コラム

時代変化に適応する駐在員…リーダー術 孫子勒兵2

2020年06月04日
日本流が通用しない時代の組織経営

日本では新型コロナの感染拡大抑止がヤマ場を迎え、「人との接触8割減」に向けてテレワークの導入が進みました。ただ、テレワーク導入率の調査結果を見ると、3月下旬の東京商工会議所の23区内調査(回答企業数1333社)で26%、3月末の厚生労働省の全国調査(回答者数2400万人)で5.6%でした。一桁というのは私にとって想定外の数字です。

導入できない理由は主に二つで、「IT面の環境が整備できていない」と「テレワークが困難な業務」。もちろん、工場作業やスーパーの店内業務のように移行が困難な業種や職種、直ちに端末やセキュリティを確保できない企業もあるでしょう。でも、企業の四分の三が未導入(=どの職種でも導入していない)で、94%の人が移行できない合理的な理由にはならないように思います。

やはり、経営者の状況認識や考え方に問題があるケースも相当あるのではないでしょうか。人材コンサルタントの方からこっそり聞いた話では、「高齢の経営者が長年の習慣で当たり前のように出社してくるため、社員も出社せざるを得ない。テレワークの話を提起できるような雰囲気ではない。そんな中小企業がごろごろしていて唖然とする」そうです。

すでに正常出社できる環境が整いつつある中国のコラムで、テレワークを取り上げたのは理由があります。複数拠点を統括する経営者や、出張の多いチームを束ねる管理者にとっても、リモート・マネジメント、リモート・チームワークは日常の課題だからです。

毎日顔を合わせられないメンバーをどうマネジメントするか、どうチームワークを発揮させるか。こういう課題をクリアしてきたリーダーとチームは、テレワークを余儀なくされる事態になっても短期間で適応し、士気や生産性を落とさず仕事を継続できるはず。一方、社員や家族、地域社会の生死に関わるような事態でさえも、「テレワークなんてウチには無理」で思考放棄したり、そもそも導入する気さえなかったりする経営者は、厳しい言い方をすると次の時代に生き残れないのではないかと思います。環境変化を嗅ぎ分ける「経営生存本能」や環境変化への適応能力に欠けるためです。

駐在員の皆さんにも、そんな目でテレワークに関する日本の様子や事例を眺めていただけたらと思います。そして、使えることは、自身のリモート・マネジメントやリモート・チームワークで試してみてください。

半ば嫌がらせで呉王・闔閭から「宮中の婦女に軍の訓練を行って見せてくれ」と言われた孫武は、「軍紀に基づく訓練でしょうか」と静かに訊いた。闔閭は「そうだ」と応じ、180人の女性が広場に集められた。孫武は彼らを二隊に分け、闔閭の寵姫二人が隊長に選ばれた。矛を渡された女性たちを前に孫武は告げた。「前後左右はわかるか」「わかります」。「 前といえば前を、左といえば左を、右といえば右を、後ろといえば後ろをみよ」「わかりました」。

孫武は、指示動作と規律について伝えた後、鉄斧を地に立て、それを指しながら「これは軍法に基づく訓練である」と宣言し、何度も動作・規律を確認した。それから鼓を打って「右」と指示すると、女性たちから大きな笑いが起きた。孫武は「命令が不明確で徹底せざるは、将の罪なり」と言い、さらに何度も指示を繰り返してから、鼓を打って「左」と指示した。女性たちから再び大きな笑いが起き、様子を見ていた国王や大臣からも失笑が漏れた。

●駐在員が求められる役割を発揮するために必要なこと
①脱落しない
②バカにされない
③親近感を持たれる
④信頼・尊敬される
⑤後任者にしっかりつなぐ

●相互信頼・尊敬のために
□リーダーの実力を示す
□現場に寄り添う

2020.05 Jin誌

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。