コラム

時代変化に適応する駐在員…アイドル化を果たした社長

2019年06月26日
日本流が通用しない時代の組織経営

年が改まりました。今年から来年にかけての日本は大きな節目を迎えますね。まずは今年五月の新天皇即位。元号も新しくなります。前回の新元号発表をテレビで見た記憶が強く残っていますので、あれから三十年も経ったのかと思うと、感慨深いです。九月にはラグビーのワールドカップを開催。開催国に選ばれることはサッカー以上に名誉なことだと伺いました。アジア初です。そして来年は東京オリンピックが待っています。

普通、このようなことは「日本が世界から注目される大きな機会ですね」といった明るいトーンで締めるのでしょうが、自分が書いていて思ったのは「これだけ不確実性・不安定性が高まる国際情勢のなかで、盛り上がって無事に終えられたら幸せなことだな」でした。一経営者としては、逆境でも最悪の事態でも生き抜く備えをしておかなければなりませんが、毎年、想定すべき事態のシビアさは増していると思います(ありがたいことに、独立してからずっと事業は拡大していますが、これをひっくり返すような外部環境の大きな変化は起こり得ます)。

訓練で厳しくするのは戦場で命を落とさせないため、と言います。解決策や出口はあるという前提で、今年も辛口な発言や執筆を進めたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 

前回はカルロス・ゴーン氏の話をはさみましたが、厳しい改革を進めるためには、まず従業員たちに親近感を持ってもらう必要がある、という話を書いていました。意外なようですが、従業員との直接コミュニケーションの機会が少ない大組織のトップほど、実は親近感を持ってもらう上では有利です。私は「現場の皆さんのアイドルになりましょう」と助言しています。実際、完全アウェー状態から現地経営を担うことになった経営者が、各工場の現場を回って、とにかく笑顔で声をかけることを続けてみました。そして数か月後。

小「この数か月、現地での滞在期間が短くても、工場には必ず足を運んで、現場を回られていたと聞きました」

社「まぁね。毎回、全工場を回ることはできていないけれど、一つは回るようにしている。といっても短いときは三十分程度だけど」

小「限られた時間のなかで、ここまでしていれば充分です。何か変化はありましたか」

社「劇的な変化はないけれど、何回も行っていると、みんな顔を覚えるから、あ、また来てる、みたいな感じにはなるよね。そんで、笑顔で声かけてくれる人たちも、ちょっと出てきたよ」

小「いいですね。確実にアイドル化しています(笑)。そういえば、今年は忘年会を復活させるって聞きました。業績不振で何年かやってなかったんですよね。忘年会のステージで、ぜひ駐在員バンドか独唱を現地語で披露してください。アイドル化の仕上げです♪」

社「えー、俺そういうの苦手なんだよな〜。パスしちゃダメ?」

私は、この社長さんがしらふでは面倒くさがって逃げ回るものの、軽くお酒が入るとスイッチが入ることを知っていました。実際、忘年会のステージで、マイクパフォーマンスから独唱、果てはアドリブで出し物に絡んだりして大盛り上がりとなりました。

この現地法人は、翌年から三年間、過去最高業績を更新しました。一年目の前半には改革に反発する一部従業員たちが労務問題を起こしたものの、大多数の従業員は彼らの煽動に乗らず、結局は経営者の毅然とした姿勢を社内に示す効果だけが残りました。

V字回復にはいろいろな要因がありましたが、少なくとも、現場の従業員たちが新社長に反感や反発を覚えていたら、成し遂げられなかったと思います。親近感を得ることは、やはり非常に大切です。

2019.01 Jin誌

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。