指示しても教育しても、なかなかルールを徹底できない。いったんできるようになったのに、気づくと元に戻っている……。海外拠点では「あるある」ですよね。業を煮やして打つ手が「ルール・規定の追加」。でも、あまり現場が変わったようには見えません。ルールを増やしても変化しないのはなぜなんでしょうか。
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海外拠点では、油断していると社内ルールが増殖します。罰則規定に加え、ルールを徹底させるための細則も増えます。「これはダメ」だけでは不十分だといって、「あれもダメ、それもダメ」と具体的になるわけですね。
ルールを増やす側にはそれなりの理由があります。最も強いのは、「既存のルールが守られていない」こと。だから罰則を強化したり、より具体的なシチュエーションを設定したりして、何とか規制しようとする。それを逃れる人がいればさらに新たなルールを追加します。
管理職が自己基準で管理するのもルールが増える理由の一つです。特に「オレがルールだ」というタイプの上司は、部内で勝手にマイルールを設定して守らせようとしがちです。
中間管理職の立場なら、気づいたことはまず上位者に相談し、会社として全体の整合性を考慮しながら仕組みを作るのが本来のあり方。目についたことをすぐにルール化してしまうのは、管理職というより「部門のボス」の振る舞いです。厳しい言い方をすれば、自分の欲望(=部下を従わせたい)を優先にしているに過ぎません。
その結果、規定類全体を統括する経営者や人事が知らないところで、部門限定のルールがやたら増殖しています。ちなみに、中国ではこのケースが非常によく見られます。
また、駐在員が近視眼的に管理していると規則が増えます(これも辛口ですが)。とにかく自分の任期中に片付けたいという気持ちが先走り、現行規定との整合性を軽視して「これは自分がいる間だけの特例だから」とオリジナルのルールを頻発する。規定全体の見直しには時間がかかるので、間をすっ飛ばしたくなるのでしょう。
では、こうして追加したルールの効果はどうでしょう。実際によくある光景を見てみます。
よくある光景①罰金制度 罰則の中でもポピュラーな制度。近年の中国では罰金制度の有効性が認められなくなってきたため、継続する会社は減ったものの、2010年代頃まではよくありました。
例えば、「タバコのポイ捨ては罰金5元」。やってみると分かりますが、一瞬は効果が生じても、これでポイ捨ては撲滅できません。経営者は痛みが足りないからだと考えて「今日から罰金20元!」と金額を引き上げます。直後は効果があるけれど、今回も持続するのはせいぜい3日〜1週間程度。結局、また元に戻ります。「20元でもまだ足りないのか」ということで、50元、100元と、どんどん金額が上がっていきます。
打撃の大きい額まで上げれば効果が出るかというと、そんなに簡単ではありません。そもそも一般社員の給与の一割を超えるような罰金を課すのは適切な経営とはいえないですよね。インパクトのある金額に上げられない以上、多少引き上げてもすぐに慣れてしまい、強制力が働きません。
よくある光景②細則・補充規則 とにかく細かくルールを追加していきますが、細則や補充規則で補うにも限界があります。上位者が外出中などの隙にオフィスでゲームをしている人がいたとしましょう。そこで「ゲーム禁止令」を出します。すると、ゲームはしないけどショート動画を見る人が出てくる。「動画も禁止」にしたら、次はショッピングサイトを見ている。「ショッピングサイトも禁止」……と、延々と続きます。
よくある光景③部門内規則 ある部署で、駐在員が週報提出をルール化しました。最初はある程度出していたけれど、だんだんと提出する人や頻度が減り、2~3か月ほどで自然消滅。それを見た後任者は、「週報だから難しいのかもしれない。むしろ毎日書く習慣をつけよう」と考え、日報を提出させることに。しばらくは毎日チェックしていたものの、出張や一時帰国で不在にする期間をはさむごとに下火になっていき、そのうちに任期が来て、また新しい赴任者が着任。この人は週報も日報も自分が指示したわけではないため、たまに提出する人がいてもろくに見ないしフィードバックもしません。新任者の薄い反応を見て、提出していた人もやめてしまいます。
こうして、誰も守らない部門ルールだけが残ります。週報のルールも、日報のルールも、廃止されてはいません。でも、実際には提出しなくても特にお咎めはない。「上司の気分次第で遵守しなくてもいいルール」が存在していることになり、部門運営全体に悪影響を与えます。
理由①痛みへの馴化 なぜルールを増やしても効果がないのか。一つには、人間は痛みに慣れる動物だからです。罰金の増額みたいな厳罰化を進めると、一瞬は効果があります。でもすぐに慣れてしまい、「ま、いいか」「今日は運が悪かった」という感覚になっていきます。
理由②“北風式”への反発や拒否感 次々にルールを追加する方法は、「北風と太陽」の寓話で言えば”北風式”です。風当たりを強くして、力によって相手を屈服させ、ルールを守らせようとする。どうしても高圧的なやり方になるため、口には出さなくとも、心の中で反発や拒否感が生まれます。
厳罰化は現場の負担感も大きく、実際に罰金を取られていない人も含めて組織全体がささくれだっていきます。“北風式”への抵抗は静かに広がり、監視者がいないところでは誰も率先して守ろうとしない。できれば守りたくないという気持ちが強くなります。
事例を紹介しましょう。ある会社で、時間外の喫煙に1回50元の罰金を課していました。人事が見回り、違反者を見つけたら「はい、50元!」。これを続けていたある日、喫煙を見つかった人が人事にこう言い放ちました。「これで50元だろ。あと50元やるから、もう1本吸わせろ」。彼は100元札を人事に渡すと、目の前で新たなタバコに火をつけ、悠々と最後まで吸ったそうです。
完全に逆効果ですよね。不適切な行為をなくしたい、ルールを遵守してほしいと思って始めた制度なのに、「罰金を払えばやってもいいんだろ」と開き直る人まで出してしまう。”北風式”には強い負の力があります。
理由③複雑化し頭に入らない ルールをあれこれ追加していると、規則制度が複雑になります。別々の規則に追加したり、部署によって追加ルールが違ったりすると、誰も頭に入らない。私も客先で、現場のワーカーはもちろん、経営者も人事も法務も会社規定の全体像や構成を把握していないという事態に遭遇します。この状況でルールを守らせようなんて、それは無理というものです。
理由④ツギハギで不整合・矛盾が存在 その場の思いつきや気分で追加すると、ルールがツギハギになり、不整合や矛盾が発生します。先ほどの週報・日報の例もそうですが、まだ廃止されていない規定と、後から追加した規定が明らかに矛盾しているケースはよく見られます。どちらか一方を守れば、もう一方に違反してしまう。この場合はどうなるのか、問われても誰も答えられない。これでは真面目に守る気が失せますし、ルールを運用する側も徹底する気になれません。
ルールが再現なく増殖すると、人心が荒れます。古代中国では、秦の時代に法による統治が進みすぎた結果、非常に細かなルールでがんじがらめになり、庶民の心が完全に離れてしまったことがありました。「こんなん、いちいちやってられるか!」状態です。
そこで、漢の高祖・劉邦は、秦王朝を滅ぼした際に「法三章」を定め、これまでの細かいルールはいったん廃止し、殺人、傷害、窃盗を禁じる三つを残してリセットしました。庶民は大歓迎で受け入れたということです(政権運営に支障が出たので、後に必要な規定は増やしましたが)。
法律や規定が際限なく増えて、厳しくなりすぎると、人の気持ちはついてこない。このことを昔の人はよく分かっていました。罰則や罰金でルールを徹底させようとしても、得られるのは一時的な効果のみです。
ルールを増やしてもうまくいかない。では、どうすれば現場を変えられるでしょうか。
先に「法三章」の例を挙げたので、規則は少ないほどいいような気がするかもしれませんが、そうとも限りません。
いまの中国では、懲戒対象とする言動について、就業規則に具体的な定めがなければ、会社は処分することはできないとされています。このため「……及びそれに類する行為」「……及びこれに関連する管理監督責任」といった書き方で大きく網をかけようとしても、規定が曖昧だとみなされ、仲裁や裁判で懲戒処分が無効になるリスクがあります。解雇に関する処分では特に顕著です。
会社が「ダメなものはダメ」を貫くには、条項が増えるのを厭わず、懲戒対象となる言動を具体的に記述しておくことが必要です。私たちが制定をお手伝いする場合、懲戒に関するものだけで少なくとも50〜60条、多いと100条を超えます。対象となる行為を可能な限り細かく規定するためです。
ルールは少ない方がいいとは限らないという前提で、規定類を活用するために重要なのは、どこにあるか分からない状態をなくすことです。懲戒処分であれば、就業規則本体など一つに集約するべき。懲戒に関するルールが細則や他の規則に分散している場合、全体構成が把握できず、規定類同士の関係性が不明になります。新しい規定を設ける際にも矛盾が生じやすいです。
部門規定は分散の最たるもの。社員として守らなければならないルールであれば会社が定めるべきだし、部門の業務、例えば製造や品質に関するルールなら、他の技術部門や生産管理などにも関わってくるはずです。先走って特定部門に部分最適なルールを作らせてはいけません。
罰金に頼ると人の気持ちが荒んでいきます。また、違反者は身銭を切ることになるため、実害・実損を防ごうと部内で握って隠蔽するようになります。
罰金の金額が上がると、管理職が真面目に取り締まるほど、部下たちの気持ちは離れていきます。それでも断固として徹底しようという管理職はなかなかいません。いたとしても、「何でウチの部署だけ」と部下に恨まれます。部下かわいさからも、我が身かわいさからも、痛みが強すぎる施策は徹底が難しいです。
これには例外があります。一発解雇です。会社として絶対に看過できない行為があった場合は理由を問わず解雇すると宣言しておき、実際に該当者が出たら容赦なく解雇します。すると残った社員たちに一罰百戒の効果があります。解雇に相当する行為は、あらかじめ明確にしておき、厳罰であっても徹底するべきです。
結局のところ、ルールを追加する理由は徹底できていないからに尽きます。みんながルールの本質を理解していれば、いちいち細かいことまで決めなくても「なぜそれがダメなのか」が分かり、徹底できるはずです。
本質理解が徹底していないために、ルールの隙を突こうという不心得者が繰り返し出現し、イタチごっこをする羽目になる。穴を塞ぐより、いまあるルールを徹底することを重視すべきです。
先ほど出した「100元払ってタバコを2本吸った社員」の事例には、実は続きがあります。人事を統括していた当時の管理部長は、この話を部下から聞き、深く反省しました。本気で撲滅しようとするのであれば、会社側も本気であることを示さなければならないと考えたのです。
その管理部長も喫煙者でした。そこで、ルール違反の罰金を1回100元に上げると同時に、次のように宣言しました。「もし私が会議室や屋外、誰もいない場所などで隠れて吸っているところを見たら、人事に密告してください。管理部長の罰金は1回5,000元とします」というルールを加えました。これで本気で取り締まったところ、時間外喫煙を撲滅できたそうです。
ポイントは取り締まる側が徹底したこと。自らに最も重い罰を設定し、密告を奨励した上で、徹底する姿勢を示したことで、初めて現場が動いた。会社としての本気度をどのように示すかは、現実を変えるために非常に重要だと思います。
ルールの活用策④北風と太陽は2対8で
会社が強制的にルールを守らせる”北風式”も、ゼロにはしません。会社として「ダメなものはダメ」と言えるように、厳罰ルールは整備しておくべきです。その上で、日常の管理においてルールを発動する機会を減らしていくのが望ましい姿です。
改革のスタート時には、たびたび発動することになるかもしれません。しかし、そこさえ乗り切れば、”北風”を吹かせる機会は急激に減ります。
そこで”太陽式”の出番です。きちんと取り組んでいる人が報われ、特に違反はないが真面目に取り組もうとしない人は高い評価を得られないようにします。取り組んだ人が得をする仕組みによって誘導していくと、健全に改革を進められると思います。
“太陽式”のルール運用といえば、まずは加点制の評価です。例えば、経営者や上長から見て「ルールを徹底できているように見える」「実際に違反が発覚することも滅多にない」という状態を維持できている部署があれば、そこの管理者は評価で加点します。
逆に、「ちょこちょこ問題を指摘される」「監視カメラを見たら違反行為があった」ような人が多い部署の管理者には加点しません。ひょっとすると違反を隠蔽しているかもしれませんが、明らかな規律違反でない限り、それに関する処分や減点(”北風式”)はしないということです。
この運用に役立つのが「日常観察メモ」。私たちが人事制度づくりをサポートする場合には必ず導入しています。これは管理職に対して部下の日常管理を促す仕組み。係長であれば直属の部下を、部長であれば配下の課長を日々観察し、週1回のメモに残します。これを評価の根拠とし、最終的には処遇も連動させることができます。
部下管理を登用・昇格要件にするのも”太陽式”です。経営者がいちいち要求しなくても、直属の部下たちにルールを徹底できている課長がいれば、その人が次の次長や部長の候補。一方、日常業務はうまく回せるけど、サボリやルール違反が目につく部下の多い課長は昇格・登用を見送ります。
このように、「部下にルールを徹底させるのが、会社の求める管理職。できないと次のレベルには上がれませんよ」というメッセージを継続的に出していきます。
この認識が共有できてくると、ルールの穴探しや違反の隠蔽に余計な知恵を働かせることなく、「規則は守って当たり前」で、それ以外の方向に意識を向けられる人が上位層を占めるようになります。
会社と自分の継続的な発展のために進んで創意工夫する人を増やし、その気がない人にはいづらい環境を作る。これがルールに基づいて現場を変えていくために必要なことだと思います。
ルールを増やして縛ろうとするより、なぜそのルールがあるのか、本質を理解する人を増やすほうが重要です。
そうではない人たちには、この会社にいてもチャンスはないことを示し、変化を促すか、他の道を選べるように出口を用意します。
職位にかかわらず、本質を理解し、ルールは守って当たり前と考える人ばかりになれば、組織は変わります。
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多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。 事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。