コラム

時代変化に適応する駐在員…リーダー術 現場に寄り添う

2019年11月19日
日本流が通用しない時代の組織経営

さて、一四七回(2019年7月号)で弊社の天津オフィスが入居しているオフィスビルに小藍杯(Luckin coffee)がオープンしたと書きました。こんな小スペースに出店するなんて商圏をどう設定しているのか、キャッシュが潤沢なうちに面を広げようと無理な展開を急いでいるんじゃないか……と経営の観点から興味津々で観察してきました。

しばらくして、彼らには冷静な狙いや勝算があるのではないかと感じるようになりました。これは「ワンオペ(一人の従業員にすべての作業を行わせること)」を徹底的に追求した店舗だったのです。

まず、この店舗は専用アプリからの注文と支払いしかできません(ものすごい選択と集中ですね)。アプリを使って先にオーダーしておくと、店に着いたときには出来上がっていて便利というのは社員から聞いて知っていましたが、あるとき店に着いてから注文しようとしたら、目の前の店員さんに「アプリから注文してね」と言われました。これで注文を取る作業はゼロに。支払いはアプリの注文時に終わっているため、店では現金の授受や管理、電子マネーによる支払い対応などの作業もゼロ。受け取りの間違いやトラブルを防ぐため、商品を受け取る際は、客自身がアプリのオーダー画面を備え付けの端末でスキャンして完了。テイクアウト専用でカウンター席も用意していないため、店内サービスも不要。ワンオペ店員の仕事は、ほとんどオーダーに基づく商品準備作業のみ。日本で問題になった「人手不足による非人間的ワンオペ」ではなく、「最初から合理性を追求したワンオペ」だったのです。

どうも、「サードプレイス(自宅と職場や学校以外に、立ち寄ったり寛いだりできる第三の場所)」をコンセプトにしているスターバックスとは異なるポジションを取りにいくべく、スタバが入らないような中小規模のオフィスビルに軽量級の店舗を出しているようです。飲むのはセカンドプレイス(職場)でよろしく、という割り切りで。こういう戦略の「絞り」はなかなかできないことなので、ブームに乗ってイケイケどんどん系?と斜めに見ていた小藍杯を見直しているところです。

 

中国で相互信頼・尊敬を得るためには、まずリーダーとしての実力示さなければならない。実力とは「食わせてくれる(ついて行ったらいいことがある)」力である。ただ、豪腕でも部下に「ついて行けない」と思われたらリーダーの座から転げ落ちる。こう書いてきました。優しくても力がなければ認められない。力があっても人望がなければついて来ない。なかなか難しいところです。

王道は、仕事の実力と人間力の両方を磨く、ということなのですが、駐在員の任期は限られていて、じっくり構えている余裕はありません。そこで活用すべきが「リーダー術」。リーダー道というと、時間をかけて道を究めていく感じですが、術はもっとテクニカルな話。明日から実行できる方法です。中国の故事からいくつか例を挙げて学んでみましょう。

人間的には最低でも部下の信頼を得た呉起

人間力ではなくテクニックで部下の信頼を得た顕著な事例といえば、私は真っ先に呉起を思い浮かべます。日本では兵法と言えば「孫子」ですが、中国では「孫呉」という表現もあるほど、孫子(孫武)と並び称される大兵法家です。ただこの人、人間的にはゲスと言いたくなるような人でした……。

●駐在員が求められる役割を発揮するために必要なこと
①脱落しない
②バカにされない
③親近感を持たれる
④信頼・尊敬される
⑤後任者にしっかりつなぐ

●相互信頼・尊敬のために
□リーダーの実力を示す
□現場に寄り添う

2019.11 Jin誌

この記事を書いた人

小島 庄司Shoji Kojima

多文化混成組織の支援家、Dao and Crew 船長。
事業環境のシビアさでは「世界最高峰」と言われる中国で、日系企業のリスク管理や解決困難な問題対応を 15 年以上手がけ、現地で「野戦病院」「駆け込み寺」と称される。国籍・言葉・個性のバラバラなメンバーが集まるチームは強いし楽しい!を国内外で伝える日々。