇したこと・困ったことがあったら、いつでも疑問・意見を出せる仕組みを整えておく。定期的に見直しの機会を設けるのもいいですね。会社として改善に意欲的な姿勢を見せ、マニュアルは不変ではなく常にアップデートするものだと示します。
その裏返しとして「だから勝手に変えるな」という点は釘を刺しておかねばなりません。合理的じゃないと思ったとか、自分はこの方がいいと感じたとかで、相談も報告もなしに各自が勝手に変え出すと、組織として統制が取れません。だからルールは守ること。特に海外ではこれを言っておかないとすぐ形骸化します。
今日のひと言
従わせることを目的にしない
マニュアルは、それに従わせることが目的ではないはず。なぜ守らないのかと嘆くのではなく、マニュアルのゴールは何なのかという観点から、どうやって社員たちに守ってもらうかを考えてください。マニュアルそのものに工夫の余地があるなら、自ら手を動かして変えていく。生きたマニュアルになれば、きっと外国でも活用できます。
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この記事を書いた人
多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。