コラム
日本企業が無視し続ける人事制度の本質
今回は日本だけでなく海外拠点にも通じる問題提起です。同じような話は過去に何回もしてきました。今後もしつこく繰り返す予定です。
なぜなら、他の人が誰も言わないから。そして、本質をつかまずに評価制度や人事制度が本来の効果を生むことはないからです。
日本で人事制度というと、ジョブ型とか新卒処遇の弾力化とか、仕組みをいじることばかり注目され、最も重要な「活用」が盲点になっています。そもそも制度を構築し運用する目的は何なのか。費用対効果は追求できているのか。今回はそんな日本の人事制度の問題点を取り上げます。
小島のnoteをこちらに転載しています。
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あるべき人事制度とは
会社の持続的発展に寄与する制度
最初に「あるべき人事制度」の姿を考えてみます。人事制度にはいろいろな機能がありますが、枝葉末節を全部取っ払って、「何のために会社は人事制度を運用するのか」を突き詰めれば、究極的には「会社の持続的発展に寄与するため」です。
逆に言うと、会社の持続的発展に不要だったら人事制度はなくてもいい。しかし、普通は会社の持続的発展には組織・人材の持続的発展が必要なので、それを支える人事制度も必要になります。
いい人事制度とは、制度の存在によってチームや社員が挑戦・成長・貢献するようになるものです。これが人事制度のあるべき姿なのに、なぜそうならないんでしょうか。
根本は経営者が本質を理解・追求していないから
「いや、うちの人事制度はそうなってるよ」という人は、この先を読む必要はありません。もう全部できているはずです。「そんな制度なんてあるわけない」と感じるなら、なぜそうなのか、考えてみてください。
辛口になりますが、根本的な原因はハッキリしています。人事制度の本質を経営者が理解も追求もしていないからです。作った後、何も手を打たない。経営者が口を出すのは処遇の分配や人件費のコントロールだけ。後は人事部門に運用を任せてしまっています。
経営者は、今ある人事制度が会社の持続的な発展に貢献しているか、あらゆる観点から常に問い続けていかなければなりません。これができていないと、「人事制度で組織が成長するとか、無理でしょ」と思ってしまう。私を含めたリーダー・経営者が反省すべき点です。
今回は人事制度の本質に関わる問題の一つ、「なぜ評価が年に2回なのか」に焦点を当てたいと思います。
なぜ評価は年2回なのか
年2回の問題点
多くの会社では、評価は年に2回または1回です。年1回もない会社も、3回以上の会社も少数派でしょう。当然、評価結果を本人に伝えるのも年に2回か1回です。
私は声を大にして言いたい。「年に2回の評価やフィードバックで人が育つか!」
主任クラスや一般担当クラスなど、評価者1人に対して約10人の部下がいるとします。評価が年に2回だとどういう状態になるでしょうか。
①評価者が評価表を覚えていない
部下はそれぞれに目標設定などをしますから、評価の基準も異なり、評価表も違います。年2回しか使わない評価表を、上司が覚えていられますか。私が被評価者として経験した現場では、どの上司も全然覚えていませんでした。半年に1回しか取り出さない程度の重要性ではとても無理です。
②評価者が部下の言動を覚えていない
年2回の評価では、1回で半年分の働きぶりを評価します。でも、部下10人それぞれの半年前の言動や状態なんて、よほど特殊な人でない限り覚えているわけがありません。
私も今ここで「6か月前・4か月前、みんながそれぞれどんな状態だったか教えて」と言われたら、絶対に思い出せない自信があります。相当大きな事件があればともかく、結局、半年分の評価といっても直近の印象だけでつけるのが実態です。
③部下も評価表など覚えていない
部下も同じです。上司が覚えていない評価表など覚えていません。半年に1回の評価頻度では、評価表を意識しながら「次の成長ステップを刻んでいこう」なんて考えたこともないと思います。
④部下も自分の言動を覚えていない
当然、部下も半年前の自分の言動は覚えていません。
記憶・意識に残る評価制度とは?
半年に一度では定着しない
こんな状態でつけた評価が部下に響くでしょうか。被評価者としての経験からも断言できます。年2回の評価で「よかった!」「くやしいな」「もっと頑張ろう」と気持ちが揺さぶられることはほぼありません。
評価を受けて、「もっとこうすればよかった」「ここは認めてもらえた。次はもっと頑張ろう」という思いが生まれなければ、「次はこうしよう」ということもない。これでは人事制度を運用しても、部下の意識や行動は変わりません。
逆に、何度も言われたことは腑に落ちます。
子供時代の習い事を思い出してみてください。珠算や書道、水泳など、どのくらいの頻度で通いましたか。どんなに間延びしても1か月より長く行かなかったことはないでしょう。普通の習い事だったら毎週フィードバックがあります。
私も珠算などの習い事をやってましたし、子供にもいくつか行かせました。どんなことも1か月に1回ではなかなか上達しません。せめて週1回は通って、先生に何度も直してもらううちに、だんだん言われたことが定着していきます。
語学学習やダイエットもそうです。中国語や英語を勉強している人は容易に想像がつくと思います。半年に1回や2回のフィードバックで外国語を習得するのはかなりの難度。ダイエットだって、半年に1回「もうちょっと頑張りましょう」と言われたからって日常行動は変わりません。習慣づけのために毎日フィードバックしているジムもあるくらいです。
つまり、どんな領域であっても、半年に1回程度のフィードバックでは定着しないということです。
目指せ週に一度、困難なら月に一度
仕事の話に戻ります。どの程度の頻度で評価を行えば、効果が期待できるのか。ここまで見てきたように、目指すのは週に1回です。
ただ、毎週評価する、毎週フィードバックするというのは厳しいでしょう。まずは「毎週1回は部下の観察メモを書く」ところからです。
書くことは観察メモなので何でもOK。「落ち着いて仕事に取り組んでいた」「今週はちょっと元気がなかった」「○○について指導したので、来週は意識して取り組んでほしい」…ポジティブ、ネガティブ、ニュートラル、何でもかまいません。観察メモですから。
メモをつけ始めると、観察する必要が生じます。状況把握しなければ書くことがありません。書き始めると「先週指導したこと、ちゃんと改善できているかな」「何回か気になってメモしたこと、今週は声をかけて改善指示しておこうか」と、フォローやフィードバックすることが出てきます。
なので、まずは毎週「観察メモ」をつけることから。他の習い事と同様、週1回がレベルを保てるサイクルだと思います。
毎週が難しいなら、妥協に妥協を重ねて月1回。でも、10人の部下がいて、この1か月の状態や出来事や指導内容や肯定・評価したいことを思い出してメモに書けますか。記憶の点でも手間の点でも、月1回はむしろ週1回より難しいんじゃないかと思います。やはり原則は週1回というのが私の本音であり結論です。
無理だよ?→解決策はある
「そんなの無理」ですか? 大丈夫、私たちが伴走するクライアントでもDAC自身でも実際に週次メモに取り組んでいます。「週1回にしておいてよかった」と言ってもらえることもあります。
部下に「聞いてません」と言われた時に、「いやいや、5月の2週目にこういうやりとりをしたよね」とフィードバックできると、相手は衝撃を受け、もう適当に流すことはできないと理解します。その積み重ねにより、上司の話を真剣に聞いて行動に移さないとまずい、と意識が徐々に変わり、行動も変化していきます。
フィードバックはできれば週に1回。そのために週次で観察メモを取る。継続するためのコツやガイドもありますので、ぜひ、メンバーが本気で挑戦・成長・貢献しだす制度活用を始めてみてください!
今日のひと言
年2回で人が育つと思う方がおかしい
人事制度でも習い事でも、半年に1回のフィードバックで人間の考え方や行動が変わることはありません。
やや辛口ですが、年に2回の評価やフィードバックで人が育つと思う方がおかしいというのが、今回の結論です。
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この記事を書いた人

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。