コラム
中国人上司も戸惑う「WeChat世代」との接し方…採用から戦力化まで【中国駐在】

中国のZ世代を私は「微信(WeChat)世代」と呼んでいます。この世代とどう接すればいいか、困惑している管理職の多いこと。日本人駐在員だけじゃなく中国人もです。今回は、会社で微信世代に活躍してもらうための工夫について、自社の経験からご紹介します。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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微信世代は難しい
中国人上司も戸惑っている
中国で95年以降に生まれた人たちを、私は勝手に微信世代と名付けました。「WeChat(微信)」というスーパーアプリが当たり前になった後の第一世代、いわゆるスマホネイティブ、SNSネイティブです。
この世代に対しては、日本人駐在員だけでなく、中国人上司も扱いに戸惑っているようです。距離感が難しい、コミュニケーションの線引きが違いすぎる、どう動機づけていいか分からない。メンタルが繊細すぎて「まさかこんなことで」という件で落ち込んでしまうという声もありました。
私の体験から
50代の日本人の中では、私は現地で若い世代と向き合った経験がかなり多い方だと思います。実際に戸惑ったことを挙げてみます。
①気分のアップダウンが激しい
いい感じで頑張っていると思ったら、急に「一切話しかけるな」モードに突入し、それが何か月も続く。感情の起伏が激しく、周りも腫れ物に触るように接してしまう。
②そんなふうに理解してたの!?
適性を考えて新しい業務を割り振ったところ、その時は「頑張ります」と言ったのに、ずいぶん経ってから「実はイヤだった」と言い出す。内心でダメ社員のレッテルを貼られたと思い込み(完全に誤解)、辞める前に恨み言をぶちまけられて唖然とする。
③「この席でないとつらいです」
新幹線や飛行機での移動時、先輩が仕事をしやすい席に座ろうとすると「私、真ん中の席はつらいです」。オフィスでも「陽の当たる側でないとダメ」「空調が効いていないと集中できない」と新人が好きな席を取り、先輩が譲る羽目に。
④「よろしくね!」「はい!」→翌日に大事件
私との1on1で目指す方向を話し合い、明るく「はい、分かりました!」と答えたその翌日、突如として会社に賠償を請求してきた。確かにこちらの事務的なミスだったが、話す機会はいくらでもあったのに、あの返事は何だったんだろう……と、私もショックを引きずった。
⑤「この会社は過保護」
先輩たちが相当気を遣っていたら、人事に「この会社は過保護」と捨て台詞を吐いて辞めていった。一同「どうすればいいんだ…」と呆然。
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こんなふうに、2017年から2023年までに採用した微信世代10人のうち、9人が2025年までに辞めてしまいました。採用も育成も失敗です。ベテランたちと集まっては、「我々の接し方に根本的な問題があるのでは」「微信世代とチームを組むことはできないのかも」「いっそ社内学校を作ってはどうか」とあれこれ話し合いを続けた、苦しい時期でした。
微信世代の採用から戦力化へ
ついに反転…何が変わったのか
結論から言うと、26年春現在、会社の過半数を微信世代が占めています。ほぼ定着して活躍しており、以前は先輩が引っ張っていた業務も、自立して回せるようになりました。何が変わったのかを紹介します。
変化①採用が変わった
中国の経済状況が一段と厳しくなり、新卒の採用が非常に絞られた。大学の就職イベントにブースを出すと、日系はうちだけ、外資系を入れても3社といった状況。日本語人材の就職先も激減し、その結果、二次面接、三次面接に来る応募者のレベルが格段に上がった。自分たちの努力の成果ではないものの、他社が採用を控える中で募集を続けてきたという意味では意識的な変化とも言える。
変化②採用を変えた
買い手市場となり、シビアに選考できるようになった。適性テストを導入するなど判断基準の精度を上げ、以前なら「とりあえず試してみようか」と採用していたような人は見送りに。また「何となくウチっぽい人」を採る傾向を改め、面接で合格基準を超えていれば毛色の違う人も意図的に入れるようにした。
変化③先輩たちの考え方・見方を変えた
「自分たちの価値観・考え方・仕事のやり方を標準として、そこから外れる若い人を『まだ仕事が分かっていない』と切り捨ててはいけない。微信世代が我々と違うのは彼らのせいではなく、育ってきた環境の変化が大きい。まず現状を否定せず受け入れよう。ただ、受け入れることと認めることは別。お客様のために変わってもらわなければならないところはある。でも、いきなりダメ出しはしないこと」。……先輩たちにこういう話を繰り返して、見方を変えるように促した。
変化④心理的安全性=居場所確保を最優先に
入ってきたばかりは手元の仕事も少なく、人間関係も会話の内容も分からず、いろいろ不安。意図的に柔らかい雰囲気を保つようにし、週次の育成ミーティングでは「ここを意識して声をかけよう」「この業務に引き込もう」とすり合わせ、新人の居場所を作るようにした。
変化⑤まずは持ち味・興味を活かす仕事に
いきなり挫折感・絶望感を味わわないよう、最初は本人の持ち味や興味を活かせる仕事を選んで与え、チームへの貢献を感じられるように配慮した。
変化⑥最初から徒弟制的な仕事には就けない
会員の相談対応のように、どんな球が飛んでくるか分からず、先輩から少しずつ教わるしかない領域に最初から放り込まない。昔はいきなり入れて徒弟制で鍛えていたが、新人はできることが少なく、自己肯定感がどんどん下がるのでやり方を変えた。
変化⑦無理に一人前の負荷を集めない
「暇にさせてはまずい」という思いがあっても、脈絡のない細切れ仕事ばかり振らないように気をつける。全体像が見えず、何のためにやるか分からない仕事が続くと精神的にきつい。手が空いていても無理して隙間を埋めず、仕事はなるべくかたまりで与える。
変化⑧先輩たちの接し方が変わった
微信世代が安心して力を発揮するようになると、日本語能力・論理性・分析力など、それぞれに優れたところが見えてきた。むしろ新人の方がうまくできる仕事もあると分かり、先輩たちが苦手にしてきた領域もカバーできるように。これで先輩たちの見方も「今の若者は理解できない」「気を使わなきゃいけなくて大変」から、「ここはすごい」「自分たちが助けられている」にシフトし、接し方に確信が持てるようになった。
変化⑨居場所→自己肯定感→徐々に挑戦
居場所ができて自己肯定感を得られるようになってから、徐々に徒弟制的なトレーニングが必要な領域や、抽象度の高い仕事、クリエイティブな業務に加えていくようにした。こうすることで、すぐに挫折したり先輩が過剰に気を使う事態は避けられ、意欲を持って取り組んでくれるような気がする。
変化⑩自分たちの世代を客観視する機会を作る
微信世代を表すキーワードには「辺界感」(他人と距離を取り、コンフォートゾーンを保つ)や、「冒犯」(相手を不快にさせることを恐れて何も言えなくなる)がある。先輩世代から見ると「何でも聞けばええやん」となるが、微信世代には微信世代なりの価値観がある。それを肯定も否定もせず、自分たちで世代間の違いや相互理解の方法を議論する場を設けるようにした。やや意外だったのは、こういう場では微信世代も自らを客観的に捉え、冷静に分析できること。自分たちが変化すべきポイントを見つける機会として利用している。
変化⑪一気に増えて居場所を作りやすくなった
微信世代を一気に増やし、社員の半数を占めるようになったことで、話し相手を見つけやすくなり、いいサイクルが回り始めた。「ウチっぽい」人に加えて、分析が得意な理系脳、独創的なアイデアを出す個性派、日本語レベルが異様に高い文化系……、さらに同じ微信世代でも学部卒から院卒、仕事経験者まで年齢の幅もあり、自分の居場所を選べる。これは少人数の採用を繰り返していたら分からなかったかもしれない。
ギャップを埋める工夫をすれば微信世代ともチームになれる
こうして微信世代が職場になじんでくると、いろいろなフィードバックも出るようになりました。「先輩の昔話や会社の歴史をもっと聞きたい」「社員旅行で車座で語り合ったのが楽しかった」などなど。「前職ではいつも気を使って疲れてしまい、自分は社会に適応できないかもしれないと思ったこともあったけど、DACに出会うための経験だったのかも」と言ってくれた人もいます。
先輩世代からの悲観的な言葉も出なくなりました。適切な人を選び、安心して仕事ができる環境を作り、お互いにギャップを埋める努力をしていけば大丈夫。ここ1年半、そう強く感じています。
今日のひと言
多文化混成の組織構築という原則は同じ
ジェネレーションギャップの埋め方も、多文化混成の組織づくりと原則は同じです。
インド人と中国人と日本人でチームを作る時、お互いのバックグラウンドを否定していたら進みません。まず相手の現状を受け入れ、居場所を作り、相互に自己肯定感を高めながら、チームが目指すべきことを確立していく。「この作業はZ世代だろうがY世代だろうが一緒だな」ということを、この数年で教えられました。
異文化の溝が埋められるなら、世代間ギャップも埋められるはず。これまで培った多文化混成チームづくりの技術はジェネレーションギャップ解消にも使えるし、逆もまた然りと感じています。
今回は私の経験から、微信世代採用の失敗談と、いろいろ試した結果、今までのチームとは違う活力とパワーを生む組織に変化しつつある現状をお伝えしました。皆さんのチームづくりに役立てばと思います。他の文化圏での経験や、中国での違った体験もぜひコメントで聞かせてください。
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この記事を書いた人
多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。