コラム

駐在員の代替わりは大きな大きな課題

2022年02月17日
日本流が通用しない時代の組織経営

皆さん、サッカーの欧州選手権(UEFA EURO 2020……新型コロナで一年延期されたため今年開催)は観戦していますか。アジアだと試合時間が真夜中ではありますが、日本では味わえない、中国にいることの恩恵をフルに感じられる機会ですから、ぜひ楽しんでくださいね。

サッカーファンなら私のような生かじりが説明するまでもなく、ワールドカップと並ぶビッグイベント。欧州の各国代表がぶつかりあう試合ばかりですから、どの試合もレベルが高い。世界中の「球迷」が視聴します。今回は25億ユーロ(約3300億円)を超える総収入が見込まれ、毎試合平均3億人近い人たちが視聴するそうです。四年に一度の大祭典ですね。

さてこのビッグイベント、日本では味わえないと書きましたが、放送するのはWOWOWのみ。民放・地上波はゼロです。一部のコアなファン以外は蚊帳の外。結果を見ています。

一方、中国ではCCTVが全試合を中継、スマホアプリで自由に観られます。そしてこのスマホアプリの評判が高い。通常のアングルに加えて、プレーヤーを追うカメラ、サイドからのカメラ、ゴールからのカメラを切り替えられる。中央電視台のアプリなのに、コメントの弾幕表示もできる。同時キックオフの他試合の状況も一つの画面で確認可能。自分が見たい試合を予約しておくと、放送開始前にリマインドしてくれる。これが完全無料で広告なし。……この差に溜め息をつきたくなるってもんです。この号が配本されるころ、欧州選手権はヤマ場を迎えていますので、ぜひ皆さんアプリを試してみてください。ライブだけじゃなくて録画もありますので、夜中に見る必要はありません♪

なお、放送だけでなくオフィシャルスポンサーにも格差が表れています。12のスポンサーのうち4ブランドが中国勢。日本はゼロ。自国開催や自国チームも参加するイベントではなく、大きいとはいえ欧州ローカルのイベントでこれだけの存在感を示す中国は、やはりアジア時代の中心だと痛感させられます。

さて前回、「モグラ叩きの労務管理を卒業する」をテーマにしてみたいと書きました。これを取り上げる上で避けられない大きな課題があります。それは「駐在者の代替わり」です。

後任者になって改革が壊れるのを見る苦痛

ある代の経営者・リーダーが腹を括って問題児たちを平定し、改革に成功したのに、後任者の代でゼロ以下に戻ってしまう……という光景、私は何度も見てきました。しかも、こういう後任者は私たちを遠ざけたり軽視したりするので、何もできないことが多い。組織がどんどん壊れていくのを、ただ離れて見ているだけというのは、本当に悔しいものがあります。

前任者は、帰任してしまえば次の仕事が待っていますから、いつまでも前の赴任地に関心を持たないし、情報も入ってこない。そういう意味では、いちばん悔しさや徒労感に襲われるのは、現地で改革に積極参加した社員の皆さんと私たちだと思います。

対価をいただいて仕事として手がけているとは言え、組織改革は斬るか斬られるか、どちらが倒れるかといったシビアな戦いです。私たちも神経をすり減らし、心理戦で読みを尽くし、途中で不安や焦燥感に駆られるプロジェクトの皆さんを鼓舞したり、慰めたり、時には叱咤激励したりしながら進めます。状況変化に応じてリスクを洗い出し直し、最悪のケースを想定しつつ、その中でどうお客さまの正当な利益を守護するか考える日々が続きます。正直、いただく費用以外に、お客さまの達成感・手応え・謝意や、明らかに活力の増した組織の様子といった「副収入」がなければ割に合いません。

だからこそ、身を削って成し遂げた改革が壊れていくのを見る苦痛は、非常に大きいのです。

2021.07 Jin誌

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。