コラム

中国子会社の不正を防ぐ…見積合わせを形骸化させない方法【中国駐在】

2026年03月06日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

多くの日本企業にとって、現在の中国事業は「変化への適応、さもなくば健全な撤退」を迫られるステージ。不正による利益流出は、事業への直接的ダメージだけでなく、真面目な社員たちへの影響という見えない大ダメージの観点からも絶対に看過できません。今回は「不正しにくい拠点統治」の観点から、見積合わせの有効性を確保するための対策を考えます。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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見積合わせ自体が不正のプラットフォームに

見積合わせの悪用例

見積合わせ(相見積)、並行購買、総経理や工場長までの承認といった対策は、不正を予防するために実施しているのですが、逆に枠組み自体が悪用されることがあります。

【見積の参加者が全部グル】
3社見積を必須にしたら、実は3社ともグルでしたというのはよくある話。ある会社で「念のために毎回4社見積を取ってます!」という総務責任者がいて、上司からの評価も非常に高かったのに、後になって4社が全部つながっていたと発覚したこともありました。

【担当者が虚偽情報を提供】
不正仲間ではない業者に対してだけ、担当者が偽の情報を伝えるケースがあります。ゆとりを持って提出期限を設定しても、わざとギリギリまで伝えなかったり、仕様を調整して伝えたりして、「見積が間に合わない」「不十分な見積を出させる」といった状況を作ろうとします。

【担当者が仲間以外の業者の見積を改竄】
不正仲間ではない業者の見積を改竄し、決定権を持つ上司に「あの業者は消極的だな」「こんな条件を出してくるとは、やる気がないな」という印象を与えようとします。

【担当者が結託業者の見積を改竄】
他社の金額や条件を見て、結託している不正業者の見積を調整します。いい条件を模倣したり、価格が下回るようにしたりして、仲間の見積を通そうとします。

【担当者が悪評を流す】
担当者が不正の誘いをかけても乗ってこない業者がいると、社内でそこの悪評を流します。それも1回や2回ではなく、1〜2年かけて少しずつイメージを悪くしていくという手の込みようです。「あそこは見積をなかなか出してくれない」「対応を渋られた」「値下げを頼んだら強気で断られた(実際は要請もしていない)」などなど、時間をかけて悪印象を形成していきます。

見積合わせの形骸化回避策

どうやって回避する?

悪用例を見てみると、見積合わせの不正では、
参加者全員が仲間」
「仲間を保護する」
「仲間以外を排除する」
ということが行われます。つまり、こうならないためにはどうすればいいかを考えればいいわけです。

相見積の形骸化を回避する方法

仲間以外から見積を取る流れを作る。裏調整を難しくして見積一発勝負の緊張感を出す。また不正に加担した者を一罰百戒してみせることで、「業者とズブズブになるのはやめておこう」「不正を持ちかけてくる担当者を告発しよう」という動機づけをする。さらに見積合わせ自体を不要にできれば、形骸化を回避するより根本的な対策が取れるかもしれません。

こういう観点から、回避策を考えていきます。

回避策①別ルートで継続的に新業者を開拓

使用部門や調達部門だけでなく、別ルートから新しい業者を開拓する仕組みを作っておきます。駐在員が直接開拓してもいいし、外部に頼んで紹介してもらってもかまいません。通常ルート以外の選択肢を持っておきます。

客先指定ではなく(客先指定はむしろ不正の余地が少ない)、代替可能ではあるけれど、どこからでも調達できるわけではない領域は不正が起きやすいので、あらかじめ理解した上で、常にアンテナを張っていることが必要です。これは普段からやっていないと、怪しいと思っても「代替できません」と足元を見られます。

回避策②経営者が相場感を知っておく

経営者が相場感を知っているのは大事です。自分だけで情報を取ろうとしても限界があるため、普段から日系の業者や商社とパイプを作って聞いておく、外部に問い合わせて定期的に価格を確認しておくことをお勧めします。

ポイントは「うちのボスは別ルートから相場感をつかんでいるな」と匂わせること。本当に全部詳細に把握していなくても、ざっくり知っておくだけで十分です。相手に「派手に上乗せするとバレそう」と思わせることが大事なので、折に触れて別のルートを持っていることをちらつかせ、演出込みでツッコミを入れてみてください。

これは相場に収まっている範囲の不正対策にはならないものの、明らかに不当な価格で長年にわたって買い続けるのは避けられます。ちょっと面倒かもしれませんが効果的です。

回避策③業者情報の外部調査

業者情報の外部調査をします。一度にやるのは大変なので、購買頻度や取引金額などを元に、優先領域・優先対象から進めるのがいいでしょう。新規の業者候補については、すべて事前に外部調査してから取引可否を判断というルールにしておくのがシンプルです。

こうした調査は私たちも委託を受けることがあります。すると「気になる訴訟履歴が多々ある」「担当者は去年見つけたと言っていたのに設立年が今年」「この地域に正式な拠点がない」など、軽く掘るだけでも怪しい業者が出てきます。

不安な業者があれば、実際に登録地に足を運んでみるのもお勧めです。私たちも工場所在地に行ってみたらボロ家だったことがありました。この一手間で、雑な商売をしている偽の業者やダミー会社を排除できます。

回避策④密封見積化、メール不可

見積の改竄は、「封書で密封見積を提出する」「持参でも郵送でも可だがメールは不可」「開封は期日を決めて行う」とするだけでかなり防げます。

メール添付では自由にファイルを触れるため、密封見積(開封前に手を加えることができない形)に切り替えると宣言し、協力を拒む業者がいたら、そことは取引を打ち切る準備をしなければなりません。

「先方が面倒がって対応してくれない」と現場が言ってくることがあります。そういう業者は、客の要望より自分たちの手間を優先するということ(または身に覚えがあってこちらの担当者ともども対応したくない)。相手の言いなりになることはありません。会社の方針やルールに協力しないというのは取引打ち切りの口実にもなります。

回避策⑤見積開封は財務立ち会い

密封見積の開封には、調達部門や使用部門の他に、財務部門など彼らと利害関係が一致しない部署にも立ち会ってもらいます。当日一緒に開封すれば、別の牽制効果が働き、改竄の余地はますます少なくなります。

回避策⑥業者から不正撲滅の誓約書を取る

ここからは一罰百戒の効果を上げるための施策です。「不正をしないこと。万が一、こちらの社員が不正を持ちかけた場合は直ちにホットラインに通報すること」といった内容の誓約書を作り、不正撲滅への協力を取引継続の条件にすることになったと伝え、全業者から誓約書を取り直します。

書面そのものが直ちに効果を生んで不正を抑止することはないですが、何かあった時の責任は追及しやすくなります。当然ながら、提出を拒否する業者がいれば切り替えの用意をします。

回避策⑦発覚したら解雇と取引打ち切り

もし不正が発覚したら、従業員の場合には解雇を断行します。情状酌量の余地や、裁判になったら会社不利の条件があったとしても、一罰百戒を狙うなら解雇は不可避だと思います。

業者も必ず取引を打ち切ります。代わりがいないという理由で認めてしまうと、担当者はいかに切り替えが難しいか演出さえすれば切られないと学習し、一罰百戒は機能しなくなります。

不正のモグラ叩きから脱却するためには、歯を食いしばってでも解雇・打ち切りを断行しなければなりません。他の業者や担当者が「これはまずい」と不正を思いとどまるような罰でないと意味がないので、ここは頑張りどころです。

回避策⑧日本でも取引のある業者を指定

ここからは相見積を不要にする方向の不正回避策です。

日本でも取引のある業者を使うと、一定の牽制効果は働きます。現地の取引条件はそんなによくないこともありますが、何かあったら日本での取引にかかわるため、業者側にも社内担当者にも効果があります。

担当者より上のレベルで話をしておき、万が一こちらから不正の持ちかけや要求などがあったら、直ちにホットラインに連絡してほしい、怠ったら日本側に責任を追求すると伝えます。日本での取引を重視している相手であれば、これは最大の牽制になります。

同じことを社内の担当者にも言っておけば、迂闊なことはできません。自分が告発の対象になってはたまらんということで、不正を未然に防ぐ施策になります。

回避策⑨自販機や通販で固定契約

副資材の自動販売機やオフィス文具の通販などのプラットフォームを使って、年単位で固定してしまうのもアリです。今年はこの条件で全部ここから買うとし、1年後の切り替えのタイミングで妥当性を検討します。

他の通販会社や市場価格と比較して、割高であれば価格だけ交渉し、対応が悪く価格差も大きいなら別業者を探します。

この目的は、都度の発注量や金額が細かく変動しないようにして現場から選択権をなくすということです。コスト的にはベストではないかもしれないものの、全体管理・不正抑止の観点からは有効です。

なお、私たちが提供しているDAC DOCKというプログラムもこれに近い発想です。最初にルールを作り、運用徹底を監視します。罪を作らせない環境づくりに有効な手段だと思います。

今日のひと言

面倒と思ったほうが負け

こうした不正対策は、いざやろうとすると上司からも担当者からも「面倒だ」という声が上がります。これを認めてしまったら、不正の温床になることを認めたのとほぼ同じ。こちらが面倒くさがらずに対策を立て、相手に「これ以上、不正を続けるのは無理。もうルールに従ってやらざるを得ない」と思わせるまで、根負けしないようにします。

まずは怪しい人たちをあぶり出して決着をつけ、仕組みを確立するまで何とか頑張ってください。いちど仕組みに落として徹底してしまえば、ずっとトップが注視していないといけなかったり、赴任者の交代でなし崩しになったりするのも防ぐことができます。

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。