辞める時に本音を会社に話す中国人はいません。去る者は追わずというスタンスの経営者も少なからずいるでしょうが(私もです)、引き留めるかどうかに関わりなく、最近の中国の若者がどんなことを考えて日系企業を辞めるのか、現実から学べることは少なからずあります。
今回は、友人・同窓生などのルートで聞いてみた日系企業の中国人社員の本音を紹介します。
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社員が辞めた理由って、なかなか見えないですよね。もちろん、本人に聞いたり、後で人事から伝えられたりはするものの、それが本当に本音なのかは怪しいところです。
私の経験上、ほとんどの場合、誰も本当のことは言いません。アンケート調査のような形式で出てくるのはたいていキレイごとです。
そこで私たちは、友人や知人を頼りに、率直に話ができる関係の人たちから、「日系企業に勤めていて辞めた人」「辞めようと思ったが踏みとどまった人」のリアルな声を集めてみました。
「中国人は課長までしか昇進できない」といったガラスの天井にぶつかると、「自分はもう課長になってしまった。これ以上いても上に行くのは無理だな」と思います。こういう人たちは非日系企業に転職していきます。
それから、ポストはもう少し上まであるけれど、人が渋滞しているというパターン。部長は定年まであと2年、自分は部長よりも10歳下、2年待てば席が空く、というならいいんですけど、そうはいかない。上が詰まっていて、部長と課長の差が3年ぐらいしかないような会社は多いです。
そうすると、部長の定年を待ってたら自分も定年に近づいてしまいます。では部長がさらに昇進するかというと、上司の上司も安定していて辞めそうにない(またはガラスの天井)。あとどれだけ待てば自分にチャンスが巡ってくるかわからないと思って辞めたという人もいました。
人事制度に起因する硬直的な昇進・昇格も離職理由になります。よくあるのは「5等級から6等級に上がるためには、最低3年かかる」というようなルール(時に暗黙の)がある会社です。長いと4〜5年の場合もあります。
どんなに評価されたとしても、規定の年数は今の等級で経験を積まなければいけない。何年も待ってようやく一段上がると、その上に行くまでまた数年……。「自分のキャリアを考えると時間の無駄」「遅い」ということで辞めていきます。
最初からステップアップの踏み台にするつもりで入社したという人たちもいました。商社や貿易関係など、日本語だけでなく英語を使う機会がある業種で目立ちます。日系企業に勤務しながら英語も学び、自分の時間を使って英語の資格を取り、条件がそろったところで転職します。英語を武器にアメリカ系に移って、給料が倍になったという話も聞きました。
社内公用語が日本語の会社で、通訳として入社した人に多いケースです。こういう人たちはある程度の時間が経つと、「待てよ、30歳を過ぎて通訳しかやったことないとなったら潰しが効かないぞ」と危機感を覚えます。
他の専門性も身につけたいと上に相談しても、「通訳専従だから、まずは通訳を」と言われて機会が与えられない。日系の通訳業界という狭い世界でしか生きていけなくなるのはイヤということで、あまり在職年数が長くならないうちに見切りをつける人もいました。
「職場の人間関係」は、日本では必ず転職理由の上位に入ってきます。まぁ上司や同僚は相性もあるしね、という話になりがちなのですが、中国の場合は、職場の上下関係が転職の動機になったという声が多く聞かれました。
具体的なケースを見ると、これは単純に合う合わないで流さない方がいいのではという気がします。少し詳しく紹介します。
結局、上司の意思で修正させられる クリエイティブ系の仕事についていた人の話です。コンテンツ制作業界で、創造性を発揮する機会を求めて入社したのですが、何を提出しても最終的には上司の好みで修正させられると言っていました。結局は上司の使い勝手のいい駒であることが求められ、自主性や独創性を発揮する余地がなく、転職を決断しました。
退勤時間になって仕事を振られる 上司の管理がまずいケースです。残業が常態化していて、退勤時間になってから仕事を振られる。それも急に飛び込んできた仕事ではなく、前からわかっていることを5時半になってから振られるとなると、「付き合いきれん」となります。
仕事内容を嘲笑し、同僚にも広める ひと言で言えばパワハラです。若いうちはいろいろなミスをします。表現を間違えたり、お客さんに迷文メールを送ってしまったり。この会社では、上司や先輩がそれをずっとネタにして、ことあるごとに「コイツ、こんなことをやらかしたんだぜ」と周囲に笑いを求めるそうです。陰険ですね。 周りも自分がターゲットになるのがイヤで追従している。そういう職場のイジメ体質がアホらしくなって辞めたという人もいました。
他人と比較して批判する これも上司のパワハラ系。入社したばかりの頃は、新人の自分が模範として引き合いに出され、先輩たちが批判されていました。まだ何ができるわけでもないのに「お前も新人を見習ったらどうだ」とダシに使われて居心地が悪かった。 で、数年経って自分が先輩になったら立場が入れ替わり、今度は新しく入ってきた若手が持ち上げられ、自分がチクチクやられるようになったと。こんな上司の下ではやってられんと思って辞めたそうです。
よく規定違反な指示をする これ、日系企業の話ですよ。上司からルール違反の指示がしょっちゅうあり、それに対してノーと言えない。違反を強要され、訴える先もない。それでイヤになったという人もいました。
パワハラな仕事の振り方 強引に面倒くさい仕事だけを押しつけてくる。こちらの都合はまったく考えずに仕事を振ってきて、無理だと言っても「できないならクビだぞ」。この量の仕事をこんな短期間でできるわけないと周囲は同情してくれたが、上司のプレッシャーに耐え切れずに辞めた、と話してくれた人もいました。
どうでしょう。「職場の上下関係」というから「上司と折り合いが悪い」「自分を評価してくれない」という話かと思いきや、挙がったのはマネジメントの課題に関わるもっと多様な声でした。
片方の話しか聞いていないので、客観的に見たらどうなのかはわかりません。でもこれだけ大量に出てくるとなると、すべてが捏造あるいは被害妄想とは考えにくいですよね。
こうしたマネジメントの問題は、経営層や上司には見えないブラックボックスになっている可能性があります。気をつけた方がいいかもしれません。
これは昔からある理由です。顧客都合で会社が客先に近いところに移転したとか、中心部から郊外の開発区に移転したとかで、以前より通勤時間がかかるようになったという声がありました。
また、会社が非常に不便な場所にあるにもかかわらず通勤手段を提供していないことも理由に挙がりました。最初は何とかなると思ったけど、公共交通機関を乗り継いで片道1時間半、2時間というのはさすがに毎日はつらいと。気持ちはわかりますよね。
部門調整で業務が変わってしまった、前の仕事が好きだったのに、ということで辞める人もいました。
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この他に「公務員の受験準備のため」「もう経験を積んだので起業予定」という声もありました。
さて、ここまで読んで、気になっていることはありませんか。「給料の話が出てこないじゃないか」と。給料は国を問わず離職理由の上位に入るので、中国でもそれはそうだと思うんです。
今回予想外だったのは、昇給機会を求めて他を探すという人が意外に少なかったこと。現代的でなかなか興味深いところではありました。
採用難の時代に生き残るために、もし思い当たるところがあれば(特に⑤上下関係の問題)、日系企業はきちんと向き合った方がいいのではと思います。
辞めることを考えたことがない人たちではなく、考えたけど辞めなかったという人たちに、なぜ踏みとどまったかを聞いてみました。これも貴重な声で、なかなか聞く機会はないんじゃないかと思います。
転職しようと思って他社の求人を見て回ったところ、どこも自分の現状より待遇が低かったということです。
話してくれた人は、「自分の会社も待遇はそこそこと認識していた。もっといいところがあるんじゃないかと思って動いてみたら、他社の方が低かった」ということで納得し、引き続き勤務しています。
中国の民営企業で待遇がいいところは、漏れなく要求も厳しいです。給与は倍になるけど成果が出なければ即クビというシビアな企業文化。働く身としてはちょっとしんどい、これだったら日系の方がいいと思ったそうです。
求人広告ではよく「日本市場新規開拓のため」「日本向けの業務対応あり」などと謳っている現地企業を見かけますが、やはり日系企業に比べれば圧倒的に日本語を使う機会は少なくなります。
現地企業は基本的には中国語で仕事をしているわけで、せっかくここまで日本語を磨いてきたのに、自分のキャリアの強みを錆びつかせてしまうのは惜しい。だから待遇は魅力的だったけど日系企業に留まったという人もいました。
特に日系間の転職、とりわけ製造業などでは、管理職の中途入社を受け入れる人事制度上の仕組みが整っていません。例えば、他社で部長をやっていて、給料が25,000元だったとします。この人を採用する時、「じゃあ、部長格で25,000〜28,000元でどう?」とならない会社が結構あるんです。
私が知っている一番シビアなところは、採用時は全員1等級から再スタートです。これでは部長どころか課長、係長、組長レベルでも中途採用はしんどいのではと思います。仕組み上、25,000元の待遇を出せる等級に充てられない。会社にもよりますが、最も下の等級では下手したら月給4,000元以下からのスタートです。管理職まで務めた人がそこまでして転職したい会社はそうそうないでしょう。
それから、いったん日系という括りから外れてしまうと、また日系企業に戻ってキャリアを積み上げるのが難しくなるという傾向はあると思います。日系の採用では、日系→日系→中国国内系というキャリアの人と、ずっと日系間で転職している人がいると、確かに後者が優先されます。
せっかくここまで積み上げてきた日系でのキャリアが、いったん外に出ると、もう日系以外でしか通用しなくなってしまうかもしれない。それが惜しくて転職をやめた人たちもいました。
今回はいつもと少し毛色を変えて、生の声を集めてみました。日系企業を辞めた人たちの声、辞めようと思ったけど留まった人たちの声というのは、なかなか貴重でユニークな素材ではないかと思います。
彼らが話したことをうまく使ったら、潰していったら、逆張りしたら、自社が優位性を築くヒントにもなると感じました。それぞれに受け止めて活用してもらえたら嬉しいです。
2024.11.15 note https://note.com/daocrew/n/n7aa5478c6e20
2024.11.15 note
https://note.com/daocrew/n/n7aa5478c6e20
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多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。 事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。