コラム

海外拠点の本音が見えない…情報の目詰まりをどう取り除く?【中国駐在】

2026年07月03日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

ある経営者から「本社と中国拠点をつなぐパイプがどんどん詰まっているんじゃないか」という危機感を打ち明けられました。中国に限らず、海外拠点の本音が日本側から見えていますか。現地の不満や愚痴が耳に入るような風通しのよさはあるでしょうか。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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表面上は大丈夫そうだけど…

労務管理でも内面的な状態把握は必須

「現地の本音が見えない」。海外拠点を持つ日本側の経営者からよく聞く話です。

正式報告や定期会合はきちんとやっている。取り立てて大きな問題があるわけでもない。業務もそれなりに回っている。指標から見ても懸念すべき状況ではない。しかし、経営者の直感として、どうも現地の本音が見えていない気がする……。

トップのこういう悪い直感はだいたい当たります

私も中国拠点の最前線を見ている立場ですが、確かに情報の目詰まりは起きているし、これからどんどんひどくなっていきそうだと感じています。

例えば、工場の労務管理。現場社員が大勢いる職場で、遅刻の有無、健康診断の結果、日々の業務と作業の進捗状況といったことだけ見ていても、十分とは言えません。

労務管理で本当に大切なのは、数値には表れないところ。朝の声かけのときの相手の表情、目つき、返ってくる挨拶の力、タバコや食事のときに耳に入る噂話……、こうした情報を総動員しながら、表面に浮かんでこない状態を把握して、誰かが調子を崩したり、おかしなことが起きたりしないように先手を打っていくのが基本です。

ここが目詰まりしていると、将来を嘱望していた社員に突然「辞めます」と言われてびっくりしたり、いきなり大きな事故、ストライキ、サボタージュ、集団離職などが起きて対応が後手に回ったりしてしまいます。

どんなトラブルも、「いきなり」起きることは珍しいです。後から検証すれば、実はいろいろな予兆があったと分かるはず。それを読み取れるかどうかはこちら側の感度の問題です。

現地社員の本音が見えない原因

「現地の本音」は大きく二つ。一つは現地社員の本音、もう一つは駐在員の本音です。まずは前者から見えない原因を考えていきます。

①本社社長の目線が分かっていない

一般の現地社員たちが直接日本側トップに話を持っていくことはほぼないでしょう。現地拠点から本社の経営層への報告ルートがあり、中間に位置する人たちが情報を吸い上げて伝える仕組みになっています。この中間層の人たちが本社社長の目線を理解していないケースが多々あります。

「こんなことまでわざわざ社長の耳に入れる必要はないよね」と忖度やら自己判断やらで、さまざまな情報をフィルターにかけてしまい、本当は経営陣が知りたがっている情報が捨てられている可能性は大いにあります。

②日本側の要求・指示が業務レベル化

日本側の事業部からの要求や指示が細かくなっています。現地トップや二番手に対して、マイクロマネジメントに属する領域の業務や、事業部レベルで必要な現地調査・アンケートばかり依頼している。各部署の業務を回すためには有用かもしれませんが、これでは経営目線の情報まで上げられません。

③駐在員の人数不足

中国の高成長時代が終わり、これまでのように多くの駐在員を置いておくわけにいかなくなりました。業務が回る必要最低限(またはそれ以下)で何とかしろと、コスト削減のために駐在員を減らしています。

手元仕事が逼迫していて精神的に余裕がない駐在員には、現地の本音のような非公式の(でも重要な)情報を本社社長に上げる余力はありません。何かのついでに社長に顔を見せて、雑談めかして現地の情報を耳に入れておくといったことは、気持ちにゆとりがないと難しいものです。

④駐在員も現地社員の本音を把握していない

限界まで減らされた駐在員は日常業務をこなすだけで手いっぱい。現場に行ってブラブラするとか、ちょっと一服しながら雑談する時間はありません。駐在員が直に現場の情報を拾い上げる機会は失われ、マネジメントに携わる人たちも社員の本音を把握していないという事態も起き始めています。

⑤そもそも現地に関心が薄い

現代の若者気質とでも言いましょうか、そもそも現地に関心を持たない世代が駐在員になっています。与えられた業務を自分のデスクでこなすことが仕事だと思っていて、現場の社員たちには全然関心がありません。数値に関係のないところで、現場がどんな感じなのか、何をやっているのか、どういう関係性なのかを知ろうとせず、当然ながら本社に共有することもない。情報の入口で目詰まりしています。

⑥経営の現地化

日本の会社は基本的に集団合議制で物事を動かします。これは世界的に非常に珍しい文化で、大半の国ではトップが決めて進めます。

中国はその最たる国です。そんなところで現地化を進め、特定の人物に一定の責任と権限を負わせると、すべて自分で判断して自分で進めていきます。結果を本社に見せるのが自分の仕事だと思っているためです。

そういう人たちは、日本の社長が「現地の本音」を知りたがっているなんて想像もできないし、そういうことを拾い上げて伝えるのが自分の仕事だとは考えもしません。経営の現地化が進めば、これまで駐在員がやっていたような報告は自然消滅していきます。

駐在員の本音が見えない理由

①いろいろ余裕がない

一方、駐在員の本音がなぜ見えないのかと言えば、まずは「いろいろ余裕がない」からでしょう。

前述の通り、極限まで減員された駐在員は日常業務に追われています。本社の社長は社長で業績や数値にばかり目がいき、非公式情報までかまっていられません。何かの機会に駐在員をつかまえて雑談を持ちかけ、およそ効率的ではない方法で現地の空気感をつかもうとするような余裕がない。

すると、「あの話、実際のところはどうだったの」「いやー、あれは実はこうで」とか、「社長に言うのはナンですけど…」みたいな話を愚痴まじりにしゃべることがなくなり、駐在員の顔が見えなくなっていきます。

②関係が築けていない

本社社長と現地駐在員の距離が遠く、「現地の本音」を伝えられるような関係が築けていません。社長とおしゃべりするとか、ましてや愚痴を言うなんてとんでもない、そういう関係性ではない、と駐在員側が思っていれば、どんな情報も持ってきません。どうせ言っても無駄と感じている、本社に対して強い不信感や不満があるといった状況でも同様です。

目詰まりの解決法

放置すると目詰まりは進む一方

Z世代以下の駐在員や自社の若手などを見ていると、コミュニケーションに苦手意識があり、直のやり取りは少ない方がいいと思っている人たちが多数派のようです。情報の目詰まりは今後さらに進むと思います。

また、「手元の業務を回すことが自分の仕事だ」と思っている駐在員と、「駐在員の重要な任務は現地の生の情報を上げること」と思っている本社社長の大きな認識ギャップを埋めるには、よほどの工夫が必要です。

その前提で、目詰まりを解消する方法を考えてみます。

解決策①本社社長が自分で聞きに行く

最もシンプルな解決法です。巨大なグループを抱える大企業ではできないかもしれませんが、海外拠点がせいぜい二つか三つの中小企業だったら、社長が自分で現地に足を運ぶのがいちばん手っ取り早い。情報フィルターの目詰まりを何とかするより、自分で生の情報を仕入れて、そこから取捨選択していく方が確実です。

億劫だと思うなら、効果と効率を天秤にかけてみてください。時間がない、面倒くさいというのは効率の話。一方、経営判断を誤らないために現地の実情が知りたいなら、自分で足を運ぶ効果は絶大です。どちらを追求するかは人それぞれでしょう。

解決策②専門部隊を置く

第二次世界大戦で英国のチャーチル首相がやった方法です。拠点数の多い大企業になれば、そのすべてに社長が行くのは難しい。だったら、現地の本音を拾い上げるための専門部隊を置くという手法もあります。

社内の人たちが上げてくる公式報告では、トップが腹を立てそうな情報は忖度されてしまって届かないので、外部の専門部隊をあちこちに置いて、できるだけ生の情報、とりわけネガティブな情報を最優先で上げさせます。

トップが頭の中で描いていることと、実際に起きていることが乖離しだすと、国でも会社でも大変なことになります。自分で行けない分、ひたすらストレートな情報が上がる仕組みを持つのは現実的な解決策だと思います。

私たちも「こういう仕事、DACでもできるよね?」とお客様に言われ、現地専門部隊を引き受けています。話を聞いてみたいという方は連絡ください。

解決策③駐在員の役割を定義する

駐在員に現地の本音をすくい上げてほしいなら、それこそが駐在員の仕事だと役割を定義するべきです。

現地の拠点長は、拠点を預かる責任者です。経営という観点から見れば、本社社長とは経営者同士。拠点全体とグループ全体の方向性について経営レベルの議論をしたり、日本側のトップが本当に知りたいことを吸い上げたり、トータルで拠点経営をリードするのが本来の仕事。このように明確に定義して、本人にも社内にも徹底しておきます。

解決策④建設的な「遊び」を残す

こうしたことは人員がパツパツだと無理なので、「建設的な遊び」は残しておくようにします。いくら役割の定義をしても、目先の仕事で手いっぱいの人たちは動けません。その役割を果たす余裕を与えることです。

現地トップ以外にトレーニーを送り込んで、また違った階層で現地に目と耳を持つのもいいでしょう(研修のための赴任ならそこまで忙しくないはずですし)。時々日本の社長室に呼ぶか、社長が自分で訪ねていくかして、直接話を聞きます。ただ報告を待っているだけではダメです。

解決策⑤日本側の部署に共通認識を持たせる

日本側の事業部署にも、「駐在員の時間は社長が使う。事業部や担当役員のためにレポートをまとめたり、資料を整理したり、情報収集するのは駐在員の仕事ではない」と理解させなければなりません。

駐在員の時間を浪費しないように、経営層から事業部署に「日常業務レベルのことは現地の部長クラス以下に振るように」「部長以下が難しいなら自分たちで出張してやりなさい」と指示して釘を刺します。

今日のひと言

情報がほしければ自分から動く

情報というのは、いくら「出せ」と要求しても出てこないものは出てきません。自分で行くか、誰かに取りに行かせるか、駐在員が情報収集しやすいように環境を整備するか、いずれにしても自分から動くことです。

そこまでやらないと、情報の目詰まりはひどくなっていき、どんどん日本側から現地の現実が見えなくなります。確信を持って予告しておきます。

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。