コラム

時代変化に適応する駐在員…リーダー術 大義名分を決める

2020年08月29日
日本流が通用しない時代の組織経営

新型コロナの問題が深刻化して以来、中国に駐在員が赴任できないというのは、企業にとって切実な問題でした。現在、これは徐々に解消しつつあります。特別承認、現地入りする手段、指定宿泊施設での隔離期間、PCR検査、帯同者……など各種の課題はありますが、しばらく現地へ行ったきりで構わない前提であれば、何とかなるという感じになってきました。

困るのは、行ったきりにはできない皆さん。非駐在の役員や多拠点を統括する責任者、技術支援者などです。特に他拠点・事業にも責任を持つ皆さんは、行って二週間の隔離、それから仕事、戻ってから二週間の隔離……では仕事にならないため、ビザやフライトの問題だけでなく、各国の隔離期間が短縮されない限り、往来再開は難しいでしょう。結局、これはワクチン・治療法・抗体証明制度などの確立を待つ必要がある、という意味になります。

実は私も同じです。行って帰って四週間の隔離では仕事にならないため、社内では一年間は互いに会えない前提で仕事を進めています。そこで始めた新たな試みの一つがオンラインのセミナー。どうせやるなら思い切ってやろうということで、毎週開催にしました。参加していただきやすい時間を思案して、逆転の発想でお昼時間に。短時間ワンテーマでやっています。

これは、実地の活動ができないため必要に迫られて始めた代替策でしたが、やってみるとオンラインならではの利点の大きさを発見。これは「代替策」などではなく「新たな中核活動」であると認識を改めました。

利点はたくさんありますが、一番は「開催場所による制限がない」こと。オンラインで山東省の小都市やミャンマーから、また育休中に自宅から参加いただく方もありますが、実地に開催していたら、こういう皆さんに参加いただくことは困難でした。天津の皆さん向けに天津で開催する場合だって、会社から会場への移動はハードルになり得ます。オンラインならどこにいても参加できますし、前後の時間も自由に使えます。

録画しやすくなったため、実施後に動画公開できるようになりました。これで皆さんの時間の制約も解消。私やスタッフが現地に行く必要も、会場押さえの問題も消滅しましたので、毎週という頻度が可能になりました。

現地に行けない、リモートを余儀なくされるというのは、従来の活動にとって大きな制約かもしれませんが、従来とは異なる発想で異なるやり方を始めたら、むしろブレークスルーや劇的加速の機会になるかもしれません。少なくとも私は、これを実感しています。

 

任期の限られた駐在員にとっては、リーダー道よりリーダー術。次に挙げるのは「大義名分に本気を見せる」です。

ここでいう大義名分とは、社員たちが反論できず「それはそうだ」と感じるような原則や理由です。例えば「正直者がバカを見ない環境にしたい」「頑張った人が正当に報われない組織は嫌だ」「意欲と準備のある人が、やり甲斐ある仕事に挑戦できるようにしたい」など。これらに「それはおかしい」「私たちは納得できない」と反感や不満を抱く社員はまずいないでしょう。リーダーは親近感を持たれるというステップ③をクリアしながら、いずれ掲げる大義名分を決めてください(新任時にいきなり掲げるのは時期尚早)。難しく考える必要はありません。困ったら私の挙げたどれかを選んでも構いません。

駐在員が求められる役割を発揮するために必要なこと
①脱落しない
②バカにされない
③親近感を持たれる
④信頼・尊敬される
⑤後任者にしっかりつなぐ

●相互信頼・尊敬のために
□リーダーの実力を示す
□現場に寄り添う
□一罰百戒を使いこなす
□大義名分に本気を見せる

2020.08 Jin誌

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。