コラム

中国駐在員の役割が激変! もう「先生」はいらない…「技術者/実務者」から「部門経営者」への役割転換【中国駐在】

2026年07月24日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

20年ほど前まで、製造拠点の駐在員の多くは現場のプロや技術者でした。工場の実務を動かせる「腕」が求められていたからです。しかし現在、状況は一変。現場のプロとして赴任すると、現地で求められる役割とのギャップに戸惑うようなことになっています。今回はこの変化について考えます。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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もう技術者はいらない

20年前と現在の違い

製造業の駐在員には、工場の現場畑・技術畑から派遣される人たちが少なくありません。本社はものづくりの根幹となる知識や技術がないと業務を回せないだろうと考え、そういう人たちを選んで送り込むわけですが、現在の中国に技術者の立場で赴任すると、現地のニーズとの食い違いに困惑することがあります。

かつて中国では、日本から来る駐在員・支援者は日本企業の技術力・品質力を代表する「先生」でした。それが学びたくて日系企業に入社する中国人もたくさんいました。ASEANやインドは現在もそうでしょう。

まだ製造現場が自立できない段階では、駐在員は教え役になることが求められます。品質や技術の基礎を指導できる日本人は非常に重要であり、いないと現場が滞ります。

しかし、近年、特にコロナ後の中国は相当に状況が違います。

多くの拠点では、すでに他の海外拠点と比べても高いレベルで日常業務を回せています。例えば工場なら、年間の稼働計画に従って、いろいろな調整をしながら、納期・コスト・品質・安全に注意して量産品を作り、顧客に納める程度のことは当たり前にできます。もちろん完璧ではないかもしれませんが、それは日本でも同じですよね。

いまの中国拠点の悩み

では、もう駐在員は来なくてもいいのかというと、中国拠点にも困りごとはあります。

事業環境の変化、目まぐるしく変わる業界の動向、中国勢を中心としたライバル企業との過当競争……。売上の伸び悩みや減少、受注困難といった点で強いプレッシャーにさらされています。一方でコストは高止まり。人件費を含め、削減は容易ではありません。

このまま既存顧客、日系顧客だけを相手にしていては難しいとなれば、まったく勝手が違う中国系の顧客・市場に対して販路を拡大していかなければなりません。

つまり、中国の多くの拠点は日常業務以外の部分で悩んでいる。その渦中に日本から来る駐在員に求められるのは、もはや「日常業務のための技術者・実務者としての腕」ではありません。

設立から10年、20年を経た現場では、初期に頻出するような課題はとっくに克服し、現地社員たちも成長しています。20年前に駆け出しだった若手はいまや40〜50代の管理職。日本本社や他拠点からも一目置かれる存在です。

そんな現地拠点が求めているのは、事業環境・重点政策・会社方針の変化に合わせて経営の変革をリードできる人。実務者・エンジニアではなく、経営上のリーダーです。

この役割の大転換を理解せずに、技術畑の日本人が先生気分で赴任すると非常に苦労します。日本で自分が強みとしてきたこと、長年磨いてきた腕前をそのまま持って行っても、現地で歓迎されません。かえってブレーキ役となり、管理者たちからダメ出しされてしまうことも。

この点、ASEANやインドとはまったく違います。中国以外の国ではまだまだ先生が必要な段階。そういう拠点への駐在・支援経験があって、中国もその延長線上のイメージでやってくると、大きなギャップにはまります。

これから赴任する人たちは、変容しつつある役割にどう適応していくか、あらかじめ考えておく必要があります。

変容する役割への適応法

適応法①部長と課長の違いを理解する

日本での役職はどうあれ、多くの駐在員は部長以上の立場で赴任すると思います。最初に理解しておくべきは、部長と課長の役割の違いです。過去にも触れましたが、部長と、課長以下の実務リーダーは大きく役割が異なります。違いをひと言でまとめると、部長は決して実務に手を出さない人です。

部長の仕事は、部下を辛抱強く見守り、配置を工夫し、時には思い切ったチャレンジをさせてみて、実務ができる人材を育てること。特に現場出身の人はモノを触ることが好きで得意だと思いますが、部長になったら自分でモノを触ってはいけません。実務に手を出してもいいのは課長まで。部長には他の人を動かすことが求められます。

部長と課長の仕事の違いについては、過去の記事も読んでみてください。

適応法②モノではなくヒトに注意を向ける

特にものづくりの最前線にいた人たちは、モノやコトに意識を向けるのが習慣になっています。「いまなぜこういう問題が起きているのか」、「このラインは健全な状態か」などについつい意識が向いてしまいます。

しかし、いまの中国拠点は、モノに着目して業務を回すことなら駐在員がいなくても(ある程度は)できるようになっています。

駐在員が意識を向けるべきは、“モノ”ではなくて”ヒト”。だから、業務はよく把握しているけれど部下たちの様子は見ていない人は、部長としては0点です。

業務の細かな実務状況ではなく、どの部署にどういう人がいて、誰がどういう業務に習熟しているのかを把握する。これを踏まえて、入れ替えるのか、教育するのか、多能工に育成していくのか、考えなければなりません。

自分の興味・関心がついモノに集中しがちな人は、意識をそこから引き離して、関心の重点をヒトに置くように心がけます。

適応法③設備にも社員にも個性があることを前提に

日本では部下のことなんか見てこなかったのに、急に管理者になれ、評価者になれと言われても困るかもしれません。

でも、現場のものづくりに置き換えてみてください。設備やラインなどにも個性ってありますよね。同じ型番の機械でも、故障しがちな場所が違うという話は私もよく聞きます。現場のプロは、機械自体や設置環境などさまざまな要素を加味して、一台一台の癖や個性をつかんでいると思います。

ヒトも同じです。課長なら課長で十把一絡げにしていては、それぞれの個性・特徴は分かりません。一人ひとりをよくよく見ていくと、それぞれの得意なこと、苦手なこと、どういう指導なら聞き入れるか、どう助言したら伸びるか、どういうやり方だと動かないか、というのが分かってきます。

設備にも社員にも個性がある。いままで機械相手にやってきたことをそのままヒトに応用すると考えれば、「自分は技術畑だから分からない」ということもないんじゃないでしょうか。

適応法④表に見えるものが真とは限らないと心得る

製造ラインに問題があって、表に見えている原因らしき部分を修理したり取り替えたりしたのに、直らなかったことはありませんか。そうなると真因分析をするため、何回も「なぜ」を繰り返して深掘りをしますね。そのうちに「ここの付け方を間違えていた」とか、「設定値が微妙にずれていた」とか、表からは分からなかった原因が出てきます。

人間も一緒です。表面に出ている部分だけからは判断できません。上っ面の人当たりはいいけれど、実は上司にだけいい顔をしている人はいます。逆に、不愛想で暗い性格に見えたけれど仕事ぶりはすごく誠実な人もいます。表面だけ、言葉だけを信じてしまうと、本当の姿を見誤ることがあります。

適応法⑤リーダー術を使ってみる

人間性や徳を磨き、リーダーとしてあるべき姿を目指すのが「リーダー道」だとすると、これは一朝一夕にはできません。駐在員には任期があるので、のんびり自己鍛錬していては間に合わないです。

いますぐにリーダーシップを発揮しなければいけない、ボスとして現場を率いなければいけないときに使えるのが「リーダー術」(私の造語)。これは真似をするだけで成果が出る、スキルとしてのリーダーシップです。

リーダー術については過去にいろいろなところで書いたり話したりしています。中でも呉起の話がおすすめ。こちらからぜひ見てみてください。

リーダー道よりリーダー術

適応法⑥日常業務の管理はしない

日常業務さえも自立できていない拠点の場合には、もちろん駐在員が管理しなければなりません。その場合は10〜20年前の中国と同じレベルの役割が求められているので、「現場の先生」のままで問題ないでしょう。

一方、すでに日常業務は自立しているのであれば、駐在員が現地の管理者たちの仕事を奪ってはダメ。そこは彼らに任せ、できていないところがあっても手は出さず、自分たちで改善・創意工夫するように促します。

適応法⑦課題発見・改善・プレゼン能力の育成

駐在員が何をすべきかというと、現地がまだまだ弱いところのカバーです。私がよく聞くのは、課題を発見する力、合理的・現実的な改善策を立案して、実際に試し、効果を検証する力が弱いという声です。仮説と検証を回しながら、成果が出るまで自分で持っていけるようにサポートします。

また、現地拠点から見れば日本本社は「外部」。現地で課長や部長を目指す人たちには、本社を説得する力が必要になります。現地の管理者は、日常業務はできていても、本社へのプレゼン能力は日本の同じような立場の人たちと比べて弱いです。

単純に言葉の問題ではありません。中国語でやってもらっても、アウトプットの精度や焦点がまだ甘い。フォーカスするポイントがずれていないか、ピンボケしていないか、現地管理者をサポートし育成することが駐在員には求められています。

こうしたことは、代わりにやってあげても、ダメ出しするだけでも不十分。どうしたら現地の管理者たちが自分でできるようになるか考えるのが駐在員の仕事です。

今日のひと言

日本の感覚をそのまま持ち込んではダメ

日本や昔の中国、あるいはASEANなど他国の感覚のまま、「駐在員とはこういうもので、こういう立場で、こういう仕事から入るんでしょ」という雑な認識で現在の中国に赴任すると失敗します。

いまの中国はどうなっているのか、自分には何が求められているのか、現地・現物・現実を直視して、やるべきことを見定めてください。現地のボスに、これから赴任する日本人に求める役割を直接聞くのもいいと思います。

自分の目で見たこと、現地の意見を参考に、外部からも情報を収集しながら、現地で求められる役割を果たす。帰任するときに、「来てもらって本当によかった」、「またぜひ一緒に仕事をして、鍛えてほしい」と現地社員たちに言ってもらえたら、これ以上の喜びはないんじゃないでしょうか。

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。