コラム

駐在員減員の代償…本社の関心低下が招く中国拠点の無法地帯化

2026年04月24日
中国駐在…変化への適応さもなくば健全な撤退

見出し画像駐在員の減員が進む時代、本社の関心が薄れた状態で現地化を進めるとどんな問題が起こるのか、実例を共有しつつ、健全な統治のために必要な措置を考えます。不正や利益流出、人材育成の破綻など、いったん崩れると立て直しには膨大な時間とコストがかかり、駐在員の削減で浮いた費用をはるかに上回るかもしれません。

毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
小島のnoteをこちらに転載しています。

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日本企業の大潮流

中国事業の格下げとコスト削減

近年、日本企業の大きな流れとして、中国事業の格下げがあります。今までは市場規模、ビジネスの将来性、チャンスの数などを考えて中国だけ特別扱いにしていたのを、他のエリアや事業セクターと同じ扱い、いわば本来の姿に戻すということです。アジア事業の一部にまとめたり、海外拠点全体と同列の管理に移行したり。

それからコスト削減。これは目下の事業環境を踏まえれば最優先です。

この二つの流れで最初に槍玉に上がるのは駐在員の数です。単価が高く、減らそうと思えば減らせます。代わりを担うのは現地社員。「現地のことはなるべく現地で」と言えば聞こえもいい。実際に多くの企業で、駐在員を減らして現地社員を登用する動きが出てきます。

事業環境を考えたら理解できる話です。しかし、これをそのまま実行すると間違いなく副作用が出ます。

現地拠点の生存機会を増やすために打った施策なのに、副作用を抑える対策をしなかったため、かえって拠点寿命を縮め、「なぜあの時に現地化を進めてしまったんだろう」と後悔することになったケースはたくさんあります。そこそこ利益を上げていた拠点や、何とかなるはずだった拠点までリセット・撤退せざるを得なくなった会社もずいぶん見てきました。

幸福な現地化はありえないのか

駐在員を減らして経営現地化を図るとどのようなことが起きるのか。早い会社では2010年代には現地化しています。製造業では最初からその前提で進出した会社もありました。こうしたところが5年、10年を経ていく中でどうなったか、すでに少なくない事例があります。

もちろん、問題の起きない幸福な現地化が絶対にないとは言いません。ただ、それを上回る数の不幸なケースが存在することは確かです。現地トップとの戦い、解任騒ぎ、拠点リセットなどいろいろとサポートして、私もだいたいのパターンが分かってきました。

現在、駐在員の削減と現地化を進めている会社は、今回の話は転ばぬ先の杖として読んでおいてください。10年後に「10年経ったけど、小島の指摘に反して我が社はこんなに発展しているぞ」「新しいケースとして学習教材にして」と連絡をもらえたら、それは会社にとって幸せなこと。ありがたく成功事例として学ばせていただきます。

駐在員減員と経営現地化 12の代償

駐在員を減らした拠点がどんな代償を払うことになるのか、典型的な流れを紹介します。

代償①現場・実務まで目が届かなくなっていく
駐在員の頭数が減り、兼任、兼務、複数拠点管理が増えれば、現場や実務の細かいところまで目が届かなくなる。絶対的な接触機会も減少する。

代償②現地情報が減っていく
駐在員からの報告が手薄になり、現地も細かなところまでは報告しなくなる。どの程度まで報告してほしいか、日本側の期待値とのギャップが広がる。結果、拠点の解像度が落ちて輪郭がぼやけていく。

代償③本社上層部の関心が減っていく
プロ野球でもテレビ放映が多い球団ほどたくさんのファンを獲得できるように、本社上層部も普段から情報がよく上がる拠点には関心を持つ。駐在員減で報告が少なくなった拠点は、上層部の関心が薄れる。

代償④現地の実質ボスの影響力拡大
駐在員の数とパワーが減ったため、現地社員への実務の依存度が高まる。駐在員に判断を求める機会が減り、実質的ボスに登用した現地社員が決定するようになれば、必然的にこの人に情報が集まり、影響力が拡大する。

代償⑤現地ボスの属人経営が加速
現地ボスの影響力拡大につれ、なし崩し的に本来の職責・権限の範囲を超えて実務を握るようになる。業務が属人化し、この人の力を借りないと動かないことが増える。

代償⑥駐在員・本社が現地ボスに依存
「この人がいないと回らない」「この人がいたらやってくれて便利」ということで、駐在員・本社がどんどん現地ボスに依存する。

代償⑦現地ボスが人事権を掌握
「誰をどこに置くか」「誰にどこまで任せるか」を現地ボスが仕切り出し、本来の設計や意図を超えて実質的な人事権を握る。

代償⑧現地ボスが決定権を掌握
現地ボスの判断で全てが決まるようになる。金額が大きい案件は日本側に最終的な決裁を仰がなければならないものの、駐在員や本社に代替案は出せないし、現地ボスを外して進めることもできないため、「ノー」が言えない。実質的な経営権を現地ボスが握り、駐在員や本社は管理が困難に。

代償⑨有望な人材がいつの間にか退職・窓際に
将来を嘱望していた人材がいつの間にか会社からいなくなる。現地ボスの支配を脅かしそうな人は冷遇されて退社していく。事前に報告が上がれば日本側もアクションを起こせるが、情報が入ってこないために後手に回る。

代償⑩本社に悪い噂や内部告発がポツポツ増加
悪い噂、内部告発、匿名の告発、ブラックレターなどが本社に舞い込み出す。明らかに問題が起こっていると分かるが、核心には触れず、本社は対策が取れない。現地ボスにフィードバックしても、告発されている当の本人のため効果なし。

代償⑪業績がはっきり悪化
業績悪化が顕著になる。売上は落ちていなくても利益率が落ちていく。現地幹部たちに会社の業績より自己利益という動きが目立つ。以前は日本側の介入を避けるために利益だけは数字を取り繕っていたが、それさえもしない末期段階。

代償⑫駐在員や本社に懐柔・恫喝・実力行使
駐在員や本社を取り込もうとする。不正利得の分け前をチラつかせたり、悪い遊びに引き込んだりして口止めを図る。日本側の動きに対して「じゃあそっちでやってください」「このまま放置しておくと現場がどうなるか分かりますよね」「何であんな調査をするのか」などと恫喝する。場合によっては現場を止めることも辞さず、対立姿勢を隠さない。

ブチ切れる前にできること

駐在コストは減らせても

ここまで来ると、本社や駐在員が我慢の限界を超える瞬間がやってきます。私が見たことがあるのは、「警察に通報して駐在員を連行させた(もちろん無実)」「完全に現地拠点を私物化し、それを人質に取って本社の経営層を脅した」などです。

いよいよ日本側がブチ切れて、もう見過ごせないとなって私が呼ばれます。ここで経緯を聞かされ、「何とかしてくれ」となるわけですね。前述の代償の数々は、この段階で聞く話をまとめたものです。

駐在員の削減を進めると、最初の段階で確かにコストは減ります。一人当たりどのぐらい減るかは会社によって違い、ざっくり1,500万円から5,000万円といったところでしょう。

経営が厳しい拠点にとっては大きな削減ですが、3〜5年も経つと、削減分を上回る金額が別の形で流出していきます。利益が出てなくても吸い取られ、本来なら現地に帰属すべき資金がどんどん蒸発していきます。

同時に、企業文化が壊れていきます。会社の将来を担うはずだった人材が去り、残るのは現地ボスのお気に入りばかり。部長、課長、係長、組長まで甘い汁を吸いたい人しかいない。企業文化はボロボロです。

これはダイエットで体重は減ったものの、筋量も減少したために代謝が悪化し、かえって健康状態が悪くなったという状況に似ています。

駐在員の減員も、最終的な目的は現地の健全な経営をなるべく長く続けるためだったはず。ここでマネジメントや統治の力が下がるようなやり方をしてしまうと、健康状態の悪化を招くダイエットと同じ道をたどります。

現在の事業環境において、駐在員削減・現地化が不可避であることは理解できますが、健全性を維持する対策を打ちながら進めていかないと、逆に拠点寿命を縮めます。コストを削減したつもりが本社の利益を損なうことのないように、くれぐれも気をつけて進めてください。

今日のひと言

駐在員を減らすなら健全性維持の施策を

駐在員を減らして浮いたコストの分、拠点の健全性維持のために投資をしてください。2,000万円のコストダウンになったとしたら、その半分で構いません。10分の1でもやれることはいろいろあります。せめてその程度の施策は打った方がいい。でないと、コストは下がったが費用対効果は悪化という事態になりかねません。

日本側が看過できなくなるところまで状況が深刻化してから後始末をしてきた人間が言うことですので、どうか経験者からの警告として受けとめてもらえたらと思います!

2026.04.24 note

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この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。